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2-2 快復日記と現場検証

眠眠スネークの東京サバイバル
2024年2月12~18日





 月曜、建国記念日の振替休日。良い天気。布団干し様々洗濯。引っ越してから一年以上放置していた天窓の荷物をようやく片付けた。部屋に初めて掛け時計も設置する。見て見ないふりをしていた荷物整理を突然再開。止まっていた時が動き出した。
 上司達に怪我したことを連絡する。唇が腫れ上がっているのとまだ血の塊が付いているので出来れば出社はしたくない。食堂メニューをまともに食べれるとも思えなかったのでしばらくの期間テレワークにしたいことを伝えた。
 負傷から三日、腫れはマシになってきたし固まった血は取れてきてる。皮膚が再生し出しているのを感じる。しかし右手の痛みがちょっとひどいのよね。当日はただの打ち身と思って気にしてなかったがうっ血がひどく親指の付け根がどす黒くなってるのが気味悪い。骨折まではいってなくとも何かしら損傷してるわ。タオルが絞れないので意外と風呂が辛かった。
 夜、干された布団の匂いを感じながら寝る。安らかに眠れることに心から安堵する。こうやって不幸や痛みがないと常にへらへら生きてしまう自分が情けなく怖い。どうせ一週間も経つと痛みが消え、一ヶ月経つと全ての傷が癒える。この今の思いを記しておくことは自分にとって意味があると思えた。




 火曜、9時からテレワークする。こんな顔絶対見られたくないので助かった。昼はカレーを温める。
 午後には上司達と元々決まっていた面談を。今回の怪我の治療や鼻の手術があるとはいえ辞めることに変わりはなく、あと二ヶ月で残りの引き継ぎを完了させその後有休を使ってから去るという目標でいくことに。
 下らないこの会社のことはずっと嫌いやったが、最初から最後まで僕のやりたいようにやらせてくれた上司達には感謝してる。元々サラリーマンに向いてなかった自分がここまで続けてこられたのも目をかけてくれた先輩方がいたからこそ。今回全く昇給していなかったことへのクレームや日頃のダメ出しをしようと企んでいたがそんな気起こらずやめておいた。
 負傷から四日、先週金曜のメンバーに怪我の状況を報告したり楽しかった飲み会の写真を共有していて初めて気付く。僕のスマホに事故現場と思しき写真が残っていたのや。撮ったことは覚えてないがどうして今日まで気付かなかったのか。血だまりまで映ってる。これは僕の血なのか?
 まるで殺人事件現場の証拠写真みたいになってるのは出来過ぎやった。自転車マーク君の心臓が撃ち抜かれてる。どうせ写真を撮ってるということはその瞬間の僕はふざけてるわ。ここで盛大にコケましたよという記録。記録魔根性極まれりやった。

深夜2:47




 水曜、快晴、気温20度。またカレーを温め食べる。今回のカレーは傷に障るといけないので辛味は抑えてある。実家のおかんがいつも入れていたのを思い出しレーズンも入れた。四日間で食べ切ったよ。ずっと美味かった。
 僕のJリートがやたら調子悪い。何故こんなに下がるのか。買ったら下がるし売ったら上がる。とことん金運に縁がないわ。とにかく今毎日刻んで買いを入れてるが底が見えないので不安になるばかり。頼むって不動産。
『おまけの夜』というYOUTUBEチャンネルのハンターハンターキメラアント編考察が面白く感心した。この人うまい。
 夜、近所の神社に行き厄除け祈願の案内チラシをもらってきた。何かあってからじゃ遅いのに何かあってからじゃないと来ないのよ結局。これを読んでる僕と同級生の皆に伝えたい。男は今年本厄やで。




 木曜、昼は雑炊を作る。病人ではないがまだ固形物が怖かった。
 夕方テレワークを終え再度事故現場を探しに行く。あの写真ではほとんどヒントないように思われたが、歩行者のための白線がなく、かつダイヤマークと自転車マークが共存する道ってのは実は探してみると案外なかった。
 とりあえず最後に飲んだ武蔵新田の店に到着するまで隈なく探すも見つかりそうで見つからず。遠出したついでにブックオフに寄りラズウェル細木の漫画を購入した。美味しんぼとラズウェル細木が僕の料理の教則本なのよ。
 途中小腹が空いたのでコンビニでつくね串を買い勇気を出して食べてみることに。ひと口大であれば串系もいけることを確認した。進歩。

 帰り道、行きとは違う側の呑川沿いで遂に写真の現場を発見した。こんなとこでコケるかねという本当に何もない平地。負傷から六日目、血痕もしっかり残ってたよ。ただ、でもまだ信じられなかった。家から思ったより遠く、写真がなければ考えもつかない場所。辺りはもう暗かったのでスマホのライトで照らし近くに眼鏡が落ちていないかだけ確認しておいた。まさかあの写真で見つかると思っていなかったのでいささか興奮。次の職は探偵でもいい。
 帰宅し先週の眠眠を書きまくる。大雪の日の日記を書いているのにもうシャツ一枚で過ごせる陽気で戸惑うわ。凍えた夜が噓のよう。
 口元のかさぶたもみるみる剥がれ綺麗になっていく。治癒力って凄い。季節があっと言う間に変わっていき僕の傷も名残惜しい程のスピードで癒えていく。罪悪感すら感じる程。

発見




 京都の幼馴染達も飲酒により前歯を折っている。そして我がおとんもいつしか井津歯科の前で酔って転んで前歯を折っていた。当時は全力で馬鹿にし非難していたが同じDNAを感じて泣きたくなった。心配されるのでまだ実家には言ってないが、歯折りの先輩達が仲間にいてくれて本当に心強かった。持つべきものは歯折りの友やで。
 金曜、「これから歯の夢よく見るようになるで」と言っていたしんちゃんの予言通り、残ったもう一本の前歯も抜け落ちてしまう夢を見て起きる。面白い。
 昼は鍋を作った。具材は半額になってたカット野菜と半額になってたつみれで貧乏鍋。家にあった鍋スープを使い美味しく出来たわ。

菜の花入り

 さっと食べ、昼休みのうちにもう一度事故現場へと向かう。昼間なら眼鏡が見つかるかもしれない。
 この日も晴天で眩しい日差しの中気持ちよく到着したが、やはりあのシミは血ぽかった。確かにこれは血やわ。赤い。
 ここに集中して血だまりがあるということはズッコケてからしばらく倒れていたのかもしれないな。酔っていたとはいえ血が止まらなかった記憶はなく、一瞬でこの量が吹き出たとは考えづらかった。防犯カメラにもし映っているならホントに見てみたい。
 負傷から七日目、眼鏡は見つからず。落ちてたら流石に捨てられてるか。翌日中にここまで辿り着きたかったよ。
 ただ、しゃがみ込み目を皿のようにして探索していたところとんでもないものを発見してしまう。なんと人間の歯が落ちていた。エナメル質なので間違いない。血だまりから約1メートルほど離れた道路脇。僕の歯やった。僕の歯でしょ。無くなった部分としては少々小さく半信半疑ではあったが勿論拾って帰る。確かあの夜、口の中に砂利のようなものがあって何度かぺっぺと吐き飛ばした記憶がある。それらは砕け散った僕の歯やったんやな。
 帰宅し入念に洗いピンセットを使いパズルのように当てはめてみた。欠片の一つなので難しかったが一部がピタリと一致し僕の歯と判明。よくもまあ見つかったもんや。今度歯医者に持っていく。
 夜は眠眠を書き進めるもこの事故をどう書くか悩んだ。ネタにしすぎるのも違うし不幸を盛りたくもない。珍しくショッキングな気持ちになったことは事実なのでそこは忠実に。後は俯瞰で捉える視点との距離感が難しかったな。面白くなってればいいが。

どうしてここで転ぶ




 土曜、年末の的中馬券を換金しに渋谷のウインズまで行く。ミズノコキュウとスピードオブライトのワイドが3000円。まずまずの配当と記憶していたが実際払い戻しが4万8600円もあり感激ラッキーやった。そのお金で翌日のフェブラリーステークスを1万円分購入する。
 僕の本命はガイアフォース。昨年の安田記念ではこの馬から大勝負し惜しくも4着でめちゃくちゃ悔しい思いをした。天皇賞での粘り込みを見てもここでは力が違うとみる。相手には堅実に差してくるレッドルゼルとタガノビューティーをチョイス。単勝とワイド2点で勝負や。

 帰宅し先週の眠眠をアップする。
 サカナバッカの無水牡蠣がうまい(10粒以上入っていて千円)。居酒屋で頼んだらいくらするかななんていちいち考えながら食べてる。
 居酒屋メニューの原価率が大体30~50%ということは、仕入れ値の倍から3倍の価格を付けて出してるということ。スーパーで150円のアボガドを400円のアボ刺しで売るのはなんとなくセコイと感じるが(美味しいけど)、グラス一杯200円前後で仕入れた日本酒がせいぜい530円でしか売れないのは世知辛いなと思ってしまう。同じ原価率でもメニューや調理法で受け取るイメージは大きく変わるよ。飲み屋の常連に主婦なんてほとんどいないのでご近所スーパー価格など気にしなくていいのかもしれないが考えれば考える程難しい商売と思った。
 原価率が推し量れない付加価値を付けることこそが商売のコツやとは思うが、結局可愛い女の子を雇うことくらいしか思い付かないのよね。

ガイアフォース単勝5番人気13倍




 日曜、ガイアフォース見事2着も馬券当たらんのやからとことんツキがない。眠眠お家芸。タガノビューティーは3着残ったと思ったけどな、いやマジで。セキフウとの同着があり得るのかと思ったらなんと4着。決勝写真を見ても何が負けてるのかわからないわ。ワイドの払い戻し7~8万が手から零れ落ちた。
 ガイアフォースの複勝がこんなにつくのなら複勝1点でも良かったよ。前日はもっと人気してたと思ったんやけどな。またもや悔し過ぎる敗北となった。

同着でしょ

 競馬を終え再度歯の欠片を探しに行く。しつこいね。これが最後。
 春の訪れを感じさせる陽気で小さな羽虫が群れで湧き出していた。現場に向かう途中その群れに顔から突っ込む。虫を喉の奥まで吸い込んでしまいむせて吐きかけた。慌てて自販機でお茶を買い流し込む。蠢く大群の虫に殺されかけたよ。ヒッチコックか。
 口元のかさぶたは全て取れていたのでもうマスクをしていなかったことが仇となった。
 勿論歯はもう見つからず。住宅街であんまり地面ばかり見てうろうろするのも怪しまれるわ。

 夜、昨日買った大山海の『令和元年のえずくろしい』を読む。『奈良へ』の人の漫画。僕はこれまで手に取ってなかったが先日トーチで試し読みした新連載がやたら上手かったので彼に興味が湧いていた。往年のガロファンの僕にとってはとっつきやすい絵なのよ。結構分厚いがおかげでノンストップで最後まで読めたよ。
 色々うまくて楽しかった。登場人物が多く、ともすればいがらしみきお的な人間の闇ホラーに落ち着きそうなところを、オカルトでもなくクズやエロでもなく、かと言って無気力系というわけでもなく、常に不穏な空気を纏いながら最初から最後まで独特なバランスを保ってる特殊なお話やった。型にハマってないのがまた新鮮で良くて、ベテラン作家じゃこうもいかないよ。変てこな青春群像SF漫画でオススメです。(SFは少し震えるの略)

 家にある大量の古本と真剣に向き合うため新たに本棚を6つ注文。眠眠堂の夢は膨らむ。
 飲みに行ってないのに食費が思った以上にかさんだ一週間。肉も野菜も調味料も今安くないので自炊が節約になる時代ではないことを改めて気付かされた。







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