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夫が脳梗塞になったときの話 その6

リハビリ病院に転院

救急で運ばれた大学病院から、リハビリ設備の充実した病院へ移れと言われてしまったので、義父と転院の手続きに行った。
行く前は、専門的なところでリハビリに専念すれば、きっと未来は明るい!という気分だったのだけど、実際の病院を見た帰り道は二人とも無言だった。

リハビリの病院を見たのは初めてだった。
患者さんはみんな同じ水色の病院着。ほとんどがかなりの老人。
病院内を案内してもらったときに見えた洗面所の台には、大きく名前の書いてある歯磨き用のカップがずらりと並んでいた。
夫がここの一員になるのかと思うと、正直気が沈んだ。
義父も同じ気持ちだったのだと思う。

大学病院にいられないのかなと思って、一応聞いてみたけれど、それはできないとのことだった。

転院はタクシーで。鼻にチューブを挿したままの夫を乗せ、転院先の病院に向かった。途中でちらりと家が見える道を通った。早く帰りたいと夫がつぶやいた。

新しい病院では、いろいろな規則があった。着るものはすべて病院指定のもの。下着を初め、持ち物には全部名前をつける。看護師さんが名前をテプラで準備してくれた。細いテプラは眼鏡のつるにつける用。スマホの充電コードはコード部分とコンセント部分の両方につけなければならない。
律儀に義母はパンツにマジックで名前を書いた。

部屋は6人部屋だ。そこしか空いていないという。昼間というのに、大声で誰かの名前を呼んでいるおじいさんも同室だ。
空いたら個室にしてください。わたしは看護師の上の人に頼んだ。
そうですよね、他の人のこと気になりますよね。

看護師さんは、偉大。患者だけじゃなくて、その家族のことも気にかけてくれるのだ。明るくそう言ってもらえただけで、最初の緊張がちょっと緩んだ。

ところがまた夫が天邪鬼なのだ。
個室じゃなくていい。
彼の言い分は、快適じゃない環境の方が、早く良くなってここを出ようと思うから。

看護師さんは、偉大。夫の意見も汲み、家族にも気を遣い、他の部屋が空いたときに、大声で人の名を叫ぶおじいさんとは別の部屋にしてくれた。

水色の病院着に身を包み、夫のリハビリが本格的に始まった。

つづく


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