文フリ感想 2023/11/20

 遅ればせながら文フリの話を書く。初出店とあって不安だったのだが、おかげさまで完売した。心より御礼申し上げます。

 当日の朝、現地へと向かう電車に揺られながら乗り換え案内を調べていると、モノレールの運賃があほのように高いことに気づき急遽品川で降車、京急に乗り換えて平和島駅を目指すことにした。しかし突発的で不用意な行動は得てしてうまくいかないもので、電車がなかなか止まらない。気づけば平和島を通り越して京急川崎というところまで来てしてしまった。慌てて向かいの電車に駆け込む。六郷土手(ろくごうどて)だの雑色(ぞうしき)だのパッとしない駅名が今の間抜けさとよく似合っているような気がした。
 平和島に戻り、太く強い道路に沿って歩いていく。迫る開場時間と物流トラックの轟音に急かされながらTwitterで設営完了したフォロワーの様子を見ると、なんとテーブルクロスやポップで小綺麗に飾り付けしている。まずい、私にはなんの用意もない。大慌てでアイビスペイントを開き、アイコンを模した背景に屋号を入れた看板を作る。我ながら驚くが値札すらも用意しておらず、これも適当に作る。コンビニで印刷し、ガムテープを買う。ここまでわずか10分間の出来事である。


 小走りになって流通センターに滑り込むと、来場客の長蛇の列ができていた。その横を「出品者なんですけどォ」という顔ですり抜けて第一展示場に入るや否やワッと広がる雑踏音。想像以上の盛り上がりにワクワク半分不安半分で自分のスペースに向かうと、もうすでに両側のブースは準備万端であった。左側はルポ漫画やエッセイやラジオグッズなどを売っている威勢の良いお姉さんたち。テーブルの飾り付け方がこなれていて、クロスはもちろん、カゴや箱で立体的な売り場を作り出して商品を陳列、スマホスタンドを活用した幟のようなポップを掲げるなど、膝を打つような工夫を凝らしている。もう片側、私と同じ長机にはTikTokやInstagramやYouTubeShortに恋愛あるあるや女子あるあるやアラサーあるあるやマッチングアプリあるあるや別れ話あるあるやモーニングルーティンやナイトルーティンや飲酒雑談配信をアップロードしているインフルエンサーの姉妹(実の姉妹ではないらしい)が座っており、当然ながら机の上はきらびやかに飾られていた。かたや私はそれぞれ20部もないくらいの薄い冊子を木目模様の天板上にただ積み上げ、アイコンのモノクロカラーも災いして非常に無骨な仕上がりを見せた。両側の完成度や販売規模に比してあまりに素朴で、下手すれば姉妹の裏方スタッフと間違われるのではないかという店構えであった。
 「間も無く開場します」というアナウンスにピリッと張り詰めたのも束の間、すぐに人で溢れかえった。開始30分ほど誰も寄り付かず、オワタと絶望顔を浮かべていると、どこからともなくぬっと現れたお客さんが私の商品を手に取り、パラパラとめくったのち「両方ください」と仰った。他人が自分の創作物に価値を認めてお金を払ってくれたということがちょっと信じられないくらい嬉しくて、口も手もおぼつかなくなりながらお釣りを渡し「もしかしてTwitterの相互だったりします…?」と聞くとROM専であるとのことで、最後に「Twitter好きっす」と言い残して去っていった。こんなに嬉しいことがあるかね。その後も知人が訪ねてきたりフォロワーたちが買いに来てくれたり見知らぬおばあさんがべた褒めしてくれたりと充実の数時間を過ごした。
 ふと、一人で参加しているせいでブースを離れられないことに気づいた。早く売り切らないと自分が買い回れない。にわかに焦りを感じたが、売れるのを待つほかない。周りを見回すと、常に膝に手を置いてニコニコ接客体制になっているお店も多かったが、自分が客ならあまり気にされても気まずいし、どうせ私のツイートや記事を好んで読んでるようなフォロワーは私同様に陰気寄りの人間だろうと思い、机から少し離れた位置にまで椅子を下げ、スマホに視線を落としながら最低限の注意を配っていた。そうしているうちにもぽつぽつ売れて、閉場一時間前には全て売り切れた。重ね重ね御礼申し上げます。よっしゃと意気込み、気になっていたブースを回る。先ほど買いに来てくれた出品者の方にご挨拶をしたり、Twitterの知人を訪ねたり、興味を引く本を買ったり、良い文フリを過ごすことができたと思う。買った本は全部読んだが、どれもおもしろかった。みなさんはすごい。

 その後はフォロワーとご飯を食べて、お酒を飲んで、終電で帰った。今後も出店応募しようと決めた。次はもっと装丁や装飾にこだわろう。もっといい文を書こう。

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