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舞台劇ART~「分からない」をそのまま受け止める力

イッセー尾形小日向文世大泉洋
芸達者な3人の舞台役者による会話劇。
面白くならないわけがありません!

三軒茶屋の世田谷パブリックシアターでの公演『ART』を観てきました。
一階最後列ほぼセンターで、案外観やすかったです。

真っ白な背景に白い線が斜めに描かれている、一枚の現代アート作品を巡り
その作品を評価するか否かを起点に繰り広げられる、3人の男たちの会話が何ともシュールだったり、おかしかったり。

<追記>
イッセー尾形演じるマルクは「面倒くさい初老男」感が満載、小日向文世のセルジュは彼の得意分野の一つである「怜悧で掴みどころのないインテリ」(ちなみに、もう一つの得意分野は、正反対におつむの軽い「いい人」)、大泉洋扮するイヴァンは二人の友人の間で右往左往する「ことなかれ主義で愚痴っぽい(笑)人」。
場面によって1対1だったり、2対1だったり、1対1対1になったり…。絶妙なバランスの3人で見せる「言葉による殴り合い」。
その行きつく先は!? 
3人の台詞がとても聴き取りやすく、スリリングなやり取りを楽しめます。

なお、セネカ(古代ローマの政治家にして哲学者)とかレメディ(代替医療の一つ、ホメオパシーでいう、副作用のない「治療薬」)とか、日本人にはあまり馴染みのない言葉も頻出しますが、翻訳劇ですから仕方ないですね。
<追記終わり>

どこか不思議な1時間半余りでした。
結局「分からない」を率直に受け止める胆力が、人間にとって、とても大切ということでしょうか。
子どもの頃、友人に馬鹿にされたくなくて、つい知ったかぶりをしてしまいそれを指摘されて強烈に恥ずかしかったことなどを思い出したりしました。

1994年にパリのシャンゼリゼ劇場で初演、極上のコメディとして賞賛され、世界各地に進出した舞台『ART』。パリではモリエール賞の最優秀作品賞、ロンドン、ウエストエンドではオリヴィエ賞の最優秀新作コメディ賞、更にNYブロードウェイでトニー賞の最優秀作品賞と、世界の名だたる賞を総なめにしています。
日本では、1999年にオリジナルの演出家であるパトリス・ケルブラ氏演出、
市村正親、平田満、益岡徹の出演で初演。
2001年には市村正親、平田満、升毅で再演。
2013年に、千葉哲也演出、萩原聖人、山崎裕太、須賀貴匡の出演で上演、
2015年には初演と同じメンバーで再演されているとのこと。
今回の座組での公演は、2020年の初演時にコロナのため途中で休止になってしまっていたものです。

本来、「15年来の親友である中年男3人」という設定のようなので、今回、大泉が他の二人よりかなり若い分、3人の関係性が作者の意図とは少し違って見えていたかもしれませんね。
それでも、年齢や職業は違うけれど、長年親しくしている3人という間柄が無理なく頭にすっと入ってきたのは、日本ではなくパリが舞台ということが奏功していた感じです。

演出は小川絵梨子さん。翻訳物を中心に精緻でタフな舞台づくりで知られ、日本演劇界屈指の演出家の一人です。なので、お名前は『法王庁の避妊法』(2006年)の頃から存じていましたが、演出された舞台を実際に観るのは、多分初めて。
役者の立ち位置や舞台の転換、ちょっとしたタイミングなど、よく考えられていて、とても楽しんで観られる舞台でした。

役者3人については、いうことなし。
本当に安心して作品世界に身をゆだねていられます。
とりわけ、大泉洋の約5分に及ぶ長台詞は、相当早口なのに「立て板に水」で圧巻。台詞が終わったとき拍手が沸いていました。

『ART』ポスター


観劇前後のお楽しみは食事にお茶。今回も気に入っているカフェでランチとお茶を楽しみました。
店員さんがお客さんごとに選んでくれる珈琲カップが綺麗♪
名物のシフォンケーキ(紅茶)も、ふわふわで生クリームたっぷり。
美味しかったです (^^)/

渋谷のカフェ『羽當』


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