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【創作お話】私とちび坊

ある日私の前にぽつんと小さい女の子が現れた
顔ははっきり見えないけど、緊張しているし不安そうだなと思った

私は唐突にこの子は私なんだなと理解した  私はこの子をちび坊と呼ぶことにした

一緒に行こうとちび坊の手を握ると、驚いたようにこちらを見上げて、そしてぎゅっと手を握り返した

その後はいつものように、学童保育へ子どもを迎えに行き、子どもたちに1日の様子をたずねる

「ふつう」そうか
宿題は?「やってない」
なんで?「わかんなかったー」

座る間もなく晩ごはんの支度をして、宿題をやらせて、風呂に入れ、歯を磨かせ、目標の時間をいつも過ぎてしまって布団に入る

しまった。ちび坊はどこだ。

ちび坊は一緒に横になっている
下の娘よりも少し小さいのかな。娘にそうしているようにちび坊を抱きしめながら寝よう。ちび坊は驚いていた

「せっかく来てくれたんだから何かしたいことある?」たずねてみた
ちび坊は「なーんにも」と言った

この子は私が作り出した私だから、私が面倒がっているのかなと思ったけど、何もわからない

実在する息子と娘の寝息に混じってちび坊の小さな寝息がきこえる
どうして今私のところに来たんだろう

次の日は土曜日だが私は出勤日。子どもたちは、のんびり過ごしている

朝食を食べる気分じゃないし、支度も早々に終えてしまった
子ども達のことは夫に任せて、家を出ることにした

子ども達に行ってくるよと声をかけるとTVに顔を向けて「行ってらっしゃい」と言っていた

電車は思いのほか人が多く、座ることが出来なかった
そうだ。ちび坊はと思い出すと、腰の辺りにしっかり捕まって立っていた
抱っこしてあげよう。ちび坊を抱き上げて電車に揺られる

いつもはスマホを見て過ごす時間に、ちび坊のことを考えて過ごした

朝まだ食べてないからさ、何食べたい?
「何でも」そうかーあのカフェでモーニングを食べよう。「やったー」

ちび坊がやっと大きな声で喜んだ
少し空いてきた電車の中で、ちび坊と手を繋いで喜んだ
なぜか身体の中に血が巡り暖かくなるのを感じた

お目当てのカフェはまだ開いていなかった
ちび坊ごめん。違う店でいい?
「何でもいいよ」
たまに行く店に入ることにした

「これ食べようよ」ちび坊は小倉トーストを選んだ
私1人だったら、見るからに甘そうで罪悪感がすごく、選ばない代物だが、せっかくちび坊が選んだんだからこれにしようと決心した

運ばれてきた小倉トーストは写真の通りで、ふっくら焼き上がった厚切りのトーストにはじんわりとバターがスミまで塗り込まれていた

小さなお皿に添えられた大きなこし餡の玉から少しすくってトーストに乗せて食べた

すっごく甘くて美味しい。
その時急に声を上げて泣きたくなった
涙が流れそうになったので急いでハンカチで抑えた
小倉トーストを食べているだけなのに涙が出る

ちび坊ありがとう
あなたが一緒だから私やっと小倉トースト食べれた
美味しい。ずーっと食べてみたかったんだよね
するとちび坊は「そうでしょう」と言って賢そうな目を輝かせた

私は長い間自分の心の声を聞くことをやめていたんじゃないかな
よくよく思い返せばもう子どもの頃から既に聞こえてなかったように思う
こうした方がいい。こんなことすべきじゃない

大きくなって社会人になって母になって、経験値が増えるたびに、賢くなるたびに、自分の心の声はどんどん小さくなっていった

「イヤなんでしょう?」ちび坊が私の顔を覗き込んで聞く
「私が一緒に『イヤだ』って言ってあげようか?」
ありがとう。ちび坊が一緒なら言える気がする

ちび坊はどうして出てきてくれたの?
するとちび坊は「私はずっとそばにいたよ。あなたが気がつかなかっただけ」そう言っておかしそうに笑った

心の奥深くに仕舞い込み過ぎて自分の本心が自分でさえ見つけることが出来ないなんて
生きるって本当にやっかいだ
でも毎日小倉トーストは食べれないのも事実なんだけど

また食べに来よう。
ありがとうちび坊

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