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テツガクの小部屋13 ソクラテス②

・死の準備
前回より続く~「無知の知」の自覚をもってソクラテスは自らの教育的使命を自覚した。「汝自身を知れ」というのが彼のモットーであった。彼の仕事はまず最初に無知を自覚させることによって臆見(ドクサ)を破壊し、次に青年たちを助けて真の知識(エピステーメ)を自ら生み出させることであった。彼は自分の実践を産婆術に例えている。そしてそのための手段が対話であった。

こういったソクラテスの活動はやがて多くの敵を生みだすこととなった。識者をもって自任している人に対して、その無知なるをあばくことほど人を怒らせることはないからである。老年にいたってついに彼は「国家の認める神々を認めず、他の新奇な魔神(ダイモニオン)を導入し、青年たちを腐敗させる者」という罪状によって告発され、最終的に死刑が宣告された。

刑の執行までの間も、ソクラテスは人々と魂の不死やその他の問題について議論した模様である。また友人のクリトンがすっかり手筈を整えたうえでソクラテスに脱獄を懇請したが、悪法も法なりとして彼はこれを拒絶した。彼は魂の不死なることを確信していたからである。むしろソクラテスによれば、死後にこそ身体から解放された魂の本来の生があるのであり「哲学は死の準備」なのである。あの世にいけばホメロスやヘシオドスと対話ができるといって、希望に燃えて毒杯をあおいでいる。
「クリトン、アスクレピオスに鶏一羽借りがあるから返しておいてくれ」というのが彼の最後のことばであった。


参考文献『西洋哲学史―理性の運命と可能性―』岡崎文明ほか 昭和堂

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