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心不全から2年

 2年前の10月31日の朝、日曜日であったがあまりにも背中の痛みがひどいので、休日診療してくれる駅前クリニックに行った。初めて行くそのクリニックは電車を乗り継ぎ駅を出てすぐの建物。1階には模型屋さんがあり、ショーウインドウに飾られた数々の立派なガンダムにしばし見とれる。その2階にあるのがクリニックだ。さて、いつまでもガンダムを見ていたい処だが、そろそろお医者さんにいい薬をもらってチャーシューメンを食べて、妻と息子に3時のおやつを買って帰ろう。そうだドーナッツがいい。「ただいま~」家に着いたら息子を抱き上げ妻に愛してると言っておみやげのドーナッツを──おや?

階段が上れない。

2階にあるクリニックへの階段を2、3段上るだけで100m走直後のように息が切れしゃがみ込んでしまい、回復までしばしの休憩を要した。家を出た時はこんな酷い状態じゃなかった。産まれたての小鹿のようにプルプルと立ち上がる。

「大地に、ガンダム立つ。」

 わたしは妙齢の男性でありながら実はガンダムをあまり視聴したことがないが、こんなフレーズありましたっけ?20分後、息も絶え絶えになりながらクリニックに到着した。

(そしてコロナ渦ということもあり30分ぐらい待たされた。)

ゼイ…ゼイ…
「診察券はお持ちでしょうか。」
「初めてです…。」

「──(とんかつ)さんは12年前の今日、当クリニックを受診なさっています。」

バグっている!
つまり過去のわたしもガンダムを?いや、そうではない。診察券が不正利用されている?ライフがハッキングされている。プラモデルすら小学生以来作ってないのに12年前にガンダムクリニックにわたしが来ている。しかも同じ日。干支が一周するとループする世界に来ているのか。これが最新ライフハックだ!12年前の10月31日の記憶を辿ろうにもいかんせん肉体が生命維持に全リソースを割いているので、何も思い出せない。そんなことよりいよいよ身体がおかしい。ああ、このやりとりでトドメをさされたか。ガンダムの上。車輪の下。ヘルマン・ヘッセ。意識が混濁して景色が遠ざかり・・・。
PEOPLE !PEOPLE!気がつくとわたしはいろんな機械につながれて大きな病院のベッドに寝かされていた。
心不全だった。

 奇しくもそこは妻が息子を出産した病院であった。これはきっとバグではない。それから2年後の今現在、3ヶ月毎の心臓検査で主治医の先生から「血圧、血液ともに100点満点」とのお墨付きを頂きました。入院直後は「このままではもって1年」と言われたので暗い気持ちになったが、noteを始めるきっかけになったのも心不全での入院からだった。
「永遠に失われてしまう前に、わたしの知る物語を書き記しておきたい。」
2年前こう思った。そして今は
「この世にはまだ名前の無い何かがある。わたしはそれを、面白いと思う。」
という事を伝えてみたいと思っている。

おわり






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