あのちゃんと蛍の光、私とJR貨物

あのちゃんのラジオは落ち着く。
嫌な感じがしない。
うまく言えないが、あのちゃんが好きだ。

先日のラジオで、紅白歌合戦の話をしていた。
橋本環奈や有吉弘行との話を面白おかしくしていたが、
最後にさらっと、こんな話をしていた。

あのちゃんは、紅白歌合戦のクライマックスで蛍の光が流れた際、
泣きそうになったのだという。

あのちゃんが昔アルバイトをしていたお店では、
閉店間際に蛍の光が流れていた。
当時「めっちゃ怒られ」ながら働いていたというあのちゃんは、
苦しい気持ちで、その蛍の光を聞いていたのだという。

今自分が紅白歌手になり、蛍の光を聞き、
当時の自分と今の自分を思い、泣きそうになったのだという。

お恥ずかしいが、この話を聞いて私も思わず泣いてしまいそうになった。
そんなことで?と思われるかもしれない。

地方公務員を辞し、長らく休養期間を過ごしている私であるが、
先日、新しく働きたいと思える職場の面接に行ってきた。

別の面接ではあまり思ったように答えられずに不採用になったこと、
久方ぶりに専門家がいる場所に行くこと等、
緊張要因が死ぬほどあった。

かなり身構えていた私は、地方公務員時代の勉強資料を読み直したり、
専門書籍を何冊も読み直したり、
面接の想定問答を用意したりと、
入念に準備をした。寝不足だ。

どうせまた、なんで公務員を辞めたのか聞かれるんだ。
私には何ができるのか、何ができないのか、
いや、「使える」人間かどうか、査定されるのだ。

そんな私の不安とは裏腹に、
温かく迎え入れられ、とんとん拍子で即採用が決定した。

私がどんな能力を持っているのかではなく、
もう一度歩もうとしている私の意志を、受け入れてもらえた感覚があった。

それでもなんだか実感が湧かない私は、ふわふわとした足取りで、
職場最寄の駅までたどり着き、ホームにぼーっと立っていた。
ベンチがあったので、座ってみた。

先日の大雪のせいで、辺りは真っ白。
電車が来るまではまだ時間があるので、ホームには私と、無言で除雪をする係員が数人だけ。

ぼーっとしていると、
「間もなく、4番ホームを、列車が通過いたします。」
のアナウンス。

直後轟音を立て、粉雪を巻き上げながら、
JR貨物列車が通過し始めた。

くすんだ濃い紫色のJR貨物。
通っても通っても、まだ終わらない。
先ほどまでの静けさが嘘のようだ。

私の心から、何かがあふれ出してきた。


地方公務員時代、私は自分が住む街から特急電車に乗り、
職場まで通勤していた。

朝はちょうど良い時間の電車がないために始業時間よりかなり早く到着し、
夜も同じくちょうど良い時間がなく、
夜風を浴びながらホームでしばらく突っ立っていた。

電車の時間まで職場で待つという方法もあったが、残業代も出ないし、
何よりあの環境から少しでも抜け出したくて、
早々に駅のホームでぼーっとしていた。

ぼーっとしながら、色々なことを考えていた。
その日に傷ついた出来事、どこかじめっとした上司の所作、
仕事での失敗、後悔、無力さ。

缶ビールを飲みながら静かに泣くこともあったし、
セブンイレブンの大入り豚まんをかっくらいながら悪態つくこともあった。

そんな私の目の前を疾走していくのが、JR貨物だった。
轟音を立てながら私の目の前を走り続ける。
どんだけ長いんだよ?とつぶやきたくなるくらい、長い。永い。

それでも、その貨物を眺めていると、
不思議と心がすっとしたのだ。ちょっとだけだけども。
貨物が進む方向は、私が今から帰る方向だった。
でも、どこか違うところに続いている気がしたのだ。


蛍の光はいつか鳴りやみ、JR貨物は走り去る。

あの頃とは異なる状況で、同じ自分のままで、
生活が続いていく。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?