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体験記 〜摂食障害の果てに〜

低ナトリウム血症


 二〇二三年(令和五年)二月二六日の真夜中、お腹が痛い気がして目を覚ましました。トイレに座ると、下痢が雪崩となって出てきました。それは尋常ではない勢いで、内臓まで出てきそうでした。すると突如、体が燃えるように暑くなり、吐き気が押し寄せてきました。全身の力が下に落ちていくようで、座った姿勢を保てなくなりました。下痢はまだひっきりなし出てきます。できるかどうかわかりませんでしたが、無理に下痢を止め、羽織っていた半纏を脱ぎ捨てると、床に倒れ込みました。何がどうなったのかわからず、自分の身に何が起こっているのか不安で、恐ろしくなりました。

 しばらく、そのままでいると、体が冷えてきて、吐き気が少しおさまりました。下痢も、止まったままです。這うように体を起こし、壁つたいに部屋へ戻ると、布団にくるまりました。まもなく父が仕事に行く時間でした。でも、体が言うことを聞かず、起き上がれませんでした。母が異変を察知したらしく、

「起きるな、寝とけ。」

 と、私の代わりに、朝の支度を整えてくれました。

 夕方になっても、吐き気はおさまりませんでした。何も食べれず、とうとう救急車を呼ぶ羽目になりました。受け入れてくれる病院が見つからず、近くの内科のクリニックに運び込まれました。

 内科のクリニックでは、『低ナトリウム血症』と診断されました。受けた処置は、吐き気止めとナトリウムの点滴でした。レントゲンや血液検査の結果には異常が認められず、五日間、点滴治療に通いました。吐き気止めをしているのに、全く吐き気はおさまらず、一日中食事できない日が続きました。そこで家族は、何かもっと違う病気が原因ではないか、もっと大きな病院で診てもらった方がいい、と話し合いました。
 三日目あたりから、歩く力がなくなり、トイレに行くのがやっとになってきました。クリニックに着いたら、車椅子で処置室に運び込まれ、順番が来るまで、横になって待っていました。その間も嘔吐がきて、通院が苦痛でした。動くと吐き気が込み上げてくるのです。
 通院四日目の昼過ぎのことです。点滴が終わって家に帰ったら、吐き気が幾分鎮まり、椅子に座って日向ぼっこをしていました。すると、ふいに、左側の背中が打ったように痛くなりました。母に湿布を貼ってもらい、原因がわからないまま、横になりました。
 ところが五日目の午後は、高い所から落ちてコンクリートで打ったような痛みに変わっていました。息をするたびにハンマーで打たれるように痛いのです。これは何か恐ろしいことになっている、と気付きました。
 その夜、トイレに行きたくなって目を覚ましました。「トイレに行く時は、呼んで」と母に言われていましたが、ぐっすり眠りこんでいる様子が寝息で伝わってきました。疲れているんだろう、と思うと起こす気になれず、一人で壁を伝ってトイレまで行きました。
 ところが、用を足してドアを開けたら、全身の力が液体になって足から流れ落ちていくように失われ、うつ伏せに倒れました。声を出す力も残っていません。どうやって助けを呼ぼうか、と、見回すと、目の前に自分の脱いだスリッパがありました。その片方を掴み、パタンパタン、床を叩きました。

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