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『丘の上の本屋さん』&『オットーという男』 古書と猫がつなぐ慈愛

派手さはなくとも温かくて味わい深い、とても素敵な映画を二本観ました。


一本目は『丘の上の本屋さん』
直球のハートウォーミング・ストーリーで、タイトルからして、ほのぼの感が溢れています。

丘の上の本屋さん

イタリア中部、風光明媚な石造りの村に佇む、丘の上の小さな古本屋が物語の舞台。街並み、風景がとても美しい! 老店主・リベロの元には、何かと彼を気遣ってくれる隣のカフェのウェイター、二コラや、ごみ箱に捨てられていた本などを買い取ってもらいに来る男、そして個性的な注文を持ち込む様々な客が出入りしています。リベロは彼らに誠実に対応し、店はこの街のいわばオアシス的存在でした。
ある日、いつものように店の奥に座っていたリベロは、店先に置かれた本をじっと見つめるアフリカ移民の少年エシエンに気付きます。
少年の置かれた状況を察したリベロはエシエンに、本を雑に扱わないようにとだけ注意を与えて、本を貸すことに。コミックに始まり、イソップ童話、ピノキオの冒険、星の王子さま、アンクルトムの小屋、ドン・キホーテ…。
少年の意欲に応えてリベロは徐々に難易度を上げながら一冊ずつ本を貸し、エシエンが読後感を話して、リベロが新たな視点や考察を加えるやり取りを繰り返しながら、含蓄に富む会話を対等に交わすようになっていきます。
主筋の合間に、古書店に持ち込まれた1950年代の女性の日記の記述や、ニコラと古書店の女性客との恋の駆け引きなどが挟まれ、老店主を核とした交流が穏やかに時にユーモラスに、定点観測的手法で描かれます。

リベロの思慮深さを湛えた目と、好奇心旺盛なエシエンの利発さが窺える目が印象的。二人の心情の細やかな表現と、他の登場人物達の振りまく程よいスパイスの加減で、心地いい余韻を感じられる佳作でした。
(読書に関心のない人には、おそらく退屈だろうとは思いますが…)

リベロ爺さんのエシエンへのメッセージ「大切なのは、幸せになる権利だ」という終盤の一言を、観終えて嚙みしめています。

また、最後に流れる「本に囲まれた環境を用意してくれた両親に感謝する」というような内容の献辞も良かったです。


二本目は『オットーという男』
トム・ハンクス主演の、こちらはちょっと捻ったハートウォーミング・ストーリーです。

オットーという男

原作は世界的ベストセラーとなったスウェーデンの小説で、これを映画化しアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた『幸せなひとりぼっち』を、同作に魅せられたトム・ハンクスがプロデューサーにも名を連ねてリメイクしたのだそうですが、オリジナル作品は未見です。

最愛の妻を亡くして孤独を深める、気難し屋のオットーが、近所の住民たちの明るさや、いくつもの偶然に助けられて、心を開いていく様がユーモラスに綴られます。
何といっても、トム・ハンクスの演技巧者ぶりが一番の見どころとなる作品です。曲がったことが大嫌いで周囲に煙たがられる偏屈っぷりが堂に入っている一方、次々降りかかる「余計なこと」に戸惑いつつも結局、根の善良さが顔を出してしまう、その気が進まなそうな素振りが飛び切りチャーミングでした。
ご近所さんたちの中では断然、向かいの家に一家で越してきたメキシコ出身の陽気な女性マリソルの人懐っこさと彼女の娘たちの無邪気さ、おしゃまさが光っていました。
また、ある硬貨と野良猫が重要な役割を担います。

エンドロールに流れる写真や子どもたちの絵も、良い味を出していました。


好みの映画に二本続けて出会えて、嬉しくなりました。

桜前線の北上が始まりましたね。
依然、内憂外患 の状況が続きますが
春 を多くの方が楽しめる環境になりますように…



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