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道具としてのスポーツ。ビジネスの本質をクリアにする「魔法のレンズ」とは:『スポーツの価値再考』#003【後編】

2020年夏、『スラムダンク勝利学』の著者・辻秀一とラクロス協会理事・安西渉が、各界のゲストとともにスポーツと社会の関係を掘り下げていく全10回の対談。スポーツは本当に不要不急か――この問いから、「スポーツの価値再考」プロジェクトは始まりました。

第3回の対談相手は、早稲田大学ラグビー蹴球部元監督の中竹竜二さん。スポーツの進化を文明そのものの進化と位置付ける中竹さん。スポーツとビジネスは、今後どのように関わり合い、発展していくのか。第3回対談完結編です。

連動する、人類の進化とスポーツの進化

辻:最近のスポーツ界を見ていて変化は感じますか?

中竹:フィールドを離れた、いわば日常生活のことを「オフ・ザ・フィールド」と呼んでいるのですが、最近はオン・ザ・フィールドだけでなく「オフ・ザ・フィールド」で培った力が競技の上でも強く影響するようになってきています。

辻:オフ・ザ・フィールドがどのように競技に影響するのでしょうか?

中竹:近年のスポーツでは、単純なパワーだけでなく「適応する能力」が圧倒的に必要とされます。変化し続ける日常に適応する能力、同じ相手と再戦する中で武器を変化させていく能力、コンディショニングの知見を生かして身体を整える能力。そういった適応能力がないチームは1年間続くリーグ戦を勝ち抜くことはできません。

辻:スポーツそのものが大幅に変わることは滅多にないですが、個人の日常は千差万別で、そこで生まれた成長が競技にも生きるということですね。

安西:「武器」という観点で、現代のスポーツは昔と比較すると圧倒的にインテリジェンスが大切になっていると感じています。思考停止で辛い努力をするだけでなく、すべてのプレーに合理性を見出し、成長するための多様なメソッドが日々生まれていますね。

辻:オフ・ザ・フィールドとオン・ザ・フィールドの結びつきが強くなった背景にはどういった事象があるのでしょうか?

中竹:これは壮大な話になりますが、人類の進化によるものだと考えています。人類全体が、その場限りのパワーで戦う時代、つまりオン・ザ・フィールドだけではなくオフ・ザ・フィールドの全てを適応させながら戦う時代に移行しているように感じています。

安西:なるほど、文明自体が進化していて、スポーツもそれに応じて進化しているということですね。

中竹:はい。文明は不可逆なものです。一方向的に進む文明に適応して、スポーツやビジネスも進化し続ける必要があります。

たとえばコロナ禍によってたくさんの制約が生まれましたが、その中で多くのものが生み出されました。私はこれを人類の進化だと捉えています。そもそも人類が進化してきた背景には、感染症や天災といった制約がありました。

安西:この対談もですが、オンラインで簡単に人と会えるようになりましたよね。

中竹:コロナが収束したからといって、それらが消えることはあり得ません。特にスポーツ界では、練習をできなくなったり大会が無くなったりして辛い思いをしている人が多いですが、今は制約の中でいかに新しいものを生み出していくかを楽しむべきだと考えています。

安西:ちょっと横道にそれますが、その考え方は哲学に通ずるものがあると感じました。

中竹:というとどのような点でしょうか?

安西:哲学は本来は社会の具体的な問題を解決するための学問なんですね。社会に新しい概念が生まれたときに、その概念を支える考え方や、新しいロジックを作る学問が哲学。だからこそ、哲学は文明に合わせて常に変化していかなければならないものなんです。

中竹:それは興味深いですね!哲学は私にとって未知の分野ですが、今後学んでいきたいと思っています。

「発信力」がアスリートの新たな人生を設計する

辻:今後中竹さんが取り組んでいこうと思っている活動はなんでしょう?

中竹:今まさに取り組んでいる、一般社団法人スポーツを止めるなの活動があります。

コロナ以前、高校生がキャリアを積むには、大会で活躍しスカウトされプロになる、という流れがありました。しかし、コロナで大会がなくなった今はそれができない。だったらセルフブランディングしてみようということで、高校生が自分で映像を編集し公開し、一般に向けてアピールできる環境を作っています。

安西:若者のデジタルリテラシーはとても高いですよね。ラクロスはカレッジスポーツで若者が多いので顕著ですが、新しい概念もすんなりと受け入れられる。

中竹:これはビジネスの世界でいうと、自分で自分をブランディングし、企業に直接売り込むようなものです。今はまだ少ないですが、今後は自己表現の能力がとても大切になっていくと考えています。

辻:結局人間が社会に出る上で大切な力は、自分を表現し発信する力、そして対話する力の2つですよね。ひとりひとりの「発信」と「対話」で社会がつながっていきます。これからの時代は、様々な場所で自分のアイデンティティを発揮しながら活躍する、副業のような生き方がますます広がっていくと思います。

中竹:スポーツの世界でも、ビジネスでいう副業のような、競技を跨いだ活動は広まりつつあります。ラグビーの選手がボートに挑戦するような。現在はコーチングセミナーなどが多く開催される中で指導者同士の繋がりが強くなっており、競技の壁はますます低くなっています。

辻:新しい競技に挑戦するためにも、スポーツ選手が自ら発信し、繋がり、対話していくことが大切になりますね。

中竹:まさにその通りです。異なるスポーツに挑戦することが当たり前になると、新しい才能の発掘も増えていきます。

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スポーツの価値は「最も汎用性の高い道具であること」

安西:中竹さんにとって、スポーツの価値とはなんでしょうか。

中竹:スポーツは「最も汎用性の高い道具」だと考えています。自分の人生から会社の経営に至るまで、あらゆることについて考えるとき、スポーツを道具にして見てみると新たなことに気づくことができます。

安西:「スポーツを道具として見る」とはどういったことでしょうか?

中竹:例えば、スポーツをメタファーにしてビジネスを捉えてみます。するとスポーツとビジネスは構造的にはほぼ同じだと気づきます。

スポーツもビジネスも、ある価値基準を設定し、PDCAを回しながら成長し、最終的にその基準を達成することを目指す行為です。

スポーツでは価値基準が「勝利」という1つだけなのに対し、ビジネスでは「売り上げ」「シェア」「株価」といったように無数にあります。スポーツのPDCA周期は非常に短いですが、ビジネスでは短くても四半期です。このように変数の多さが違うだけで、スポーツとビジネスは同じ構造をしているんですね。

安西:具体的に同じ構造である点はどこでしょう?

中竹:2つとも「練習と試合」という分け方ができる点ですね。

スポーツには当然「練習と試合」の分け方がありますが、実はビジネスも同じように分けることができます。しかし、ビジネスにおいてはその境界線が曖昧になってしまいがちで、常に練習、常に試合といったメンタルで活動している企業が多くあります。ところが成功している企業は、スキルを磨く時間(練習)と勝負をかける場(試合)を明確に分けているんですね。

安西:なるほど!ここまで「スポーツの価値」を合理的に語っていただいたのは初めてでとても感動しています。

中竹:スポーツ自体を楽しむことにももちろん価値がありますが、スポーツをある意味「魔法のレンズ」のようにして世界を見てみると新しい発見がたくさんあります。汎用性という点では、スポーツは最も優れたレンズであるように思います。

▼第3回対談の前編はこちらよりご覧ください。

▼プロジェクトについて語ったイントロダクションはこちら。

プロフィール

中竹竜二(なかたけ りゅうじ)
1973年福岡県生まれ。早稲田大学ラグビー蹴球部において主将を務めた後、2006年からは清宮元監督を継ぎ監督に就任。チームを全国大学選手権連覇に導いた後、ラグビーU20日本代表のHCなどを歴任。2014年に株式会社チームボックスを設立し、大企業から中小企業まで多くの企業で、スポーツマネジメントの知見を基にした組織変革を実施。『リーダーシップからフォロワーシップへ』『自分で動ける部下の育て方』など著書多数。
辻秀一(つじ しゅういち)
スポーツドクター/スポーツコンセプター
北大医学部卒、慶應病院内科研修、慶大スポーツ医学研究センターを経て独立。志は「ご機嫌ジャパン」と「スポーツは文化と言えるNippon」づくり。テーマは「QOLのため」。専門は応用スポーツ心理学に基づくフロー理論とスポーツ文化論。クライアントはビジネス、スポーツ、教育、音楽界など老若男女の個人や組織。一般社団法人Di-Sports研究所代表理事。著書に「スラムダンク勝利学」、「プレイライフ・プレイスポーツ」など、発行は累計70万冊。
・HP:スポーツドクター 辻 秀一 公式サイト
・YouTube:スポーツドクター辻秀一
・Instagram:@shuichi_tsuji
・Twitter:@sportsdrtsuji

安西渉(あんざい わたる)
一般社団法人日本ラクロス協会理事/CSO(最高戦略責任者)
資本主義に埋もれないスポーツの価値と役割を追求し、様々なマーケティングプランを実行。大学から始めたラクロスを社会人含めて15年間プレーし、現在は大学ラクロス部のGM/コーチを10年間務める。
1979年生まれ。東京大学文学部にて哲学を専攻。在学中の2002年よりIT&モバイル系の学生ベンチャーに加わり、2014年からITサービスの開発会社の副社長を務める。
・note:@wataru_anzai
・Instagram:@wats009
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