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コーダというのは

アカデミー賞で
コーダ愛のうた
が受賞しました。

コーダとは親が聴覚障害で健聴者である子供を意味します。
キットカットでハロウィン限定バージョンの
手話イラストを描いていらっしゃる門秀彦さんの
自伝エッセイです。
許可をいただきましたので
掲載いたします

台所の絵

ーーー
僕は声が聞こえない世界に生まれました。
それは音は聞こえるのに声が聞こえない世界。
最初、僕の声は誰にも届きませんでした。

父と母は僕の産声を聞いた事がありません。
父と母は僕が最初にしゃべった言葉を知りません。

父と母は僕の歌声を知りません。
父と母は僕が隣の部屋でどんなに泣き叫んでも気づきません。
壁を叩き
床を叩き
どんなに大きな音を出しても
それは届きませんでした。

最初、父と母の声は僕には見えませんでした。
僕は父や母に絵本を読んで聞かせてもらったことがありません。
僕は父や母と一緒に歌を唄った事がありません。
僕は父や母と電話で話した事がありません。
僕は父や母の涙の理由がわかりません。
一生懸命見つづけました。
見ている間は安心できました。
でも目を閉じるといつも一人ぼっちでした。

やがて僕の耳には外の世界の音が聞こえ始めました。
「耳が聞こえないのに偉いねぇ」
「耳が聞こえないのに立派だねぇ」
「耳が聞こえなくてかわいそうにねぇ」
「耳が聞こえなくて辛いだろうねぇ」
父の笑顔が悲しく見えました。
母の背中が小さく見えました。
自分がかわいそうな子に見えました。

やがて僕の耳には変な音が聞こえ始めました
「耳が聞こえないのに子供のしつけは出来るのかしら」
「耳が聞こえないのに仕事が出来るのかしら」
「耳が聞こえないのに字が読めるのかしら」
「耳が聞こえないのに難しい話がわかるのかしら」
僕は父や母と引き離される気がしました。
僕は自分の聞こえる耳をふさぎたくなりました。
僕は時折、聞こえないふりをしました。

僕は音のある世界に出て行かなくてはならなくなりました。
友達は僕の名前を呼びました。
友達は僕の小さな声にも振り向きました。
友達は僕に話しかけました。
僕は友達とおしゃべりしました。
よけいな事までしゃべるようになりました。
けんかしたりもしました。
でも友達の声は目を閉じても聞こえました。
僕はもう目を閉じても一人ぼっちじゃなくなりました。

やがて、僕の声は音のある世界に届き始めました
僕の声は父や母の声になりました。
僕の声は父や母を音のある世界に連れ出しました。
僕の声は僕の耳に聞こえる変な音から父と母を守りました。
僕の声は僕の耳に聞こえる変な音を叩きのめしました。

音のある世界がゆがんで見えました。
音のある世界が汚れて見えました。
音のある世界から離れられない自分も汚れて見えました。

やがて、僕の目には父と母の声が見えはじめました。
誰も悲しむ必要はないんだよ。
誰も責める必要はないんだよ。
おまえの声はちゃんと見えているんだよ。
おまえの心の声はちゃんと聞こえているんだよ。

僕は泣きました。

そして
僕の耳にはやさしい音が聞こえるようになりました。
僕の声は遠くまで響くようになりました。
僕の目は綺麗なものが見えるようになりました。

僕に耳をくれてありがとう。
僕に声をくれてありがとう。
僕に目をくれてありがとう。
僕を生んでくれてありがとう。

ーーー

2004年に書いた自伝エッセイ
【世界がこんなに騒がしい日には】より
(とっくに絶版です)

#門秀彦 #世界がこんなに騒がしい日には #kadohidehiko #coda #コーダ #codaartist


私は娘に絵本を読んであげませんでした。
話しかけもしませんでした。
理由は私の下手な発音を覚えてほしくなかったから
友人にお願いして毎日いろんな友人が娘に話しかけたり絵本を読んでくれました。
映画も連れて行ってもらいました。
字幕がないと私には厳しかったから

そんな話を聞いた恩師は

バカだなぁ
お前の下手くそな発音を土台に上手な日本語を取得出来るチャンスを奪うなんて←

そんな恩師は大学の教授になって
生徒から神様と言われて←

娘の話はまた書きます。

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