朗読教室ウツクシキ

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朗読教室ウツクシキ

少し変わった朗読会と朗読教室を企画・開催しています。ギャラリーや美術館で開催したり、古い建物や特別な空間で行ったり、時には森の中で自由に歩きながら読んでみたり。言葉や物語が空間に立ち上がるお手伝いをしています。 http://utukusiki.com

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  • 朗読テキストを考える

    朗読教室ウツクシキでは、教室で使用するテキストを月代わりで選んでいきます。 ・宮沢賢治コース:宮沢賢治の作品を、毎月ひとつづつご紹介します ・ブンガクコース:一人の作家の一作品を取り上げ、作家の生涯とともにご紹介します ・アーカイブコース:このnote「朗読テキストを考える」からお選びいただきます ・初めてコース:朗読が初めて、朗読教室が初めてという方はまずこちらから 教室で扱うテキストについて、選んだ理由や考えたことなどをご紹介していきます。 朗読教室ウツクシキ  http://utukusiki.com/class/

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最近の記事

『若菜集』より「春の歌」(島崎藤村)

たれかおもはん鶯の 涙もこほる冬の日に 若き命は春の夜の 花にうつろふ夢の間と あゝよしさらば美酒(うまざけ)に うたひあかさん春の夜を 詩集『若菜集』は島崎藤村の最初の詩集です。明治29年頃、24歳だった東村は仙台へ行き、古い静かな都会で過ごしながら宿舎で書いた詩稿を毎月東京へ送り、雑誌に掲載していたものを一冊に集めて翌年に出版しました。東北の遅い春を迎えながら書かれたという状況を想像したり、詩集と言いながら七五調で書かれた文体が軽やかで甘く、声にするのがただただ楽しく、

    • 『貝の火』(宮沢賢治)

      南の空を、赤い星がしきりにななめに走りました。ホモイはうっとりそれを見とれました。すると不意に、空でブルルッとはねの音がして、二疋の小鳥が降りて参りました。  大きい方は、まるい赤い光るものを大事そうに草におろして、うやうやしく手をついて申しました。  「ホモイさま。あなたさまは私ども親子の大恩人でございます」  ホモイは、その赤いものの光で、よくその顔を見て言いました。  「あなた方は先頃のひばりさんですか」  母親のひばりは、  「さようでございます。先日はまことにありが

      • 『化鳥(けちょう)』(泉鏡花)

          けれども木だの、草だのよりも、人間が立ち優った、立派なものであるということは、いかな、あなたにでも分りましょう、まずそれを基礎にして、お談話をしようからって、聞きました。  分らない、私そうは思わなかった。 「あのウ母様(だって、先生、先生より花の方がうつくしゅうございます)ッてそう謂つたの。僕、ほんとうにそう思ったの、お庭にね、ちょうど菊の花の咲いてるのが見えたから。」(本文より) 子供が語る、子供の視界から見えた物語・・・といえば中勘助の『銀の匙』を思い出しますが

        • 『チュウリップの幻術』(宮沢賢治)

          「ええ、全く立派です。赤い花は風で動いている時よりもじっとしている時のほうがいいようですね。」 「そうです。そうです。そして一寸あいつをごらんなさい。ね。そら、その黄いろの隣りのあいつです。」 「あの小さな白いのですか。」 「そうです、あれは此処では一番大切なのです。まあしばらくじっと見詰めてごらんなさい。どうです、形のいいことは一等でしょう。」  洋傘直しはしばらくその花に見入ります。そしてだまってしまいます。 (本文より) 2月の上旬にチューリップの鉢を買ってきました。

        『若菜集』より「春の歌」(島崎藤村)

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          『春になる前夜』(小川未明)

          とあるお仕事で、「日本のアンデルセン」と呼ばれる小川未明の作品を1年ほど読み続けてきました。主に短編が多かったのですが、そこで感じたのは「小川未明のお話はハッピーエンドが多い」ということです。子供の微笑ましいエピソードや四季のうつろい、小さな出来事での喜びなど、いわゆる「古き良き日本」を描いたものが多く、読んでいて心が温かくなります。 朗読教室のテキストを探していても、普段読書をしていても、「傑作には悲しいお話が多い」と感じることが多いのですが、小川未明のこの『春になる前夜

          『春になる前夜』(小川未明)

          『雁の童子』(宮沢賢治)

          その時童子はふと水の流れる音を聞かれました。そしてしばらく考えてから、 (お父さん、水は夜でも流れるのですか。)とお尋ねです。須利耶さまは沙漠の向うから昇って来た大きな青い星を眺めながらお答えなされます。 (水は夜でも流れるよ。水は夜でも昼でも、平らな所でさえなかったら、いつまでもいつまでも流れるのだ。) -本文より- ちくま文庫の『宮沢賢治全集6』の解説では、「原稿用紙に赤いインクで”西域異聞三部作中に属せしむべきか”と書」かれていたとあります。西域もの(西遊記のようなカ

          『雁の童子』(宮沢賢治)

          『注文の多い料理店』(宮沢賢治)

          その時ふとうしろを見ますと、立派な一軒の西洋造りの家がありました。  そして玄関には RESTAURANT 西洋料理店 WILDCAT HOUSE 山猫軒 という札がでていました。 「君、ちょうどいい。ここはこれでなかなか開けてるんだ。入ろうじゃないか」 「おや、こんなとこにおかしいね。しかしとにかく何か食事ができるんだろう」 「もちろんできるさ。看板にそう書いてあるじゃないか」 「はいろうじゃないか。ぼくはもう何か喰べたくて倒れそうなんだ。」  二人は玄関に立ちました。

          『注文の多い料理店』(宮沢賢治)

          『農民芸術概論綱要』

          農民芸術の興隆 ……何故われらの芸術がいま起らねばならないか…… 曾つてわれらの師父たちは乏しいながら可成楽しく生きてゐた そこには芸術も宗教もあった いまわれらにはただ労働が 生存があるばかりである(本文より) 賢治の生前には発表されず、その一部が人前で講演されたのみであり、原稿は昭和の戦災で消失して現存していません。童話に比べたら広く知られているわけではないけれども、宮沢賢治にアプローチしようと思う時、この作品を素通りすることはできないのではと思います。レッスンでは

          『農民芸術概論綱要』

          『細雪 四』(谷崎潤一郎)

          幸子は万事上方式に気が長い方なので、仮にも女の一生の大事をそう事務的に運ぼうと云うのは乱暴なと思いもしたけれども、井谷に臀を叩かれた形になって、行動の遅い彼女にしては珍しく、明くる日上本町へ出かけて行って姉にあらましの話をし、返事を急かされている事情などを打ち明けて云ってみたが、姉は又幸子に輪をかけた気の長さなので、そう云うことにはひとしお慎重で、悪くない話とは思うけれども一往夫にも相談してみて、よければ興信所に頼んで調べて貰い、その上でその人の郷里へも人を遣って、などと、な

          『細雪 四』(谷崎潤一郎)

          『やまなし 二.十二月』(宮沢賢治)

          蟹の子供らは、あんまり月が明るく水がきれいなので睡ねむらないで外に出て、しばらくだまって泡をはいて天上の方を見ていました。 『やっぱり僕ぼくの泡は大きいね。』 『兄さん、わざと大きく吐いてるんだい。僕だってわざとならもっと大きく吐けるよ。』 『吐いてごらん。おや、たったそれきりだろう。いいかい、兄さんが吐くから見ておいで。そら、ね、大きいだろう。』 『大きかないや、おんなじだい。』 『近くだから自分のが大きく見えるんだよ。そんなら一緒に吐いてみよう。いいかい、そら。』 『やっ

          『やまなし 二.十二月』(宮沢賢治)

          『銀の匙』(中勘助)

          私の書斎のいろいろながらくた物などいれた本箱の抽匣(ひきだし)に昔からひとつの小箱がしまつてある。それはコルク質の木で、板の合せめごとに牡丹の花の模様のついた絵紙をはつてあるが、もとは舶来の粉煙草でもはひつてたものらしい。なにもとりたてて美しいのではないけれど、木の色合がくすんで手触りの柔いこと、蓋をするとき ぱん とふつくらした音のすることなどのために今でもお気にいりの物のひとつになつてゐる。 (本文冒頭より) 今日のnoteでは中勘助の『銀の匙』について書こうとしている

          『銀の匙』(中勘助)

          『ひのきとひなげし』(宮沢賢治)

          「ああ つまらない つまらない。  一度女王(スター)にしてくれたら、  あたし死んでもいいんだけど」 「それはもちろんあたしもそうよ。」  だってスターにならなくたってどうせ明日は死ぬんだわ。」 「あら、いくらスターでなくっても、  あなたの位立派ならもうそれだけで沢山だわ。」 「うそうそ。とてもつまんない。そりゃあたし  いくらかあなたよりあたしの方がいいわねぇ。  わたしもやっぱりそう思ってよ」 (本文より、部分的に抜粋) 今回のお話の主人公は、野に咲くひなげしの花た

          『ひのきとひなげし』(宮沢賢治)

          『洞熊学校を卒業した三人』(宮沢賢治)

          赤い手の長い蜘蛛と、銀いろのなめくぢと、顔を洗ったことのない狸が、いっしょに洞熊(ほらくま)学校にはひりました。洞熊先生の教へることは三つでした。  一年生のときは、うさぎと亀のかけくらのことで、も一つは大きいものがいちばん立派だといふことでした。それから三人はみんな一番にならうと一生けん命競争しました。一年生のときは、なめくぢと狸がしじゅう遅刻して罰を食ったために蜘蛛が一番になった。なめくぢと狸とは泣いて口惜しがった。二年生のときは、洞熊先生が点数の勘定を間違ったために、な

          『洞熊学校を卒業した三人』(宮沢賢治)

          『坊ちゃん』(夏目漱石)

          親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。小使に負ぶさって帰って来た時、おやじが大きな眼をして二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かす奴があるかと云ったから、この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。 『坊

          『坊ちゃん』(夏目漱石)

          『秋』(芥川龍之介)

          寝る前に俊吉は、縁側の雨戸を一枚開けて、寝間着の儘狭い庭へ下りた。それから誰を呼ぶともなく「ちよいと出て御覧。好い月だから。」と声をかけた。信子は独り彼の後から、沓脱ぎの庭下駄へ足を下した。足袋を脱いだ彼女の足には、冷たい露の感じがあつた。(本文より) 姉の信子と妹の照子、小説家志望で従兄弟の俊吉。信子は俊吉に思いを残しながら別の男性と結婚し大阪へ、俊吉は照子と結婚した。照子は自分が俊吉に思いを寄せていることを知った姉が身を引いたのだと、姉に詫びの手紙を手渡した。信子の夫は

          『秋』(芥川龍之介)

          『月夜のでんしんばしら』(宮沢賢治)

          2023年9月宮沢賢治コース 一本のでんしんばしらが、ことに肩かたをそびやかして、まるでうで木もがりがり鳴るくらいにして通りました。  みると向うの方を、六本うで木の二十二の瀬戸もののエボレットをつけたでんしんばしらの列が、やはりいっしょに軍歌をうたって進んで行きます。 「ドッテテドッテテ、ドッテテド  二本うで木の工兵隊  六本うで木の竜騎兵りゅうきへい  ドッテテドッテテ、ドッテテド  いちれつ一万五千人  はりがねかたくむすびたり」 これまでも幾度となくテキストに

          『月夜のでんしんばしら』(宮沢賢治)