見出し画像

病床で危篤の作業員が詰所にいた!

 朝礼後、詰所(作業員休憩所)に若手のA君が疲れた顔をしてたたずんでいたので、わたしは彼を和ますため面白い話をしようとして近づいた。
「どう?最近なんか面白い事あっポロ」
わたしの前歯がいきなりポロリと取れた。 (完)

──歯医者へ──

結局、義歯を入れるために前歯をもう一本抜いたので、完全に前歯がなくなってしまいました。
唇の裏側が口に吸い込まれてすごく気になる。なんか食事も味気ない。「寿司」が「フヒ」になる。心なしか息子にも遠ざけられている…歯は大事にしないといけないと思い知った。「化膿するといけないので安静に」というわけで2日仕事を休んだ。義歯は二週間で出来るそうだ。そうだ、ラッパーみたいなブリンブリングリルを入れよう!本当に息子を怖がらせてしまいそうなのでやめた。

前歯は5年ぐらい前からグラグラだった。
某高級ホテルの現場をやっている時、わたしはエントランスホールの自動ドアの分厚いガラスをクリーニングしていた。
するとエントランスホールの外から監督が手を振りながら近づいてきた。
「すごい!こんなに綺麗になるんですね!」
わたしも満面の笑みで近づギガイーン☆★
磨いたガラスが透明すぎて存在を忘れていた。顔から突っ込んだ!
ていうか7年前にも同じ事があった。
ていうか10年前にも15年前にも同じ事があった。
15年前に突っ込んだのはライフル弾も通さない特殊な防弾ガラスだった。(○○院○○○○)

──作業員に歯がない人が多い理由はお分かりいただけただろうか(職種に依ります)。
これは職業病だ。決してみんな歯磨きをサボっているわけではない。


ほらね


さて久しぶりに欠勤してしまった。
現場の責任者という立場になると作業員の様々な欠勤理由を聞くことになる。
「腰が…」「熱が…」身体の不調は無理に出勤させると重大な労働災害にも繋がるゆえ絶対休んでもらう。
「叔父が…」「叔母が…」わたしも大人なので深く詮索はしない。休まなければならない事情があるのならば当然休んでもらう。真偽は二の次だ。
「ウルフルズのライブがあるので…」 
くっ…休んでいいよ! ガッツダゼ
「熱が19.5℃あるので…」
─それはバタリアン。

「バタリアン」(85年 米)
ヒロインの彼氏がゾンビガスを浴びて「寒い!寒い!」と言うので体温を測ったら外の気温と同じ15℃。傑作

ダン・オバノン監督

現場でゾンビ化されても困るから休んでいいよ!休め!人間のだいたいの体温ぐらい覚えよう!結局その作業員は二度と現場に来る事はなかった。
さて、

「とんかつさん、(DRUG具体名)いらないですか?」

といきなり質問してきた作業員がいた。
「興味あるなら明日休みますよ?」
と彼は続けた。意味が分からない。
「(警察に年間20回ぐらい職務質問されてるので)堂々と生きたいからドラッグはいらないよ。」
とわたしはいつもの答えを返した。どうもこの髪型(ドレッドヘアー)をしていると稀にそういう質問が来る。
「明日も来てね。」

次の日彼は無断欠勤した。
携帯に出ないので彼が所属している派遣会社に鬼電すると、
「すみません昨日夜遅く車にはねられて救急車で病院に運び込まれたと同居人から連絡ありました。」
とのこと。それは大変だ。
昨日まで元気だったのに、交通事故で突然亡くなる作業員は意外に多い。わたしの周りでも30年で3人亡くなっている。
「わかりました。詳細追って連絡下さい。」

その日の午後2時。
わたしが詰所に道具を取りに戻ると、派手な私服姿の彼が席に座っていた。わたしは思わず
「何してんだ!」
と声を荒げた。
「事故に遭ったんじゃねえのかよ心配してたんだぞ!」
とキレると彼は、

「あっ間違えた!!」

と言った。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?