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「今ここ」に集中するとはどういうことか?

ここ10年くらい、「今ここ」という言葉がよく聞かれるようになっている。その牽引役はマインドフルネスだろう。また、『嫌われる勇気』が大ヒットとなったアドラー心理学もまた「今ここ」を重視している。

そして僕が行っているインプロ(即興演劇)もまた「今ここ」を重視している。そもそも「即興」を意味する

Improvisation

という英単語の語源は「Im(~でない) + pro(前もって) + visation(見ること)」であり、まとめると「前もって見ることをしない」。つまり「今ここ」に集中することを多分に含んでいるものである。

しかし、「今ここ」に集中するとは実際にどういうことかはなかなか分かりづらい。そこで、この記事では「今ここ」に集中するとはどういうことか、なぜ「今ここ」が重要視されているのかについて簡単にまとめてみたい。


「今ここ」に集中するとは思考から抜け出ることである

簡単に言えば、「今ここ」に集中するとは「思考」から抜け出し、「現実」や「身体」に意識を向けることである。

「今ここ」でない「過去・未来・どこか」にいる状態は、全て思考によって生み出されている(いわゆる考え事をしている状態)。反対に、現実や身体は今ここにしか存在しない。だから思考から抜け出し、そこに意識を向けると人は「今ここ」にいることができるのである。

「現実」とは五感を通して皮膚の外で見えるもの・聞こえるもの・感じられるものである。

「身体」とは皮膚の内側で感じられるもの(感情や直感を含む)である。

マインドフルネスではこれらのものに意識(気づき)を向ける。そうすると人は「今ここ」にいることができる。

※「思考」「現実」「身体」という分け方は、ゲシュタルト療法の気づきの3領域を参考にしている。ゲシュタルト療法もまた「今ここ」を重視するものである。

なぜ「今ここ」に集中することが重要視されているのか?

では、なぜ「今ここ」に集中することが重要視されているのだろうか?これも簡単に言えば、「現代人の不安が減る」からである。

人の悩みは全て思考が生み出している。現実はただ現実として存在しているだけだし、身体に快・不快はあるが、それはその時のものであって、悩みではない。

思考から抜け出し「今ここ」に集中することは、悩むことをやめ、不安を軽減する効果がある。マインドフルネスは「ストレス低減法」とつけられることがあるが、それはまさにこの理由である。

また、「今ここ」にいると存在感やつながりを感じることができる(これは実際に体験してもらうのが一番だ)。俳優は「今ここ」にいる訓練をするが、それは存在感やつながりが大事な俳優にとっては当たり前のことと言える。

重要なのはバランスである。

このように書くと、思考に入ることが悪いことのように思われるかもしれない。しかし、そういうわけではない。思考は人間が進化できた大きな理由のひとつである。

問題は、思考に「偏る」ことである。思考に偏ると、人は不安が増したり、行動できなくなったりする。同様に、偏ることの問題は「身体」「現実」でも起きる。

例えば身体に偏る人は、現実が見えなくなったり、思考できなくなったりするので、社会からズレてしまいやすい。(ある種の瞑想をしている人の中には実際こうなっている人もいると感じる。)

また、現実だけに偏る人は、思考ができなかったり、身体(特に感情)が分からなくなってしまうので、反応するだけの人になりやすい。こういう人は「自分の頭で考えよう」とか「自分の気持を大事に」と言われたりする。

重要なのは、バランスを取っていくことである。とはいえ、現代人のほとんどは思考に偏っているので、「今ここ」に集中することが重要である可能性が高いのは事実である。

気づきを高速でまわしていく

バランスを取るというと「全てを同時に」と捉える人もいるかもしれないが、そうではない。人の気づきは1箇所ずつにしか置くことができない。だから実際にやることは「同時に気づく」ではなく、「気づきを高速で回していく」である。

これはスポーツで考えると分かりやすい。テニスプレイヤーはまずボールという現実を見て、それに対して直感的に身体を動かす。そして時々「このボールは手前に落とそう」と思考したりして、プレーを進めていく。

これはあまりに早いため同時に行っているように見えるが、実際には高速でまわしている。だからボールを見すぎると動けなくなるし、動きすぎているとボールが見えなくなるし、考えているとどちらもできなくなる、ということが起こる。

僕が行っているインプロもそういうものである。まずは相手を見て聞く。そこから出てきた直感に従って動いたりセリフを言ったりする。そして時々「このシーンの主人公は誰だろう?」と思考したりして、シーンを進めていく。

インプロをやっていると「頭の回転が早いですね」と言われることがあるが、そうではない。むしろ思考していると動けなくなるので、思考は時々に抑えて、基本は現実や身体に従っているというのが実際である。

現実と身体思考のバランスには、人によって癖がある。僕は思考がとても強く、次に身体があり、現実が少ないタイプである。そのことよって、不安が生まれたり、ズレが生まれたりしやすい。だから普段から現実を見ることを心がけている。しかし人によってはもっと身体に従ったほうがいい人もいるし(日本人はむしろこちらが多いかも)、もっと思考したほうがいい人も稀にはいる。

今ここを学ぶことはバランスについて学ぶことである。そしてインプロを学ぶことは、このバランスを学ぶのにとてもいいものだと僕は思っている。

インプロに興味のある方はインプロ体験会へどうぞ。

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