証明28

証明×証明 - 回転寿司の証明 -

「もし、あなたが殺人を犯したと仮定しましょうか」
「……」
「しましょうか」
「……は?」
「あなたが、殺人を、犯したと、仮定するの」
「あのさ」
「なに?」
「オレ、なんかした?」
「別になにもしてないわよ。あ、それとって」
「えっと……シメサバ?」
「違う違う、隣の。うに」
「うに」
「うにぃ」
「うぬぃ」
「ううぅぬぃぃぃぃ。……ありがと」
「で――オレは別に、何も危険なことはしてないわけだよな?」
「まあ」
「殺人を連想されるようなことは、断じてしてない。寿司を食っている、一小市民にすぎない」
「うん」
「んじゃどうして急に、そんな危険な仮定がでてくるワケ?」
「危険なことを連想させるものが、必ずしも端から見てすぐに危険とわかるとは限らないわ」
「はあ……なんか深い意味があるようで、実はまったくない発言だな」
「ともかく、あなたが殺人を犯したとするのね」
「……まあいいけど」
「で、あなたは逮捕されちゃって、警察にしょっぴかれて、裁判にかけられるのよね」
「かけられるのよね言われてもな」
「で、あなたは裁判で過失を主張するの。でも検察は故意だと主張するわけよ」
「まあ話の流れが掴めないというか」
「そのとき、もし検察がこの事実を握ったら、あなたが実は周到で計算高い性格をしていることが立証されて、裁判官にとても悪印象を与えてしまうと思うの。それできっと有罪にされてしまうのよ」
「おーい……。あのさー、話が吹っ飛んでてついていけないんだけどさあ……。いったいなんのことだよ、おいてかないでくれよ」
「私はそんな、あなたに不利な証拠を残したくないの」
「証拠って」
「だからそれ、やめた方がいいんじゃないかしら」
「なんのことだよ……」
「私の青皿を、自分の赤皿の山の上に重ねるの」
「……」
「気持ちはわかるわ。確かに、一番安い皿ばかり積み重なってるのは、会計するときに恥ずかしいわよね。ああ、あいつ一番安いのしか食ってねえぞって、貧乏人めって、みんなに後ろ指さされるかもしれない」
「そこまで」
「でもだからって、青皿を一枚だけ一番上に載せて隠すなんて、それってなにか卑怯じゃない?」
「いや、これはさ……」
「それに会計するときは皿の色だってチェックするんだから、それじゃ隠したことにならないでしょ?」
「いやもちろん席を立つ前に、赤と青と黄と緑全部混ぜて、偏りがなく相互に、縞模様として現れるように並べ替えるつもりだったよ」
「……」
「そうすれば安い皿ばっかりとってたって印象も薄まるし。完璧な縞模様じゃ逆に不自然だってんなら、ところどころ偏りをつけてもいいけど」
「……」
「その哀れむような瞳は何?」
「あのね」
「うん」
「あなた、いっつも回転寿司に来ると、一番安い皿しかとれないわけ?」
「うん、親の躾でさ」
「躾……」
「子供の頃から回転寿司来ると、親が一番安い皿ばかりとるの見てたからさ。なんかこう子供心に、他の皿はとっちゃいけないんだな、って思ってたの」
「……幼少期のトラウマというやつね」
「んでそのまま成長して、他の色の皿に、ある種の禍々しさみたいなものを感じるようになっちゃったワケ」
「哀しい話だわ」
「こう、高い皿をとると、心が罪悪感に耐え切れないというか……」
「それで私が他の色の皿をとると、ちらちら盗み見てたわけね」
「……見てた?」
「見てた。捨て犬が、人間が部屋の中でおいしそうにご飯食べてるのを、窓の向こうから見つめるような……そんな目つきで、見てた」
「くうん」
「がらがらがら」
「くんくん」
「しっしっ、てめぇに食わせる飯はねえんだよ」
「きゃんきゃんっ」
「……」
「……きゃうん……」
「ごめんお願い、そんな目で見ないで」
「……おう」
「ともかく、そんな数十円程度の違い気にしないで、なんでも食べればいいでしょ」
「だってさ……」
「別に無理して奢らなくたっていいわよ。割り勘。割り勘なんだから食べないと損よ」
「そういう問題じゃないんだよなあ。信念の問題というか」
「回転寿司なのよ回転寿司。カウンターと違うのよ。安いのよ」
「うーん……」
「まったく……回転寿司でこれじゃ、一生カウンターなんて行けないわね。この貧乏性」
「カウンター行きたいの?」
「行きたーい。寿司屋のカウンターでうにを注文しまくるのが私の夢」
「ほう」
「いっつもいっつも回転寿司じゃなあ……。夢がない」
「でもさ」
「ん?」
「君はそうやって回転寿司を嫌うけども」
「別に嫌ってはないわよ」
「カウンターっていったって、結局は回転寿司だろ?」
「……はい? ……カウンターはカウンターで、回転寿司じゃないでしょうが」
「いや、まあ聞けよ」
「はあ」
「つまりさ」
「はあ」
「地球が回り続ける限り、」
「地球が回り続ける限り?」
「すべての寿司屋は回転寿司なんじゃないのか?」
「……」
「……」
「……は?」

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