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所長コラム⑫「コーポレートバリュー」について

 こんにちは、VCラボの松本です。今回のコラムでは、企業理念や社是、ミッションやビジョンやパーパスなどの言葉で表現される「コーポレートバリュー」について考えてみたいと思います。

1.コーポレートバリューとは

 2023年4月号のダイアモンド社「ハーバード・ビジネス・レビュー」において、慶應義塾大学総合政策学部准教授の琴坂将広先生は「コーポレートバリュー・アラインメント:企業に根源的価値観を実装する方法」という記事のなかで、東京証券取引所のプライム市場に上場する時価総額上位30社が示している「コーポレートバリューを表現する用語」の出現数を集計した結果を記しています。順位は以下の通りでした。

1位 バリュー(12社)
1位 ビジョン(12社)
3位 社是(7社)
4位 経営理念(6社)
4位 ミッション(6社)
6位 行動指針(5社)
7位 価値観(3社)
7位 企業理念(3社)
7位 基本理念(3社)
7位 使命(3社)
7位 存在意義(3社)
7位 パーパス(3社)

 本記事において、コーポレートバリューとは「企業が最も重視する規範や原理の源流となる根源的価値観」と示されていますが、バリューとビジョンが12社ずつで同率1位でした。ただ、理念という言葉が「経営理念」「企業理念」「基本理念」と3つに入っており、これを合わせると12社となるため、「理念」もいわば同率1位といえるでしょう。ビジョン・クラフティング研究所の私が言うのも何ですが、カタカナよりも日本語の方がちょっと安心します。

2.私自身の体験

 私は以前、ジャパンEAPシステムズの社長に就任した際、現VCラボの小西氏から「企業理念や提供価値を改めて考える必要がある」とアドバイスを受けました。「それじゃ、皆で考えましょうよ」と提案したとき、「いや、ここは苦しくても社長が自ら考える必要がある」と小西氏から言われ、「そうか、そういうものか」と受け止め、自分で考えることにしました。

 ただ、ひとりで考えるのは厳しいと考え、当時大阪商工会議所で経営相談を担当していた、現 大阪成蹊大学経営学部准教授の山崎哲弘先生に協力を依頼しました。山崎先生をスパーリング相手にバシバシとパンチを繰り出し、山崎先生からガンガン殴り返されるというやりとりを繰り返した記憶があります。でも自分で考えることの意義は、その際に強く実感できました。自分で考えたものなので、自信をもって自分の言葉で解説できることが何よりパワフルだと感じました。

3.コーポレートバリューの整理

 先に紹介したハーバード・ビジネス・レビュー2023年4月号「コーポレートバリュー・アラインメント:企業に根源的価値観を実装する方法」のなかで慶應義塾大学琴坂将広先生は、「コーポレートバリューにまつわる議論を①コーポレートバリューの構成要素、②コーポレートバリューを組織に実装する手段、③外生的な価値観、の3つの観点から整理していくと、その構造的理解につながる」と示し、以下の通り解説を施しています。コーポレートバリューを検討していく際にも、非常に参考になる整理と思います。

①コーポレートバリューの構成要素
 企業が最終的な到達を目指す地点と、企業および企業の構成員の心構えという2つの要素から構成される。最終到達地点とは、自社の根源的価値観に基いて、届けたい価値が社会に広く浸透した世界の理想像といえる。また、企業および企業の構成員の心構えは、どのように最終到達地点に向かうのかを規定する「心構え」といえる。

・パーパス:自社が存続する限り追い求める高邁な理想
・ミッション:実現は極めて困難だが不可能ではない理想
・バリュー:最終地点に到達するための意思決定や行動を統制する判断基準

②コーポレートバリューを組織に実装する手段
 事業を通して社会に価値を提供する企業では、経営における中長期的な目標と、それにひも付く具体的な経営戦略がコーポレートバリューに基いて策定される。たとえ競争優位になったとしても、根源的価値観に反する目標や戦略は選択しない。

・ビジョン:最終地点に到達するために達成しなければならない目標
・経営戦略:最終地点に到達するための具体的な目標・計画・優先順位の選択
・組織文化:コーポレートバリューを実現するための制約条件であり、有効な手段

③外生的な価値観
 社会の課題意識から生まれた外生的な価値観であり、企業が課題解決の中心的な役割を担うことを期待している証といえ、企業の倫理規定や組織文化のあるべき姿などの形で提案される。社会の期待に応えるために、多くの経営者が外生的な価値観を経営に反映してきている。

・CSR、CSV、ESG、SDGs:社会から企業に対して生じる期待
・企業統治:特定の国・地域に存在する外部からの圧力や制約であり、企業に課せられた義務

4.コーポレートバリューとナラティブ

 自分という個人の存在を考えたとき、自らの根源的価値観は「人生観」と言い換えられると思います。人生観の重要性を疑う人はいないと思いますが、ただ自分自身のことなので、人生観をあえて言語化する必要を感じない人はいるかもしれません。自分のなかで持っていればよいという考えもあるでしょう。

 ただ、働く人のキャリアカウンセリングを行っていると、やりたいことができている社員は、自らの人生観を内省して周囲に伝えられるように言語化し、かつ実際に周囲に伝える努力をしている印象があります。根源的価値に基づいた「社会に提供したいと考える価値」に関するナラティブは、周囲の共感を呼び、周囲の支援を引き出すパワーがあると感じます。

 パーパス経営を謳う企業においては、組織のパーパスに加えて社員個人に「myパーパス」の明確化・言語化を求める取り組みも広がっているようです。ビジョン・クラフティング研究所が今後、もっともっと実践していきたいと考えている取り組みは、コーポレートバリューの明確化に加え、社員や管理職の「myパーパス」の言語化支援だといえます。

文献

琴坂 将広(慶應義塾大学 総合政策学部 准教授)&ジョナサン・トレバー(オックスフォード大学サイード・ビジネススクール 准教授)
コーポレートバリュー・アラインメント:企業に根源的価値観を実装する方法~「概念化」「公式化」「共創化」の3つのプロセス
ダイアモンド社ハーバード・ビジネス・レビュー(2023年4月号)

■所長プロフィール

松本 桂樹(まつもと けいき)
株式会社ジャパンEAPシステムズ 取締役
神奈川大学人間科学部 特任教授

 精神科クリニックにて心理職として勤務後、日本初の外部EAP専門機関であるジャパンEAPシステムズの立ち上げを担う。 現在もEAPコンサルタントとして、勤労者の相談を多く受けている。
 臨床心理士、公認心理師、精神保健福祉士、キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、日本キャリア・カウンセリング学会認定スーパーバイザーなどの資格を保有。

お問い合せ:https://www.jes.ne.jp/form/contact