今後の課題とさせていただきます

「今後の課題とさせていただきます」って言葉に、なんだかもんにょりしてしまうたちだ。

僕がこの言い回しを覚えたのは、大学の研究室でのことだった。
卒業研究で詰まってしまい、困っていたときに、先輩から教わった。

先輩:
針とらくん、研究でできていないことがあっても、べつに頑張って解決しようとしなくていいよ。そのままでいいんだよ。

僕:
そうなんですか?

先輩:
うん。
でも教授への発表会のときに、正直に「できてない」っていっちゃだめだよ。
「これは今後の課題とさせていただきます」っていうんだ。

僕:?

先輩:
教授は、何十もの研究発表の中身を、きちんとと聞いたりしていない。
なんとなくの雰囲気で、うなずいてるだけだ。
そんななかで「できてない」っていうと、

「よくわかんないけど、できてないんだな……」

って、評価を下げられてしまう。
ところが「今後の課題とさせていただきます!」っていうと、

「よくわかんないけど、それ以外はできたんだな……」

って評価が上がるんだ。

僕:
やったことは、同じなのに?

先輩:
そうだよ。
ためしに先輩たちの発表を聞いててみてごらん。


先輩たち:
これは今後の課題とさせていただきます!
これも今後の課題とさせていただきます!!
ぜんぶ今後の課題とさせていただきます!!!


僕:
……世の中って、汚くないですか?

先輩:
そうだね、世の中は汚いね。


そんなわけで、僕もこのフレーズを習得し、使うようになった。
卒論発表でも使ったし、修論発表でも使った。
就職して会社にはいってみると、みんなとうぜんのように使ってた。

社員A:「これは今後の課題とさせていただきます!」
社員B:「これも今後の課題とさせていただきます!!」
社員C:「ぜんぶ今後の課題とさせていただきます!!!」

上司「よくわかんないけど、それ以外はできていたようだ!」

会社には今後の課題があふれ、できた課題を解決しようとすると、
「なぜ課題を解決するんだ! おれたちの仕事は、今後の課題とさせていただくことだ!」
と怒られるしまつだ。


「これは今後の課題とさせていただきます!」
「これは今後の課題とさせていただきます!」
「よくわかんないけど、それ以外はできていたんだな!」

そしてあるとき気づくと、会社のデスクのキャビネのすみから、真っ黒い姿をした巨大な蜘蛛が、社員たちをじっとみつめているのに気づくのだ。

「…今後の課題としてやろうか…! ……おまえらを……今後の課題としてやろうか…!」


人間を今後の課題にしてしまうという、恐るべき妖怪だ。
僕たちは知らないあいだに、妖怪に今後の課題にされていたのである…。



とまあ、そんな経緯があって(?)、
「今後の課題とさせていただきます」系統のフレーズは、なんだか信用ならないのである。

人がいってるのを聞くと、

「おまえ今後のことなんて考えてなくて、ただこの場を乗り切りたいだけやん…」

とか思いつつ、僕もいいオトナではあるので、

「まあ、ただこの場を当たり障りなく乗り切るっていうのも、必要なことではあるよね…。わかる…」

などと、どうでもいいことを考えこんでしまったりする。

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