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SPEAK ENGLISH OR DIE!

 アンチ!ビデ!ハッカー!シャコマン!シャンプー!モッコ!パイレン!アングル!バイブ!ミ!ペコビーム!これが作業員のENGLISH──何個か日本語も混ざっていましたすみません。とにかくこれら無数にある建築資機材の名前を覚えて迅速に親方のもとに持っていくのが作業員の第一歩。「ネコ持ってこい!」「ニャー」なんて100万回擦られた話がしたいわけではない。
「ピオニヤー」という物がある。
エンジン駆動の削岩器だ。かなりの重量があり、パワーもある。アスファルトやコンクリートをバリバリ壊せる。建築現場より、電源が取りづらい道路の工事で使われることが多い。
「ピオニヤー持ってこい!」若いとき道路標識やカーブミラーを建てる仕事をしていたわたしは、親方や先輩に言われてよくピオニヤーを4tトラックの荷台から降ろして持って行った。
当時のわたしは人間をナメていた。
「ピオニヤー」はどうせ「PIONEER」って綴るんだろうな。親方や先輩はそれをローマ字読みして「ピオニヤー」って呼んでるんだろうな、などと内心バカにしていた。
しかし「ほんとはパイオニアって読むんですよ。」なんて言ったらキレられそうだから黙っていた。
ある日、ピオニヤーがひどく汚れたので掃除をした。ウェス(布)で拭きあげると、今まで汚れていて見えなかった文字がボディーに書いてあった。
【PIONJAR】
ピ…オン…ジャー?これでピオニヤーって読むの?先輩に訊いてみた。
「これは、スウェーデン語。削岩器はやっぱスウェーデンっしょ。」
削岩器はスウェーデンなの!?
ABBAとカーディガンズとイングヴェイ・マルムスティーン(ギター速弾き王者)しか知らなかった。
60代の親方も来て言った。
「Pionjarは英語でPioneerの事。」
その発音はめちゃめちゃネイティブだった───
圧倒的にバカはわたしだった。そしてとても勉強になった。親方はかつて船乗りだったらしい。かっこいい~

そして「削岩器はスウェーデンっしょ。」と教えてくれたり当時発売されたばかりのカラー液晶携帯でエロ画像を見せてくれた優しい先輩を尊敬していたら、先輩はその後なんかいきなり恐喝で逮捕された。

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 さて先日、わたしは現場で知り合いの親方と話した。
親方「昨日会社の会議行ってよ、元請けの話したら番頭が『元請けのことはクライアントと呼んでください。』なんてよ、気取りやがって、横文字。」
わたし「あーなんか使いたがりますよねビジネス用語。」
親方「アジェンダとか、俺たち知らねえよなそんなのな!Do you バカ?って言ってやりゃ良かったよ。」

その親方が現場で若い衆に
「おーい!エビデンス!」
と呼びかけると
「はい!」
と言って若者が来た。
ヘルメットには「海老原」と書いてあった。

THE END






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