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インハウスでの状況と、その経験を活かしつつこれから生き残るためにはって話(後編)

ベテランです。
こちらの続きから。

例の事件と勤務体系についての変化

そんな折り、大手広告会社で『とある事件』が起こったことで世間の流れが「残業時間の徹底監視」に変わり、残業代で稼げなくなる風潮になって苦情が出始めたことで、しれっと『副業解禁』の流れになりました。(とは言え、36協定等があるわけなのですけどもね)。

インハウスでもその兆候が出てきて、今度は幹部から急に「皆もこれからは副業をしてスキルを磨いていくように」のお達しがあり、よくわからないまま、なし崩しで副業してもいいということになったようです。
とは言え、大きめの企業、周りの忖度組は役職も付いている、年俸制でしっかり給与もあり、残業は100%支給でもありとイタレリツクセリのため、特に独身チームは誰一人として副業に勤しむ社員は出ませんでした。

子持ち既婚者組も、恐妻家が多かったことで残業を選ぶ風潮は変わりなく…(苦笑)。

とにかく、ワタシ的にはやっと大手を振って「副業のお仕事で報酬を頂いてOK」の流れになったのです。

「腕のいいデザイナーさんで、すごく親切にしてくれるよ」
「このイベントのデザイナーさんなんだって!」

この噂は知らないうちに広めて頂いていました。

そのおかげで、私の存在を知る人から紹介の形でお仕事を頂けるようにはなりました。(副業という時間的都合もあり、一部しかお引き受けできなかったのですが。。。)

しかし、ここでそれまで地域で無償奉仕分がマイナスに働き始めます。
さらに、地域でやっている会社さんが意外と破格値でお仕事をされていることも同時に知ります。

私が無償奉仕をしていたのには理由がありました。
「副業がバレると困る」つまり、年間の売上を最高でも20万円以内に収めないといけないというです(※繰り返し書いているように、住民税は20万円以下でも申告が必要です。税務署への確定申告は不要ですが、市役所への届け出が必要となります。なお、税務署へ確定申告した場合は市役所へ自動的に情報が届くので別途の連絡は不要です)

そんなこんなで信じられないかと思いますが(苦笑)、売上を出さないようにするため価格を激安に設定しているかわりに「条件」をつけていました。

半分、企業内業務ばかりで世間の流れから取り残されては困ることや、腕試しのためという面もありましたが・・・。

[無償の場合の条件]
・本業がほぼ時間取れない中の副業のため、本業の隙間時間でのみ作業を行うことへの了承
・納期は最低でも2週間〜1ヶ月あること(大体は早く納品)
必要経費分の負担はお願いしたい、全額自腹提供ならお断り
暫定的の措置であり、将来個人事業を行う際は正当な価格が発生します
依頼主の売上保証はできない事(結果、売上は上がった報告)
・あくまでも地域への奉仕であり、公共性の高いものが優先である事
・私が広告物を出す内容と理念に納得出来たものである事
・社会通念上不適切と思われる場合は断固拒否
※これ以外は無償奉仕ではなく「スキマ時間のある時限定の副業スケジュール」を理解頂いた方のみへの割引価格(大体市価の4〜5割程度の料金)で一部、数件だけ引き受けていました。
もちろん、必要経費を引くので年間純利益は20万円以下になりました。
(どちらかというとプラマイゼロに近い)

あくまでも「公共性が高く、地域貢献できて、なおかつ依頼主・団体が何かしらの要素を持っていること」(要素=ボランティア団体、非営利団体、学生グループ等)もしくは「腕試しとして自分からやりたいと思えるような仕事」に限っていたのが、急にどうやって耳に入ったのか「企業」からのお話で普通のお話が少しずつ来て・・・これ自体はありがたいお話と進んでいたのですが、どこからともなくやってきた「無償ボランティア事業」の話をわざわざ交渉中の方にささやく方が数箇所でいたようで、値引き交渉ネタに使われてしまうという始末。

その上地域的な「お客様は神様です」「無償サービスは当たり前」でやってきたクセが当初は抜けず、かなり激安価格でお仕事を請けて無茶をしていました。

今後の展開をきちんと考えるためのスキルの棚卸し

コロナ禍の数年前から急に「副業解禁ブーム」も起こりましたが、実際に私が副業を始めた頃は「正社員の副業は禁止の会社が大半」で、「副業を行うより残業をするほうがずっと儲かる」というのも事実でした。
何しろ、残業であれば本業の125%の時間外手当が付きます。
休日出勤であれば135%、22時を超える深夜残業に至ってはなんと150%(深夜手当が25%増しなので残業の25%と合わせると50%割増)もの手当を払うことが労働基準法第37条で決められています。

例えば、税金等の計算一切含めない単純計算で、月労働日数が22日、月収22万円の人だと1日の労働時間8時間で割ると、時給は1,250円。
残業を1日に4時間するなら1,562.5円×4h=6,250円の残業代。
さらに18時定時で24時までの長時間残業の場合は、上記に深夜残業2時間分の1,875円×2h=3,750円がプラスされて、1日の合計は2万円。一気に倍額支給コースになるのです。

夜のコンビニバイトを副業にするとなると、22時までが900円、深夜帯が時給1,200円だとして、18時に定時退社してもバイト開始に近くでも30分くらいはかかるでしょう。
翌日も通常業務があるとすると、18:30から仕事を始めても22:30くらいまでの4時間程度と考えられます。この場合はどう頑張っても3,750円しか1日に追加で稼げません。本業なら労働時間を考えて途中休憩も挟めるでしょうから有利と言えます。

そして私の在籍していた会社に至っては制作会社ではないため「残業代は100%支給(上限なし)」という状態もあり、月80時間以下厳守の風潮ですらなかった頃の残業代(つまり本業)が異様によかったのは確かです。

しかし、世間の流れは変わりました

週間の残業時間規制が出た時点で、上限完全開放状態だった残業代の天井が決められてしまいました。仕事量は増えているのに、作業に使える時間は短くなったのです。しかし外注費が上乗せされるということはないので、結局は「持ち帰り残業」になることも増えたと聞きます。
※私のしていた仕事は個人情報保護が絡むため、持ち帰り・社外持ち出しが禁止なのでそれはできないため。作業スピード確保のため、早出(手当はつかない)かつ昼休憩を潰す、トイレ休憩すらも我慢する…等の健康に被害が出る状況を作り上げていきます。

さてこうなってくると、どうするのが一番良いのか。

インハウスで仕事をしていると意外と制作以外の業務も多々あるため、自分が何をできて何ができないのか、他の純制作会社のデザイナーとどこが違うのかがわからなくなってきます

なお、私の会社での肩書は「デザイナー」です。
「デザイナー」以上でも以下でもなく、「ただのデザイナー」。
上の役職になると、やってる業務内容はそのままで「主任」「課長」「部長」になり、「デザイナー」の肩書をなくした挙げ句に、たった数千円の手当がつき、会議の比率だけは倍増、課長以上の役職になると100%支給だったはずの「残業手当」すらも消えます(苦笑)。

周りはとにかく主任→課長→部長→マネージャーを目指すようになります。デザイン業務や外注企業への手配交渉等よりも、社内政治に目が向いていきます。全てのデザイン業務は外注企業に任せればいいんじゃないかなんてことも言い始める同僚や上司も出始めました。

自分達は一体何者なんだろう?

より良い制作物を作って、クライアントの業務の利益向上につなげること、つまりは「上がった成果」を実感して、デザイナーとしての仕事面での充実感を感じたいと思っていました。

「もう無理かも知れない」

そう思った時には、完全に見ている先が周りと違うこと、自分と周りとの温度差を実感しました。

ではどうしていくべきかを考えた

まず、社内でどうにもならないのはわかりきっていたので、普通の周囲の制作会社の「デザイナー」が何をどこまで業務として関わっているのかを知るためのいわゆる『市場調査』を行いました。

<調査方法>
①下請け制作会社のデザイナーさんと雑談で聞き出す
②世間のデザイナーさんのブログで確認する
③SNS等で調査する
④デザイン系のイベントに顔を出す
⑤転職活動を兼ねて転職エージェントでそれとなく聞き出す

①下請けをお願いしている取引先制作会社のデザイナーさんと雑談で聞き出す

実はこれは失敗でした。
こちらが「元請け」の場合、依頼案件の打ち合わせに来てくれるのはどうやら「デザイナー」ではなく、「ディレクター」もしくは「営業」だったのです。
そして、修正指示やその他の指示を出して、それを窓口として対応してくれるのも「ディレクター」または「デザインチームのリーダー職」の方。世間で言われている「職種:会社員デザイナー(実際の作業を行う人)」と直接連絡を取り合うことはどうにもできなかったのです。

私は単なる「肩書はデザイナー」ではありましたが、やり取りしている内容的に見ても「他社でいうところのディレクター(この対応をしている窓口の方)」と同じ業務範囲のこともしているんじゃないかということがぼやっと分かっただけでした。

②世間のデザイナーさんのブログで確認する

これも実は失敗でした。
当時の会社員デザイナーさんにはそんな余裕がなかったようで、「会社員だったけどフリーランスで独立した今の状況はこれ!」というフリーのデザイナーさんのブログ以外に、現役会社員デザイナーさんのブログは意外と見当たらずでした。

確かに、書いてる暇ないよなぁ・・・と少し反省。
もしかしたら書いていたけれど、デザイナーという身分を隠していた可能性は高いのでなんとも(外に情報を出しちゃNGの場合も多いですし)。

③SNS等で調査する

そしてこれも同様。
しかも「会社員」なんだから実名上げられない、案件内容も書けないことも多々あるでしょうから、実はデザイナーだけど当たり障りないことしか書いてない〜パターンだったりもして、実際にはわかりませんでした。

④デザイン系のイベントに顔を出す

これは意外と・・・ダメでした。
というのが、Webデザイナーさんは比較的頻繁にイベントに顔をだされていたりしたのですが、紙系デザイナーさんは以前から長く続くイベントにはいらっしゃったものの・・・やはりここでも『フリーランス』の方が多く、そして『常連同士で仲良しグループ化』があり、新参者にはかなり肩身が狭いのもあってうまく行きませんでした。

⑤転職活動を兼ねて転職エージェントでそれとなく聞き出す

結局、市場調査の最たるもの「転職人材で欲している人物像」や「企業内のポジション」の最新情報はそれを商売にしているエージェントから聞くのが一番現状を知るのに役立ちました。

転職自体は全くダメでしたが・・・。

複数のエージェントさんと話をして、世間の需要等を知ったりする中で改めて職務経歴書を書くために自分でも業務内容についてじっくり棚卸ししたところ、どうやら「普通のデザイナーの範疇だけじゃない業務内容を行っている、むしろディレクターの方が近い、兼任デザイナー」像が最も近いという結論を頂きました。

そして、ディレクションやりながら予算立てやスケジュール策定から、デザイン実務もバリバリ行う求人、てのは意外と少なかったのも事実。
逆に手持ちの駒としてエージェント側から営業をかけていくパターンであれば可能性はあるとのことで、いくつか大手さん向けに動いていただいたのですがその時は成果になりませんでした。(少人数のエージェント会社だとこのパターンもあるようです)。
※その時点での年収維持案件となると大手狙い以外がなかったそうです。

強みと弱みを把握することが大事

で、今は「自分の強みと弱みの棚卸し」再度行いながら、副業もしくは独立するかどうかの検討をしているところです

一般的な制作会社勤めのデザイナーさんとは明らかに「違う環境」で仕事をしてきたのは事実です。さらに、業界的にも一般企業のインハウスよりはデザインや放送業界の有名な方とお仕事を協働させて頂く機会が多めにあったという、今考えれば恵まれた環境でもあったのも確かです。

<制作会社のデザイナーに勝てないこと>
・自分の個性を爆発させるデザインで自身のブランディングができていない
・クライアントの無茶振りに対して強く出ることができない

もうこれだけはダメなところです。
溢れ出るクリエイター魂を爆発させるような、ハイセンス極まりない制作物というのは・・・まず「企業内プレゼンの相手が自分の人事権を持つ上司」という恐怖の下で仕事をしてきたこの体質をかえていかなくてはいけないのだろうな、とは思っているのですが・・・。

<制作会社のデザイナーに負けないと思うこと>
・一般企業の幹部クラスが出る会議に慣れている
・会議資料や提案資料の作成が結構得意
・議事録も勿論作成できるので報告書も得意
・一般的な会社の業務の流れを把握している
・予算立て等から行った経験がある
・年間計画での業務と平行しての制作業務経験が豊富
・下請けの会社との金額交渉(制作会社や印刷会社)の経験がある
・フォーマットに従って作成するものの効率化経験がある
・会社役員の方々の気質がある程度わかるので担当者に逆提案ができる
・公的な仕事の経験があるため、自分を押さえてのデザインが作れる
・チームでの制作経験がある
・新人の育成経験がかなりある
・メンバー含めたスケジューリングの経験が豊富
・社内制作物のしきたり「言われてない部分まで気を配って先回りした制作と提案」に慣れている、修正回数無限でも耐えられる
・紙デザイン→部署内のコーダーへ、というWeb系のデザインにも結構長く携わっていた経験がある
・デザイン以外の業務(資料作成、予算編成、新人への人事面談、電話応対、アポ取り対応、使用機材の選定やメンテナンス)等の経験

なるほど、改めて書き出さないと「自分は制作会社のデザイナーよりデザイン力が劣っているかも知れない」という部分でビクビクしていたのですが、そうじゃない部分で「何かできるかも知れない」事もありそうです。

インハウスだと、確実に制作会社のデザイナーのように「自由」だったり「溢れ出るセンス」を発揮できずに封印してきた人も多いかもしれませんが、逆に「会社員気質」を理解できていることで他のスキルが上がっていることもありえるんじゃないかとも思えてきました。

そして、この自分のポジションは何なのか?
どう他の場で貢献していけそうなのか?

そういった面も見ていく必要があるのでしょう。

ただデザインするだけじゃなく、経営面から一緒に考えていけるような…まさに「デザインでクライアントの業務を助ける(売上や業務改善など)」に繋げれられたら、Win-Winもめざせるでしょう。

これからは、フリーランスの人も増えている分、デザイン力だけではなく、多種多様な面から切り口を見つけていける人が生き残れるチャンスもどこかにあると思っています。

もっと色々考えよう。そこが肝かも知れません。

記事を読んで「コンビニコーヒーでも1杯おごってあげよう!」と思った方はサポート頂けると嬉しいです♪ ※高額はやめてくださいね。あくまでもコーヒー代の足しにさせていただければこれ幸いです(笑