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【本編まとめ読み】『ナイキスTAS』3節「"外"からの来訪者」

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夢月「うーーん、今日も疲れたな~」
そら「お疲れ様、夢月くん。コーヒーでも淹れようか?」
夢月「あ、良いよ良いよ、自分でやるからさ。そらこそ何か飲みたいものない?」

蓮夜「僕はお水で良いよ」
吏星「自分でやらんかまったく。……水なら俺も飲むから、ついでに全員分持ってきてやる」
蓮夜「お、ありがと吏星」

蓮夜「今日は裏には予約があるんだっけ?」
吏星「いや。しばらくそれらしい患者も見つかっていないと聞いている」
蓮夜「そっか。じゃあ今日も待ちぼうけだ」
夢月「最近ずっとこんなだよなぁ」

夢月「何もないのが一番とは言え、正直張り合いがないな~」
吏星「急患で天崎が来た時のことをもう忘れたのか。待つのも俺達の仕事だ」
そら「……あの時は何とも思ってなかったですけど、飛び込みで来る人ってあまりいないんですね」

吏星「夢入りは事前準備が大事な仕事だからな。よほど経過が悪くない限りは、連絡から数日は空けるのが普通だ。この辺りは、普通に医者に通うのとそう大差はないと言える」
そら「なるほど(あの時の私ってそんなに酷かったんだな……)」

蓮夜「そうしないとミスがあったりするからね。例えばそらちゃんの時の――」
吏星「おいやめろ! その話はもうやめろ!」

夢月「まぁあれはね……」
吏星「だからその……軽率だったと反省している……。ああいったミスはあまりないことだったものでつい……」
蓮夜「あんなこと言っちゃってぇ……。よくそらちゃん、この店で働きたいって言ってくれたよねぇ」
吏星「ウッ……!!」

そら「わ、私はそんなに気にしてないですよ!? 仕事熱心な人だなぁって思っただけですし!」
吏星「そうか……なら良いが……。少しは俺の「そういうところ」は直っているだろうか……」
そら「え! た、多分!(意外とずっと気にしてるんだ……)」

女性「す、すみません! お邪魔します!」
夢月「は、はい!?」
女性「あ、あの……! ここが悪夢を治してくれる病院ですか……!?」

夢月「い、いらっしゃいませ……!? そ、そうですけど……」
女性「良かった……。ここに来れば何とかなるかもって言われて……その……」
夢月「ま、まぁ一旦落ち着いて! 大丈夫ですから!」

吏星「取り乱しているところ悪いが、ここは通常の医療機関ではない。急患の場合、招待状が無ければ受け入れることはできないが、準備はあるか?」
女性「招待状……これで良いでしょうか……?」

吏星「……うむ、確かに受理した。照会を行うのでしばらくここで待っていてくれないか」
女性「は、はい……」

夢月「……大変でしたね。酷い悪夢にうなされて……。でも、今日きっと良くなりますよ」
女性「はい……もう私もどうしていいか分からなくて……。そばで見ていてあげることしかできず……」
夢月「え? そばで?」
蓮夜「…………」

吏星「ん……これは……?」

吏星「この招待状、お前自身のものではないな?」
女性「は、はい、そうですが……」
吏星「それは困る。ここで治療を受けられるのは本人だけだし、付き添いは認められていない」
女性「いえ、その……招待状? をくれたお医者様が特例として認めるって……」

吏星「なに……?」
蓮夜「とりあえず本人を連れてきてもらおうよ。話はそれからさ」
女性「分かりました。車で待たせているのですぐ連れてきます」

吏星「……どういうことだ?」

吏星「夢想師の治療は施術者と患者の間でだけで秘匿される決まりだ。医者の判断で例外をそう易々と作られては……」
蓮夜「……違うと思うよ吏星。そもそもそのルールが何故存在してるか、考えたことはある?」
吏星「なんだと?」

夢月「……守ってほしいから作られたんじゃないの?」

蓮夜「そうだね夢月ちゃん。決まりは守るために作られる。けれど、それは逆に言うと――」

蓮夜「――"その決まりを守れない人はいない"と、皆が思っているってこさ」

女性「お待たせしました。この子が患者の……息子のヨウタです」
ヨウタ「…………」
吏星「な……!?」

蓮夜「……ほらね、そういうこと。固定観念に縛られちゃいけないよ、吏星?」
吏星「クッ……確かに……! だがこれは……」
そら「ど、どうしたんですか?」

吏星「……すまない。一旦2人ともこちらの部屋で待っていてもらえるだろうか。準備ができ次第、もう一度こちらに呼ぶ」
ヨウタの母「……? 分かりました」


蓮夜「……これは厄介なことになったねぇ」
夢月「え、何か駄目なのか? 特例でOKもらってるんだし、いつも通りやれば良いんだろ?」
吏星「違う、その話はもう終わっている」
夢月「は? じゃあ何なんだよ? そんな焦っちゃって」

吏星「……子供に夢魔は憑かない」
夢月「え?」

吏星「知っての通り、夢魔とは人の苦痛を食べる存在だと言われている。奴らは最も効率よく苦痛を摂取するために、睡眠中の人間に悪夢を見せ、精神を圧迫するわけだが……」

吏星子供からは夢魔の求める苦痛を生み出すことができないとされている。心の形が完成し切っておらず、感情が不安定だからだ」
蓮夜「だから夢魔が子供に憑くことは原則的にありえない。それは言うなれば……僕達人間が、泥を食べて生き延びようとしているようなものなんだよ」
夢月「へ、へぇ~~知らなかった。勉強不足だな俺……」


そら「で、でも治療自体はできるんですよね?」
夢月「そ、そうだよ。別にいつも通りやれば良いのは変わらないだろ?」

吏星「わずかだが前例がないわけではない。しかし……」
蓮夜「心が不完全ということは、夢の世界の構築にも問題が生じやすい。僕や吏星の持っている知識で、彼の夢の世界に入って行ける保証はない」

治療できるかどうかは、今の段階では全く分からないと言わざるを得ないね」
夢月「そんなのやってみなくちゃ分からないって! まずはあの子……ヨウタ君としっかり話をしてみようぜ!」
吏星「お、おい待て早乙女……!」

吏星「まったく……人の気も知らないで……」

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夢月「こんにちは、ヨウタ君。眠りの園 夢うさぎ亭へようこそ」
ヨウタ「…………」
夢月「俺は早乙女 夢月っていうんだ。よろしくな。こっちは吏星と蓮夜とそら」
ヨウタ「…………」

ヨウタの母「……ヨウタ。ちゃんと挨拶しなさい」
ヨウタ「…………」

吏星「相当警戒されているな……」
蓮夜「吏星の顔が恐いからじゃない?」
吏星「お前の全身が胡散臭すぎるからかもな」
そら「や、やめましょうよ……」

夢月「……恐がらなくて良いよ。俺達は君の味方だから。君が毎日見る嫌な夢を、見ないようにしてあげられるんだ」
ヨウタ「……そんな夢見たことない」
夢月「え?」

ヨウタ「恐い夢なんて見てないもん。恐くなんかないもん」
吏星「……そういう強がりはやめた方が良い。現実を受け入れて――」
ヨウタ「うるさい。お前きっと悪い奴だな。ママをいじめるつもりだろ。あっち行け」
吏星「――――――――」

ヨウタの母「ちょ、ちょっとヨウタ! す、すみません息子が粗相を……!」
吏星「……いや良い。こういうのは慣れている」
蓮夜「――――(口を押さえて笑いを堪えている)」
そら(ちょっと蓮夜さん……!)

夢月「なぁ、ヨウタ君が最近見る夢ってどんなのなんだ? 俺に教えてくれないか?」
ヨウタ「……変なのに追いかけられたり、高いところから落ちたり、真っ暗なところに閉じ込められてたり、火に囲まれてたり、あと……ママがどっか行っちゃったり」

夢月「へぇ、なんか恐そうな夢ばっかなのにヨウタ君は平気なんだな」
ヨウタ「そうだよ。すごいでしょ。お兄ちゃんとは違うんだ。僕は強い男だからね。ママは僕が守るから。そっちのお姉ちゃんも、僕が守ってあげてもいいよ」
そら「え、私?」

そら「……フフッ、ありがとうヨウタくん」
夢月「それは困るなぁ。そらを守るのは俺の仕事だからさ!」
そら「!」


ヨウタ「え~お兄ちゃんにできるの? 恐いんでしょ? 弱虫なんでしょ?」
夢月「へへ、大丈夫だよ。……知ってるか? 恐がることが駄目なんじゃない。逃げることが駄目なんだ! 前を見て進めば、きっと明るい明日は訪れる!」

蓮夜「お、なかなか良い台詞だね」
吏星「……そうか?」

ヨウタ「それ……今週のブレイブテイカーじゃない!? お兄ちゃん見てるの!?」
夢月「お、よく分かったな! なに? ヨウタも見てるの?」
ヨウタ「もちろん! 毎週絶対見てるよ!」

ヨウタ「出たな怪人! 本当の勇気ってやつを教えてやる!」

夢月「俺はいつだって前のめりさ! 喰らえ必殺!」

夢月&ヨウタ「チョトツ・モーシン!!」

ヨウタ「うわああああ!!!」
夢月「ハハハハ! よく覚えてるな! やるじゃんヨウタ!」
ヨウタ「お兄ちゃんみたいな人でも見てるんだ! すげー! やっぱブレイブすげー!!」

夢月「今週のブレイブ、すげーカッコ良かったよな!」
ヨウタ「うん! 崖の上から飛び降りた女の子を片手で受け止めて、親指を立てるところとか最高だった!」
夢月「分かる! あれができるのは、ブレイブだけだよなー!」

ヨウタ「ねぇねぇ、先週のは見た?」
夢月「もちろん! 先週はさ――」

吏星「……おい、なんだこれは」

蓮夜「さぁ? 盛り上がってるし良いんじゃない? 何かのアニメとかじゃないの?」

そら「多分、日曜の朝とかにやってる特撮のシリーズじゃないですか?」
蓮夜「あれ、そらちゃんそういうの詳しいの?」
そら「いえ、まったく。でもテイカーシリーズはなんかどこかで聞いたことあるなぁって」

蓮夜「…………」
そら「……本当に見てませんからね?」

吏星「何にせよ、早乙女が打ち解けてくれれば治療も上手く行くかもしれん。子供に憑いた夢魔を祓う最初の難関は心を通わせるのが難しいことだと言われているが……まさかあいつが子供とも打ち解ける術を持っているとはな」

夢月「……それでヨウタはさ、いつから変な夢を見るようになったんだ?」
ヨウタ「え? ……分かんない。けど、最近は前よりよく見るようになった」
夢月ブレイブのおかげで恐くないのは分かったけどさ、できれば見たくないって思わない?」

ヨウタ「それは……思う」
夢月「俺達ならきっと何とかしてあげられる。ブレイブに貰った勇気で一緒に頑張ってみないか?」
ヨウタ「でも……ママ……」

ヨウタの母「なに? どうしたの?」
ヨウタ「……ううん、何でもない」

夢月「ママも今はヨウタのその夢のことで頭がいっぱいみたいだ。早く元気になって、ママを守れる強い男になろうぜ、ヨウタ」
ヨウタ「……うん、分かった。僕やってみる」
夢月「ヘヘッ、サンキュー!」

吏星「……ことこういった部分に関してだけは本当に天才的だな、早乙女は」
蓮夜「そういうのは本人に直接言ってあげなよ。跳んで喜ぶと思うのに」
吏星「残念だがまだ時期尚早だ。あいつが一人前になった時には、伝えることもあるだろう」
蓮夜「……そう、分かった」

――夢月君のおかげで、無事ヨウタ君の治療が始められることになりました。吏星さんは子供の治療は前例が少ないって言っていたけど、きっとこの3人なら乗り越えられる。

そう信じているものの……私の胸の騒めきは、何故だか治まらないままなのでした。

Nightmare Kiss...
- The Awakened Story-
episode04へ続く

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