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春の雨、または長旅

 雨の中散歩するのも好きである。今日は早朝から息子が帰って来ていたし、仕事は仕事で忙しい。夜まで散歩に出かける時間がなかった。ああ、やっと、と思った時にはすでに外は真っ暗で、肌寒く、しとしとと小雨が降っているようだ。一瞬躊躇したが、一日休むのも気が悪いので、シェルジャケットを羽織ってさっと出かけた。今日は買い物の必要もない。林芙美子紀行集の続きを聞きながら、歩き始めれば小さく心が躍るほどである。
 不思議なもので、どうにも身体を動かすのが億劫な時期がしばらく続くこともあるのに、こうして矢も盾もたまらず歩き出したくなる日々が続くこともあるのだ。

 長旅はひとりに限る。と林芙美子。よく分かる。

 小一時間、早足ですたすたと歩き回ると、すっかり身体が暖まり帰宅した頃にはぽかぽかになっていた。よく動く身体で家事を片付け、作り置きを何皿か用意して簡単な晩餐とする。息子はお昼ごはんを食べて自分のマンションに帰っていったから、夜はまたいつものひとりである。旅も普段も、ひとりがよい。赤ちゃんみたいな顔をしてるくせに、私のことを気遣う息子がなんとも可愛らしかった。去り際の表情が、心に残る。

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