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チョコ停

また「チョコ停」や。
パーツフィーダーのバイブレーションが合ってないんや。
※「チョコ停」とは産業ロボットが動作中にトラブルで少しだけ動いて停止すること。業界語かな?

「主任、ワークが足りませんわ」
「棚の中段に中村が箱に入れて置いとったで」
「はーい」
この産業ロボットはピエゾ素子を良否判定して良品をパッケージングする装置や。
聞けば誰でも知ってるメーカーの依頼で組み立てている。
ベトナムの新工場に入れはるそうや。

小さなピエゾ素子を次工程に送るのにパーツフィーダーという装置を使う。
これは、振動を利用したものだ。
この調整がなかなかあたし、うまくできない。
バイブが強過ぎると素子が踊って跳ねるし、弱いとラッシュする。

良否判定後に良品をそのままにし、不良品をロボットがはねる。
オムロンのセンサーを苦労して取り付けたんや。

緑のベルトに乗って、素子が流れていく。
Nゲージの電車を見てるみたいに、あたしは頭を寝かせて近くで見る。

「なおぼん、髪の毛」
主任に注意された。
ベルトに巻き込まれそうになっていた。危ない、危ない・・・

サーボモーターが綺麗に揃って動くのは壮観だ。
PLC制御は頼もしい。
制御屋さんで、指の綺麗な兄さんが、ラダー(プログラム)を組んで、要望通りのタクトタイムをクリアしてくれる。
しかし、あたしのパーツフィーダがチョコ停の原因なんだな。

このプログラマの兄さんは「おネエ」だった。
だから、話しやすい。
おもしろい。
おちょくりがいがある。
「いやぁん、またやっちゃったぁ」
ひとりごとが多いのだ。
タッチパネルをたたくとき小指が立っている。

「この色、きついわねぇ」
パネル画面の緊急停止のボタンの背景がケバイのだ。ちかちかする。
「それでええのよ。緊急停止なんやから」
「そうかなぁ」
小首を傾げる所作が変に、可愛らしい。

あたしは普段はカタギの仕事をしているのだ。
どこにでもいる機械工だ。

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