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ざまあみろ、と歩く

遅番の帰り道、フィッシュマンズを聴きながら歩くのが好きだ。しかも、いま雨が降っている。こんな日はフィッシュマンズが最高だ。

そんで敢えて傘を頭の後ろらへんに傾けてさす。霧雨がミストのようにふわりと自分にかかる。街灯に照らされて、ストールやコートの裾が細かい粒子に濡れてキラキラしてる。
私はもう大人だし、一人きりなので、こんなふざけた傘の指方をして歩いていても誰にも責められない。ざまあみろ。
自然とわいて出た言葉は過去への復讐だ。理不尽な言葉をかけられた彼と、かけた人と、そのどちらでもない、板挟みになった小学生の頃の自分を思い出す。
毎度雨がトリガーになる、という分けではないが時折、こうしていやな過去がフラッシュバックするのはおそらく心に余裕がある時だ。とくに何の不安もない帰り道、雨、風もなく静かに均しくふやけていく景色が自分に優しいと感じるとき、凪のように穏やかになった心のとき、不意に私をつつく。

でも「ざまあみろ。私は自分で買ったお気に入りの服を着て、靴を履いて(撥水のコンバースとても便利)、傘をさしてストールをまいて立っている。税金だって払ってんだ、誰にも彼にも責められないし何の関係もない。」
と昔の記憶に悪態つきながらずんずん歩いていく。

なんだかそれはデート日和なんだ

そう、さっき佐藤さんがWeather Reportでそう、うたっていた。
多分こんな冬のくせして生ぬるい雨の日、私は昔の私と強制的にデートさせてるんだと思う。フィッシュマンズのフィの字も知らぬ、反撃する言葉も持たぬどうしようもなく惨めな子供時代の自分と。
大丈夫、また多分遅番の雨の日の帰り道、幾度と無く同じ気持ちにおそわれるんだろう。
でももう私の引き出しにはフィッシュマンズ以外にも高山なおみさんのエッセイや、クラムボンのフォークロアが入ってますので、大丈夫です。何度でも自分を余すこと無く包めるので。ざまあみろ。

お気に入りのストールもコートも、帰宅後すぐにタオルで優しく水滴をふいた



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