【歌詞考察】Theピーズ「生きのばし」-人生は所詮イノチの引きのばし!

はじめに

自分が何のために存在してるかわかんない。生きてることに何の意味があるんだろう? 生きるのだるい。死にたい。消えちゃいたい。
きっと世の中の大部分の人が一度は直面したことのあるだろうこの悩み。そんなときにふと聴いた音楽が答えを教えてくれることがあります。
今回考察するのは、ロックバンド Theピーズの代表曲「生きのばし」。 「つらいときに応援ソングなんて聴いても響かねえよ!」と思う人にこそ聴いてほしい、「だらだらと生きること」を肯定するナンバーを、個人的に考察していこうと思います。

「生きのばし」について

「生きのばし」概要

「生きのばし」は2003年に発表されたTheピーズの八作目のアルバム『Theピーズ』の収録曲で、バンドの中でも特に有名な楽曲です。2022年に映画『マイ・ブロークン・マリコ』のED曲に使用され、自殺した友人の遺骨を強奪し旅に出た主人公トモヨのイメージと重なっていると話題になりました。映画監督のタナダユキは「生きのばし」について

〈死にたい朝 まだ目覚ましかけて 明日まで生きている〉という歌詞が脳天に来たというか、ダイレクトに心に響いてきて。クソみたいな日常で、クソみたいな思いを抱えながら、でも、死ぬまではしょうがないからなんとか生きていくしかないじゃん、という。

(音楽ナタリー 2022年7月11日)

と語っています。
作詞作曲はボーカルの大木温之が担当しました。

Theピーズというバンド

Theピーズは1987年に結成したロックバンドです。メンバーの入れ替わりがありましたが、現在はボーカル・ベース・ギターの大木温之、ギターの安孫子義一、ベースの岡田光史、ドラムスの茂木左の四人で活動を行なっています。サンボマスターの山口隆やウルフルズのトータス松本が影響を受けている他、千秋や田村亮などのタレントもファンであることを公言しています。文学界に与えた影響も大きく、芥川賞の絲山秋子が『逃亡くそたわけ』で歌詞を引用、また伊坂幸太郎が曲をもとに短編小説『実験4号』を執筆しています。代表曲は「生きのばし」「実験4号」「パープー」「日が暮れても彼女と歩いてた」など。

「生きのばし」考察

死にたい朝

それでは考察に入りましょう!

死にたい朝 まだ目ざましかけて明日まで生きている
痛み 小銭 眼あけたまま ヤケ起こす熱も出ない

Theピーズ「生きのばし」

さっそくやる気がない(笑)
目を覚ました語り手。しかし何だか気分はナーバス。死にたいし体はなんか痛いし部屋には小銭が散らばっている。眼は開いている。だけれど起きる気にはなれない。ヤケ糞になる気力もない。かといって死ぬ気にもなれない。とりあえずまた明日のために目覚ましをかけておく。
これが曲の冒頭ですよ? こんな崩れかけの生活描写から始まるんですよ?
もう何もする気もなれないし、死ぬのも嫌だ。だからしゃあないけど明日も生きる。だめだめな語り手ですが、なんか良い。きれいごとばっかりの歌詞よりはよっぽど元気がもらえると思いませんか?

見てんじゃねえ!

サらし なめられ アタマ下げに 図々しくヘラヘラと
電車 ゲロリン オヤジ クソガキ
誰も見るな生きている

Theピーズ「生きのばし」

語り手はとことんだめな人間です。とりあえず仕事はしていそうな雰囲気ですが、恥を晒すし、なめられるし、失敗して頭を下げに行くも内心ではヘラヘラしている。しかし反骨心は一丁前で、通勤電車の混雑や道の吐しゃ物、オヤジにクソガキ、周りの色々なものに怒りを覚え、また自分自身も彼らに存在を笑われているような気がして腹が立ってくる。「俺を見てんじゃねえ! これでも頑張って生きてんだよ!!」とでも叫びそうな勢いで。

だらだら生きてたっていいだろ

メシ喰ーぞ めんどくせーぞ
くたばる自由に 生きのばす自由

Theピーズ「生きのばし」

うだつのあがらない生活を送る語り手。生きる意味なんてわからねーけど、死にたくないからめんどくさいけど飯を食う。たしかに生きていてもしょうがねえかもしれねえけどよ、別にいいだろ? 自殺してくたばる自由もあるんだから、だらだら生きてたっていいだろ!
すがすがしいまでのダメさ加減。でもこの歌詞、私はすごい好きなんです。「くたばる自由に生きのばす自由」。この世には自分の存在理由がわからずに自殺をする人がいます。そして自殺した人間には、とても優しい日本人。「自殺するのも自由でしょ」という人も普通にいます。だったら逆に、だらだら生きていたっていいじゃない! 何のために生きてるかわからない生活をしたっていいじゃない! 使う当てのない栄養をとるために飯を食べてもいいじゃない! この逆転の発想こそが「生きのばし」のキモ、心臓部なのです。

くたばれ理想論

辿り着く景色だけがすべて キミの名前はなあに
遠くの島 家族 平和 今にみろで過ぎてゆく

Theピーズ「生きのばし」

そして語り手は「理想」とやらを徹底的にこきおろします。
目標とか過程とかはどうでもよくて、どこに辿り着いたかだけが大切。予定も予測も必要ない。その時々で会えた人や物に名前を尋ねればいいじゃないか。遠い南国の島、家族、そして平和。そんな理想的なものが時に自分を急かしてくる。誘惑してくる。くたばっちまえ、そんなもの。「今にみろ」「今にみろ」と言いながら、時間はたしかに過ぎていきます。
一見行き当たりばったりの考えようで、実は意外と効く。「あれをするべきなのに」「これをするべき」ばっかりの生活じゃいつか苦しくなります。時にはこんな生き方をするのもいいかもしれません。

だって焦りたくないもん

やめよーか 流そーか
焦りたくねーで 生きのばすだけ

Theピーズ「生きのばし」

やりたくないことがいっぱいある。仕事、勉強、努力、云々。やめようかな。後回しにしちゃおうかな。だって焦りたくないから。人生は所詮、イノチの引きのばし。
これが語り手の考え方。苦しくなってくたばるくらいなら、自分の楽なようにして、だらだら生きちゃえ。単純かつ勇気のいる姿勢だと思います。

でもやっぱり……

Rock'n Roll 絵日記 ジンロ 粘る部屋 死にたくなる朝といる
乾け センタクもん で また明日
どこまでもぬるい景色 今にみろで過ぎてゆく

Theピーズ「生きのばし」

好きなロックンロール、書き溜めた絵日記、ジンロ(焼酎)、酔っぱらってねばねばする感覚でいる部屋。二日酔いから来るナーバスな気持ちで朝から死にたい。たしかにだらだらした生活は楽ちんです。でもやっぱり心の靄はとれません。
結局語り手は今日も洗濯物を干します。早く乾け。明日はきっとこの服を着るのでしょう。ベランダから見える街の景色は、自分の怠惰な生活を表しているようにどこか生ぬるい。「今にこんな生活脱け出してやる」。そんなことを思いながら、昨日と変わらない今日が終わっていきます。

死ぬくらいなら生きてくれ

あの日あの空拝めるのは あの日のボクらだけ
精々生きのびてくれ

Theピーズ「生きのばし」

最後に語り手は聴き手に話しかけます。あの日の景色や空を見る事ができるのは、あの日を生きていた人間だけ。俺の生活はめちゃくちゃ。だけどなんとか生きのばして、明日も明日の空を見る。だから、おまえも精々生きのびてくれ。
徹底的に堕落し、破滅しながも、それでも生きることをやめられない語り手。そんな彼からのメッセージは、なぜか心に残るものがあります。もちろん彼の生き方をそのまま真似するのは危ないですが、一日くらいとことんだらだらしてみるのもいいかもしれません。

おわりに

今回はTheピーズの「生きのばし」について考察しました。よく日本人はまじめすぎると言われます。朝早くから起きて夜おそくまで働く。まじめなのは良いこと。でもそれでくたばっちまったら意味がありません。そんなまじめすぎる人々に、強烈なパンチをぶつける「生きのばし」。みなさんも生きるのにつらくなったら、この歌詞のようにだらだらと今日を生きてみるのもいいかもしれません。ただし、やり過ぎには注意です(笑)
ではまたお会いしましょう。ありがとうございました!

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