強者

『勝利』を得ることの意味は、現代人と古の侍とでは大きく異なるのかもしれない。

剣豪宮本武蔵は、佐々木小次郎との決闘にあたり、わざと巌流島での待ち合わせ時刻に遅れて参上したという。
しかも、小次郎の長刀よりもさらに長い木刀を携え、その長さを相手に知られないような構えで闘いに挑んだ。

このような逸話を聞くと、現代人の中には『卑怯者』というレッテルを貼る人もいるのではないか。
しかし、明らかに昔と今とでは、勝負の意味合いが違う。
命を賭けて闘う、まさに真剣勝負である。

私が稽古している居合は、急に居合わせた敵に対する業であり、相手に不意をつかれたときに対応する業もあれば、こちらから不意をついて仕掛ける業もある。
『先の先』『先』『後の先』といった言葉があり、それぞれに合った業がある。
『先を取る』とは、自分に危害が及ぶ前に相手の攻撃を察知して、こちらが相手よりも早く斬りに行くことであると心得る。

相手は、敵なのだ。
殺られたら元も子もない。
だから、必死でやる。
たとえ、それが『卑怯者』の手段であっても構わない。

以上のことを考えると、真の強者とは如何なる者かと考えさせられるのである。
そして、これは剣の勝負に限らず、日常の中で、ビジネスの世界で、至る所で展開する勝負において、『正々堂々』という美辞麗句では通じない場面がいくつもあるのではないか、と感じる今日この頃である。

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