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ねたみ・そねみ・ひがみ三姉妹が死んだ日

友人、Aちゃん。
幼稚園に入る前からの付き合い。
私が住んでいた家の向かいで商店を経営するお家の子だったので、放課後は店の閉店時間まで、ほぼ毎日私の家で一緒に遊んでいた。
ウチがまだ裕福だったころ。

中学生までそんな感じだったけど、別々の高校へ行ってからは疎遠になり、時々連絡を取り合う程度の関係になった。
前後してウチは家庭崩壊を迎える。

Aちゃんちはお金持ちだった。
広い応接間にソファとピアノがあったし、彼女はふかふかのベッドで寝ていた。お母さまの作るご飯はいつもお洒落でおいしかった。
家に先生を呼んで、近所の子とピアノを習っていた。
私もピアノを習いたいと母に言ったら「ウチはピアノなんて買えないからダメだよ」と言われて、Aちゃんちに行けばいーじゃんかと言ったけどダメダメと拒否された。

A ちゃんはその後当たり前に大学へ行ってイギリスに留学したり教員免許を取ったりし、やがて就職して結婚して2人の健康な子供に恵まれて、家を買い、両親は仲良く実家の建物に住み(彼女の部屋もそのままだそうだ。ファンタジーかっ!)、本人も大きな病気をすることなくこれまで生きてきた。
去年娘さんが結婚して、今はお腹に新しい命が宿っている。

私はというと、、、、、
17歳のころ。借金漬けになったDV夫から逃れるために私の母は離婚した。離婚や引越の手続きはほとんど当時22歳の姉がおこなった。お嬢様育ちの母は泣いてばかりだったと記憶している。
兄は新聞奨学生(=新聞配達で学費を返済しながら学校に通う学生)で下宿先から大学へ通っていた。

私は学校の成績だけは良くて、高校は進学校だった。
中学校の教師になるつもりだったけど、経済的な事情で大学進学を諦めた。米も買えなくて、アパートの大家さんが箱いっぱいくれたじゃがいもを主食にするような生活だった。冷蔵庫やTVもなかった。
そーいや何度も貧血検査に引っかかっていた。青白い顔でガリガリに痩せた女子高生だった。

高校を出て就職しやがて結婚して、大怪我したり絶望したりで10年で離婚して、何年かの一人暮らしを経て再婚し、36歳のとき初めて妊娠して狂喜乱舞したけどわずか7週で流産。それから怒涛の不妊治療をしても叶わなかった。やがて訳あって彼を捨て離婚して、その間母も姉も死に、再再婚したけど市営住宅で気の合わない義母と同居な上に乳がんに罹り仕事を辞め立場を悪くして、逃げ場もなく窮屈な暮らしを4年続けて疲れ果て嫁姑の口論になって別居に成功したと思ったら今度は歩けなくなり、股関節の手術を受けて今に至る(って、かい摘んだけど長いね)。

で、先日Aちゃんと久しぶりにお茶してきた。
去年行ってた太極拳教室に彼女のお母さま(83歳!)も通って来てて、40年振りくらいの再会を果たしたことで旧交が深まったのである。
彼女が「恵まれた人生を歩んできたのに、私は愚痴ばっか言ってるんだ…」と言ったのを聞いて、以前ならテメ、フザケンナ!と思ったろうに、私の心はチクリとも痛まず「そーなんだね」って思っていた。面白い。

何年か前に「ドラマチックな人生だよね」と何気なく彼女に言われたときは、ドラマチックって何だよそれ!?とすごく嫌な気分になった。他にもいろいろと苛つくことがあった。彼女に悪気が全くないのはわかってる。わかるから尚更ムカついたのかもしれない。
いつも妬んで、嫉んで、僻んでいた。彼女はその対象の象徴だった。
時々会っていたし仲良くしていたけど、その曇りのない心根が憎らしくもあった。好きだけど大嫌いだった。恐ろしき妬みマジックだ。

でも、融解したのねと思った。
Aちゃんは一貫して変わらない。変わったのは私。
自分の考え一つで世界が変わることを、Aちゃんが教えてくれた。
私には持ち家も親も子供も孫も立派な学歴も教員免許もピアノもベッドも実家もないけれど、大事なのはそんなことじゃ全然なくて、足るを知って生きることなんじゃないかと思う。
大事なのは勝ちでも負けでもなくて、ただ吹く風の薫りや足元の花の色に気づいて感動できる心とか、日々の暮らしに満足できる余裕なんだろうな。

「私達は失ったものに焦点を合わせがちだけど、今あるもの、今残ってる体力で何ができるかに焦点を合わせることで、毎日が変わってきますよ。」
と、何年も前の乳がんのシンポジウムである患者のかたが言っていたことを私は胸に刻んでいる。
それはがんや他の病気に限らない。加齢とか貧困とか人との別れとか、日々の何気ない喪失とか、なんにだって当てはまると思う。
取りに行けるものは取りに行く。でも、できなかったことには執着しない。
(以前ちょっと勉強したインドのヴェーダーンタの教えみたいだ。ようやくちょっとしっくりき始めたかもしれない。)

まぁそーいうわけで、私はいまとても幸せで、過去のどの地点にも戻りたくない。若くなくてもいーや。
先のことは分からないけど、幸せだと勘違いしてれば次なる幸せが来るような気はしている。
カミサマがもしいるなら、それは自分の心の中だけにあるんだと思う。。。


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