見出し画像

【創作童話】どうして坊やと迷惑の木

小さなネズミの男の子のちび坊は、4匹の兄と3匹の姉と暮らしています。
ちび坊には知りたいことがたくさんあります。
「どうして夏は暑くて冬は寒いの。
どうしてお金でものが買えるの。
どうして大人は働いて子どもは働けないの。」

知りたいことを思いつくと、ちび坊はすぐ、そばにいる家の人や、友だち、先生に聞いてしまいます。教えてくれる時もあるし、誰もわからない時もあります。

あんまりどうしてどうしてと聞くものだから、ある日兄さんネズミに
「ちび坊お前はどうして坊やだね。」と言われ、それからは兄姉みんながどうして坊やと呼ぶようになりました。
ちび坊は自分がちび坊でもどうして坊やでもどちらでもいいやと思っていましたが、ある時、姉さんネズミがちび坊に言いました。
「あんまりどうしてどうしてって色んな人に聞くのは迷惑なのよ。だから兄さんはからかってあなたをどうして坊やと言ったのよ。」と言いました。

どうしてって聞くのは、どうして迷惑なんだろう。ちび坊は思いましたが、姉さんが困るだろうと思って聞くのをやめました。

ある日ちび坊は、大人のネズミたちがこう話すのを耳にしました。
「あの坂の下の誰も住んでいない家にある大きな木は本当に迷惑だね。迷惑の木だよ。」
迷惑の木か。ちび坊は自分も迷惑だと言われたことを気にしていたので、その迷惑の木のことが知りたくなりました。

ちび坊がその村はずれの坂の下にある大きな木を見に行くと、ちょうど夕方でたっくさんの鳥がその木に帰ってきたところでした。
鳥たちはせわしなくキィキィ鳴いていてちび坊はおどろきました。「たしかにうるさいな。だから迷惑の木なんだな。」

だんだん寒くなって来たある日、ちび坊は迷惑の木を思い出して見に行くと、たっくさんあった葉っぱが全部落ちて、辺り一面かれ葉でうまっています。「葉っぱだらけだ。やっぱり迷惑の木なんだな。」

また思い出して、迷惑の木を見に行った夏の暑い日、迷惑の木にはたっくさんのセミがとまっていてビービーと鳴いています。ちび坊は耳をふさぎました。「あーこれも迷惑の木になってるね。」

ふとふり向くと、迷惑の木のある家のとなりに住むお婆さんが、部屋の窓からあの木を見ています。
ちび坊は思わず、「お婆さんどうして木を見ているのですか?」とたずねて、すぐにしまったと思いました。またどうしてって聞いてしまった。
おばあさんはセミに負けないよう大きな声で教えてくれました。

「今はこんなにいいお天気だけど、夕方から雨になるようですよ。雨がたっくさん降って、その木のあしもとが水につかったら、逃げなくちゃいけないから、観察してるんだよ。」

そしてちび坊は、家に帰ってから兄姉たちにその話をしました。みんなそんな話は知らないし、うちは坂の上にあるから心配ないんだよと言ってその話は終わってしまいました。夕方になって雨が降り始めました。夜になってもその雨はやまず、むしろ雨はどんどん強くなって行くようです。

ベッドに入ってからもちび坊は心配でした。あの木の足元はどうなっているだろうか、お婆さんは無事だろうか。すると玄関のあたりがガヤガヤとさわがしくなるのがわかりました。大きな兄や姉たちが、昼間ちび坊が話したお婆さんを家に連れて来ていたのです。

姉さんが教えてくれました。「ちび坊の話を聞いて、心配になって兄さんたちが見に行ってくれたのよ。そうしたらあの木の根元が水につかっていてね。おばあさんの家を訪ねて連れて来たのよ。」

夜じゅう雨が降っていたようです。明くる朝、村長さんがちび坊の家を訪ねて来ました。「よくお婆さんを連れ出してくれましたね。お婆さんの家は大雨で隣の空き家もろとも流されてしまったんだよ。」

「お婆さんとは知り合いだったのかね」と村長がたずねると、姉さんが得意そうにこう言いました。「うちの末っ子のちび坊が昨日、お婆さんと話をして、洪水になるかもしれないと心配していたと聞いて来たんですよ。ちび坊のお手柄なんです。」

ちび坊はおどろきました。そしてあの木のことを思い出しました。
「あの木は無事ですか?」
村長さんは「あの木?ああ迷惑の木のことかい?あいつは根がしっかりしているからね。あの木はそのままあそこにいるよ。どうしたんだい?」
ちび坊はお婆さんから聞いた話を村長さんにも教えました。
「なるほど。じゃあお婆さんを助けたのは、ちび坊君とあの木だったんだね。」
木の話はあっという間に村じゅうに知れ渡り、村の人たちも大雨の日には、あの木を観察することになりました。そうしてあの木は迷惑の木ではなくお知らせの木と呼ばれるようになっていました。
 ちび坊はどうなったって?兄姉たちの誰もちび坊をどうして坊やとは呼ばなくなりました。自慢のちび坊ですからね。

#創作童話 #ショートショート

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

サポートは活動の励みになります!ありがとうございます😊いただいたサポートは恩返しではなく恩送りとして循環させていただきます〜✌️