見出し画像

【本編まとめ読み】『ナイキスTAS』4節「挑戦」

↓最初から読む!↓

ヨウタの母「あの……奥の部屋では何をしているんでしょうか……」
吏星「……まずは治療に際して、ヨウタ少年にぐっすり眠ってもらう必要がある。今の彼は眠ること自体にネガティブな状態のはずだが、早乙女はそういった人間にも安らかな眠りを届けられる」

吏星「……さっき見たやり取りで、何となくその理由は察してもらえたと思うが」

ヨウタの母「な、なるほど……」

ヨウタの母「でも不思議ですね。毎日悪夢を見る病気、それも普通の病院では治せないなんて……。理由は、何なんでしょうか……?」
吏星「……申し訳ない。それは当事者にしか話すことができない。たとえそれが親であってもだ」

吏星「不安かもしれないが、今はただ信じてほしいとしか言うことができない」


ヨウタの母「そうですか……でも大丈夫です。ちゃんとお医者様からご紹介頂いた方達ですから、信用しております」

蓮夜「招待状が必須なんて面倒なシステムだけど……。こういう時には意味があるみたいだね」

夢月「お待たせ~。眠ったよヨウタ。横になったらすぐだったよ。やっぱ子供だな」
ヨウタの母「あ、ありがとうございます!」
夢月「いえいえ、俺は気持ちよく寝かせてあげただけなので。治療はまだまだこれからです」

夢月「それより、ヨウタは本当にお母さんのことが好きなんですね」
ヨウタの母「え……?」
夢月「ママは僕のために頑張ってくれてるーとか、だからママは僕が守るんだーとか、そんなことばかり言ってました」

夢月「あとはブレイブみたいになりたいって。僕が強くなったら、ママがきっともっと笑ってくれるようになるからって」
ヨウタの母「そうですか……。あの子がそんなことを……」

吏星「……治療を続行する。ここからはより込み入った施術になる。内容を説明できないのは心苦しいが、信用を裏切るようなことはしない」
ヨウタの母「はい。よろしくお願いします」

吏星「本当によく眠っているな。……まったく、夢魔に憑かれた子供を寝かしつけるなど、知識でどうにかできる問題じゃないというのに」

吏星「――さぁ、ここからは俺の仕事だ。果たして上手く行くかどうか……」

吏星(……ヨウタ少年との心のパイプは、問題なく繋がっているようだな)

(行動に支障もない、完璧だ。この具合なら夢空間を現出する阻害要因はほぼないはず……)

(早乙女の才覚は俺の想像以上のものなのかもしれん。人と打ち解ける天才、か。……羨ましい限りだ)

(あとは不安定な子供の心を固めることができるかどうか。……やってみせよう……早乙女の努力に報いるためにも)

(…………行くぞ)

(よし、このまま……!)

吏星「なにッ……!?」

吏星「馬鹿な……! 拒絶された……!?」

吏星「いかん……!」

吏星「ぐッ!! ……クソ……まずいなこれは」

↓ここまでのエピソードをビジュアルノベル版で見る↓

吏星「…………」
夢月「あれ、どうしたんだ?」
吏星「すまない。ヨウタ少年の治療は想像より難航しそうだ」

吏星「子供への施術はデリケートなものでな。万全を期すため、日を改めてもらっても良いだろうか?」
夢月「え……?」

ヨウタの母「分かりました。ではまた後日伺います」
吏星「申し訳ない」
ヨウタの母「良いんです。手の施しようがあると分かっただけでも今日は……」

ヨウタの母「ヨウタにはもう少し苦しい思いをさせてしまいますけど、絶対に良くなる方法で治してあげてください」
吏星「了解した。こちらもべストを尽くす」

夢月「ど、どういうことだよ? 治療は上手く行かなかったのか!?」
吏星「……夢空間の現出を拒絶された。残念だが、今のままでは手の施しようがない」
夢月「拒絶……!? 俺の施術が不完全だったってこと……!?」

吏星「違う。心へのパイプは問題なく繋がっていた。にも関わらず空間の現出が拒絶されてしまった」
蓮夜「失敗ではなく拒絶、なんだね?」
吏星「あぁ」
蓮夜「そっか、なるほどね……」

そら「あの……吏星さんで駄目だったなら、蓮夜さんにも試してもらえば……?」
蓮夜「いや、吏星で無理なら僕でも無理だろうね。夢空間の現出については、僕より吏星の方がよっぽど精度が高いし」

蓮夜「それに拒絶されたとなるとより厄介だ。夢の世界に入られることを、彼が本質的に嫌がっているってことだから」
そら「どういうことですか?」

吏星「前に話したと思うが、夢想師の治療には互いの間に強い共感触を生む必要がある。例えば早乙女はその人柄で俺は物理的なフィーリングでそれを獲得しているわけだが」

蓮夜「他人の夢に入って行くというのは、口で言うほど簡単な話じゃない。この時点で相手に嫌われてしまうと、心を繋ぐパイプを作ることができず治療を行えない」

蓮夜「だから夢月ちゃんみたいな夢想師は重宝される。その人柄だけで既に大きいアドバンテージを得ているわけだからね」
夢月「そ、そうだったんだ」
蓮夜「夢月ちゃんの仕事ぶりには感謝してるんだよ~? 僕も、もちろん吏星もね」

吏星「しかしこういった個人的な好き嫌いは、パイプを繋ぐ時のみに影響する。一度パイプを繋いでしまえば、夢空間の現出には一切関係しない。それなのに、ヨウタ少年には現出その物を拒絶された。通常であればこんなことはありえない」

蓮夜「つまりヨウタ君の心その物が受け入れられない要素を僕らが持ってしまっているってことだと思う。不完全な彼の心ではまだ理解できていないような決定的な何かが、阻害になっているはずさ」

そら「その何かというのは……?」
吏星「相手が大人であれば本人に聴き取りをして解決することもできるが……年端も行かない少年からそれを聞き出すのは、いくら早乙女でも無理だろう。そもそも子供自身がそれに気付いていない可能性が高い。念入りな身辺調査で事実確認をする必要がある」

夢月「な、なるほどなぁ」
蓮夜「……けど、分かったところで必ずしもどうにかできるわけじゃないよ。それが僕らに解決できないような内容だったら、彼の治療は事実上不可能になってしまう」
夢月「えぇ!? なんだそれ!? そんなの意味ないじゃん!! 時間かけて調べて、結局何ともなりませんでしたって言うってこと!?」

蓮夜「最悪そうなるね」
夢月「俺、やだよそんなの! 何か確実な方法はないのか!?」

吏星「…………」
蓮夜「……吏星、こうなってしまった以上、避けて通ることはできないよ。それに強い子を育てるのには、崖から突き落とすことも必要だしね」
吏星「……そうか。そうだな」

吏星「……早乙女」
夢月「え? なに?」
吏星「拒絶を起こした人間の夢に、条件問わず入り込める方法が1つある」
夢月「マジかよ! あるならそれやってみようぜ!」
吏星「それは……」

吏星「価値観を超えた関係を築ける人間が施術を行うこと。強力なパイプを繋いだ者が、1人でそのまま夢の世界にアクセスすることだ」
夢月「…………へ?」

吏星「……お前がヨウタ少年の治療をしろ、早乙女」
夢月「……え?」

夢月「えええええええええええええええ!?」

Nightmare Kiss...
- The Awakened Story-
episode5に続く

↓ここまでのエピソードをビジュアルノベル版でチェック!↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?