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いなばうさぎの仮の宿

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【創作したものを全部】 作った小説や詩をすべてを、ここにひとつにまとめています。 リストの上のほうから最新作となります。 小説も詩も全部いっしょくたです。
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記事一覧

靴を捨てるためのワルツ   │ シロクマ文芸部 短編

約3000字 白い靴が収められている箱を、彼女はじぶんたち夫婦のベッドルームで、そのおとこの子に手渡した。箱のふたを開けると、白い靴が交互に向きを変えて横たわっていた。 そのときにおとこの子は初めて、鞣された革の匂いを嗅いだ。 彼は彼女に質問した。「くれるの?」 彼女は彼に答えた。「そうよ」 おとこの子は、制服のまま座っているベッドに、靴をおさめた箱を置いた。 「すごい」おとこの子は、箱のなかの革靴をゆびさきで撫でながらつぶやいた。 学校指定のローファーとはまる

『詠むその数より火が灯り』   |短編

#シロクマ文芸部 3800字 「んー、こんなだったかなあ」 わたしはとなりの机でお弁当を食べているチエ先生に言った。 今朝は暗い雲から雨がふっていて、五月の正午過ぎだというのに、そとは夕方のように暗い。 で、だから、職員室でのお昼休みで幻国の教師なわたしがうろおぼえの一句言ってみたら『ムジ子先生それぜんっぜん、ちがうんじゃない?』と数字教師のチエちゃんが答えた、チエちゃんの爪、うっすらグレイみたいなむらさきみたいなコートしてて(コート剤なんていまどきどこで手に入れたん

サムデイ・アット・マクドナルド

#シロクマ文芸部 約1,000字 朧月という、英語でGhost Plantという園芸種のひとつがあって、それは育てるのがむずかしい。そんなことを彼が言った。ただ話したいんだなあと彼をわたしはながめている。うなづきも相づちもしないのに、マクドナルドで熱を込めて語りつづけている。 おたがいの家(彼がアパート、わたしは実家)に近いからというだけでただいつもここを選んでいる。マクドナルド。そのあとはどちらかの部屋でベッドに入って、することして帰る。どちらともなく呼ぶ。なにもなくて

『くずれやすくて』 54字 シロクマ文芸部

お読みいただきありがとうございます。本作品はシロクマ文芸部参加作品です。 #シロクマ文芸部 #朧月

『こどもたちと神さまと』  | 短編

改稿済 #シロクマ文芸部 約7000字 閏年の翌年に開催されたオリンピック会場でボランティアをしていた京子は、トイレの行列待ちをしていた男に投げられたペットボトルを頭にうけて昏倒した。 夜、管轄の巡回をしていた離れて暮らす兄の雄二が持つ三台のスマホのうちのひとつに病院の職員から連絡が入り、深夜に病院で彼が妹に会った。 京子はベッドのうえで動かず、微かにふるえながら当時のようすを朧げにつぶやいた。くちびるが乾いていて、めくれあがっていた。雄二には、京子のつぶやく事柄がまだ

『ミルキー』  | シロクマ文芸部 短編

本文 約2500字(改訂済) チョコレートを仕事帰りに大混雑のデパ地下で買った。 10日くらい前。 慣れないところだったからなにがなんだかわからなかった。いつもは地元のショッピングモールで買うから、こんなすごいところ来ない。 スマホよりもちょっと小さいメダルみたいなかたち、それで五千円弱くらいした。あたしの買える最高級品だとおもって買った。 そろそろ、お店は終わりの時刻だった。 それでレジしてるときに周りの雑音が虫の羽音のようにジーーッて聞こえはじめて自分のマンシ

『宵紫、白梅』  |短編 シロクマ文芸部

本文 約3500字 梅の花の咲くあの林のなかに、佳奈子はいるのだと、瑞也はすぐに感じた。 二月。 あの父親もなんでこんなときに電話寄越すのかしら、探してくれだなんてばかじゃない。あの子むかしから情緒不安定だったからいつかこんな騒動になるってわたし思っていたわ。行方不明でももうなんでもいいわよ。 電話を置き、瑞也の母は台所に戻っていくときにひとりごちた。 そんなんだから絵なんて描いているのよ、薄気味わるい、瑞也、あなた、お式の前の大切なときなんだから、あんな家族に

54文字で  | #シロクマ文芸部 お題 #消えた鍵

初めて54文字で。

『さえずりを聞く時』 54字・シロクマ文芸部 (「青写真」)

掲出当日午後、 表題含め大幅改訂をしたものを ここに再投稿した。 初稿公開 令和六年二月五日 午前 ※削除済 改訂版再投稿 同日 午後四時半過ぎ このたびも、シロクマ文芸部さんに参加させていただきました。ありがとうございました。 #青写真   #シロクマ文芸部   #54字の物語

『そうよ、静かになって』 |54字 #シロクマ文芸部

初稿掲出 2024年01月30日 午後 シロクマ文芸部の企画に参加させていただきます。 ありがとうございます。

ひとときわたしは荒れ地にて   #シロクマ文芸部 短編

約2000字 新しい学校へ年明けに、わたしはまた転校する。 親の都合だ。やだ。 だからわたしは、また学校に登校するふりをして、冬の晴れた今日も『荒れ地』へ向かったんだった。 わたしは荒れ地と、そう言っていた。 自転車に乗って、町からほんのすこし外れたところに、すぐ現われるそこは本当は荒れ地というのは適切ではなくて、広大な農地、おもに田んぼがひろがっている。ひとが生活してるとこなんて、この町のほんのすこしの部分だ。 田んぼと、なにかの資材が適当に放りなげられたような

お題、『新しい』。 #シロクマ文芸部 54字。

書き初め二十字、三日の夜に花割いて五つ。

* ごはんの後、肩に頬寄せて好きって、 私も。 夜の浜辺で告って走る君、 え? 返事は大声? 先生の眼を見つめるお遊び☆ 嫌だ誤解した? 銃を向け愛してたと言う君は 僕の喉を撃つ。 右手に右手左手も重ねた、 貴方頬を触れた。 *   夜もおそいわ 羊に私は囁くの おやすみなさい *

#書き初め20字小説、一月三日午前。 #シロクマ文芸部

五首 寿舞う扇を貴方の項にあて 想ひ刎ねて新年。 硯の内静かに浸し 白紙汚して書く母の名を。 山羊の肉噛み想う 私を組み伏せた男の匂い。 兄の水仙の庭、 花一輪を盗み千切り味わう。 永陽祝う神子の頬触れ 磔のいま吾子と叫ぶ。 以上先ず書き初めといたします。 本年も宜しくお願い申しあげます。