見出し画像

豚と林檎

イギリスに来てから、不思議な話だが、牛肉より豚肉が好きになった。レストランなどでいただく際も、牛のメニューより豚のメニューを最初に見て、そこに気に入ったのがあれば、もう豚を注文する。

鶏は安いので、貧乏人の味方である。匂いもあまりないし、扱いはラク。加えてへたくそが料理してもそれなりの味になる。あと、肉にもクラスがあると思うが、割に鶏はそこまでクラスの差が大きくないような気がする。ので、家で料理するのは、圧倒的に鶏が多いので、外で食べるときにはセレクトから外す時が多い。

牛はもう、クラスがものを言う。合わせて牛の料理法もテクニックがいるので、普段はひき肉以外は買わない。時たま、年末など、ほほ肉とかテールとか、筋の肉を買ってきて、赤ワインと一緒に煮て食べるときがあるくらい。

羊、これはスーパーのランクによっては臭くて食べられない時もある。ので、ある程度信頼できるスーパーか肉屋さんで買う。そして焼いて食べるようにしているが、家の近所にムスリム系のケバブレストランが10件ほど固まっている通りがあるので、どうしても食べたいならそこへ行って食べるかウーバーイーツで持ってきてもらう。なので、年に数回くらいしか食べない。

普通のパブやらちょっとした料理を出すレストランでごはんを食べる時にはだいたい豚のメニューを頼むときが多い。豚のステーキと野菜の酢漬けの組み合わせやらマッシュポテトなど。

プロが焼く豚肉はまた格別なのである。外はカリッとしていて、中はふっくらしている。肉の油が溶け出してその油が肉をコーティングしているのだが、その油がカリッとしていてベーコンぽい風味を醸しだしていて、それが野趣味に富んでいるのだ。イギリス料理はまずいし、イギリスのシェフは日本に比べればあまり腕があるとは思わないが、豚の調理法は日本のシェフよりうまいと思う。外は野趣だが、中はそれなりにやわらかくて繊細、なんとも素敵なコンビネーションが豚では味わえる。あの風味がたまらなくて豚はよく注文してしまう。

そういうときに、必ず豚にくっついてくるのが、リンゴを煮込んだジャムのようなソースである。リンゴのソースを豚に乗せて食べるのである。酸味と豚の脂身がほどよく混じって、なんとも言えずさっぱりしていておいしいのである。リンゴソースはジャムほど甘くなく、シナモンの味がするわけではなく、さらっとりんごを煮詰めたソースである。

イギリスだと、コールマンというマスタードのメーカーがこの豚肉用のリンゴソースを売っている。

最近、ラベルなどデザイン変わりました?

まあ、どこのイギリスの家庭の冷蔵庫にも入っているような気がする。ジャムとは違うので甘くなく、酸味優先である。しゃばっとしていてとろみはあまりない。

デリアスミスというおばさんのレシピで、ガラスの耐熱皿にバターを塗って、塩で下味をつけた豚肉と林檎を順番に重ねてオーブンで焼くというレシピがあり、一時はまってせっせと作っていたことがある。一回作れば数日持ったので、この林檎豚肉とマッシュポテトがあれば、それで満足だった。

あと忘れられない豚料理が一つあり、ウェールズの田舎の方に泊まった時、そこの宿のおばさんが「普段はソーセージを買ってくるのだけど、いい豚肉が入ったから」といって、朝からポークソテーにリンゴソースを持ってきたときに「勘弁してくれよ」と口に出しかけたが、食べてみたらとってもおいしかった。日本の豚とは違うワイルドでパンチのある豚料理であった。

フランスの人に言わせれば、豚は林檎と一緒に食べないわよ、豚は白いんげんと一緒に煮こんで食べるのよ、などと言うのであろうか。(アレはアレでおいしいが)そしてアイルランド人はイギリス人ほどに豚に執着しない。ギネスで牛の肉を煮込んでシチューにしてソーダブレッドがあの人達のごはんだったりする。

そしてイギリスのリンゴである。常時4種類くらいスーパーには置いてある。きれいに磨かれて袋に入っている(だいたい4-6個くらい)のもあれば、段ボールにそのままぼこっと入れられていて、そのまま手で直につかんで、かごに入れて、レジに持って行く。お値段的に一個35ペンスから70ペンスあたり。一個63円から135円程度。安いのだか高いのかはわからない。

日本のリンゴに比べると小さい。本当に小さい。ちゃんと包丁で剝いて食べようとすると、そこからまた小さくなる。だからかただ単に面倒なのかはわからないが、だいたいが服でちょっと拭いてからそのままかじるのがイギリス人というイメージである。

味は種類によって異なる。

グラニースミス、これは青りんごで酸っぱい。ものすごい酸っぱい。一応加熱すると甘くなるというが、「そうかい?」という感じ。大体個人的な感想として、アップルパイやアップルクランブルなど甘いクリームやらカスタードと食べる料理に使われているイメージ。あと、豚肉料理にも出てくる時がある。とりあえず、酸っぱい。これでジャム作ってみても面白いなとは思うが、正直、人を選ぶというか、というところもある。あと、加熱して見てどうなるかは結構ばくち要素があるので、普段はあまり買わない。これを普通に買ってかじって食べてる人はあまりみないが、とりあえずイギリス人ならみんな絶対に知っている味であるし、あの酸っぱい林檎が入ってるクランブルに温かい甘いカスタードソースはイギリス人にとってのソウルフードであろう。

この写真ではわからないが、ファルコネルというブランドの琺瑯の型に入ってクランブルが出てくるとイギリスだなと感じる。

古い日本の人が書いたイギリス滞在記によく出てきたのがコックスという林檎であるが、正直、最近はとんとお目にかからないので味は知らない。

ピンクレデイ、これは普通においしいが、他のものに比べればお高め。他のリンゴが6つ入っている袋があるとしたら、これは同じ値段で4個しか入っていない。ジャムやらソースにするのはもったいないので、これは普通に食べるためのリンゴだと思う。原産オーストラリアなので外来種なのかな。まあ昔の人に言わせれば「最近のりんご」らしい。日本の人が考える林檎にかなり近い林檎なので、日本人がスーパーで何か買おうかなとなった時にはこれが一番おすすめ。

ゴールデン、これも普通においしいし、ピンクレディほど、整っているあじではないが、バランスはよい。普通にゴールデンが売っているときはゴールデンを買うことにしている。ジャムやソースにしてもおいしいし、普通に食べてもおいしい。値段もピンクレディほどは高くない。これも噂だと外来種という話。

ロイヤルガラ、これも普通においしい。私の場合、お金があるときはピンクレディだが、お金があまりなきゃゴールデンかガラ。

ブラムリーアップル、最近はどこへ行ってもこれがメインのような気がする。お菓子でもソースでも普通に食べてもなんでも来いである。

昔はスーパーへ行っても林檎の種類がたくさんあって訳わからん、という感じではあったが、最近はなぜか、グラニースミス、ブラムリー、ピンクレディの3種類くらい。味気なくなったような気がしないでもない。

最近は昔ほど林檎あまり食べないのかな、とも思う。豚肉もそこまで人気があるとも思えないときもあるし。明らかに消費量が減ったのかなと思うことも結構ある。

パブなどに行くと、サイダーという林檎のお酒がだいたい樽で置いてある。小麦のビールが苦手な人などがよく飲んでいたし、ビールより多少は安いので貧乏人のアル中はビールでなくサイダーというのが、定番になっていたが、パブの人に言わせれば「最近、全然でなくなった」という。最近はサイダーより北欧などから来たフルーツビールなどが人気らしく、サイダーはそこまで出ないという。

コーパーバーグという北欧から来たフルーツビール。ベリー系がおいしい。

豚肉をそういえばサイダーで煮てソースを作って出す人もいる。

豚肉と林檎はイギリスではベストマッチらしく、だいたいセットになって出てくる。最近あんまり林檎食べてないけど、豚肉と一緒になら食べてるよなと思うことがしばしばある。

日本やよそでは絶対に味わえないコンビネーションなので、イギリス料理を食べる機会があれば、ぜひ挑戦してみてください。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?