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「VuittonとChanelの違いは何か?」答えられなかった、ファッションの話

洋服を選んだり、合わせることが好きだった。それも、セレクトショップに置かれているような少し変わった形のキレイ系モノが好きなのです。ひらりと揺れるロングスカートも、脱ぐのが大変なレースの手の混んだトップスも。

とはいえ、ダンスをやってた頃はダボダボカラフルみたいなのを好んで着ていたから。ザ・Bガール的なメイクも好きでしたww

やっぱり環境によって変わるモノだと思うんです。好みも、苦手も。

生活はもちろん、会社中心で。建築のグレーの作業着が日常スタイルで、1日12時間は着てる。通勤はスーツか、ちょいカジュアルが許されてる風土。8センチヒール履いていったら速攻で怒られたから、ロッカーには常に『靴』が2足。

そんなだから、もちろん好きな服より、『ここの会社員らしい、目立たない無難な服』を選んでいるうちに、『普通』のOLスタイルに慣れ過ぎて、イヤになってた。

タイトスカートにシャツ、みたいな。
遊べるのはシャツの色合いぐらいの。

色物が着たいー
もっと服巡りしたい
もっとおもしろい服が着たいっ!!
願望が溢れて、止まらない

ーそんなわたしが30代で出させてもらった、ショーからファッションのイロハを学び始めた時のこと


蒸し暑い、ある夏の日の昼下がり
鮮やかなオレンジ色のタックスカートと真っ白のタンクトップに、薄手のカーディガンを片手に持って。

細身のオレンジベージュのベルトで気合をいれて、白く重たーい扉に手をかけるた。右手首にハメた、太めゴールドのバングルが揺れる。

無機質な廊下の先。真っ白の壁に囲まれた天井のすごく高い、スタジオ内の一角に、丸い大理石調のテーブルがある。真新しい厚手のニット生地を広げた滝沢さんが、すでに待っていた。プロデューサー兼デザイナー兼パタンナー兼…なんかいろいろやってて映画制作の衣装責任者でもある。なんでもこなす、腕を持つ人。


「おはようございます!」

「おはよう。今日のそのオレンジはいい色だな。顔と雰囲気に合っている。ただ、そのバングルは合わない。外しをかけるならそのミュールでやったほうがいい。パンプスでもいいぞ。ミュールはライトすぎるからな。あと、そのスカートの裾は…1.3㎝ぐらい短い方がいいな。裾上げは自分でできるか」

「え、と。あとで、ピンの位置確認させてもらってもいいですか?タックのところもキレイに上げるコツとかあれば…」

「もちろん」

最初はド緊張で苦笑いするしかなかった、開口一番の滝沢ファッションチェックも、3回目ともなると、コメントをもらえること自体が嬉しくなっていた。

ソファに腰かけ、注意を受けたバングルを外してバックにしまう。代わりにB5のリングノートを取り出す。今言われたことも、メモしておきたい。
滝沢さんの頭の中が少しでも欲しい。

判断基準、合わせ方、何がオシャレで、何がダサいのか

『ファッションは自由だー』
正解もない。もちろん、習い始めた今でもその気持ちは変わらない。
でも、それはやっぱり時と場合によると思ったのは、格式高いパーティやプチショーに出たからだ。

プチショーに立ったあの日『ファッションとは』をちゃんと教わりたいと思った。生き様を語るファッションとは何か。モノづくりの裏側と、自分を表現できる服とは何なのか?個人を活かす服とは、なんなのか?

服を纏うひとに、なりたいと思った。
空間を彩れる人になりたいと思ったから。

歴史と共に変わってきた洋服のスタイル、カタチ、民族衣装の特徴。そして色使いの変化や意味が国によって違うってことが前回までのレッスン内容。

何気なく『好き』で選んでいたトレンチコートが、元は軍人用の服だったことに今更ながらに驚いた前回。

ファッション変化の先端には、常に革新をもたらした有名デザイナーや職人さんたちがもちろんたくさんいたけれど。そのデザイン(カタチや素材)が生まれた背景には戦争や差別、時代背景、生活環境が色濃く反映されていた。

予想以上に建築よりも細かく影響を受けていて、規制も受けていてビックリ。それに、ラグジュアリーブランドと呼ばれるハイブランドの中でも有名店の生い立ちは、調べれば調べるほど特に色濃く荒波だらけ。

ストーリーはどれも伝記物で、なぞるだけでも重みを感じる。

「このニットは後で使う。この糸と編み方はちょっと特殊でな、おもしろいぞ。じゃあ、前回の確認と続きからー」


ハイブランドの創業はそもそも、洋服屋じゃないことも多い。

エルメスは馬具工房
ティファニーは文具や装飾品
ラルフローレンはネクタイ
バーバリーはジャケットからだけど、元々生地屋の、見習いで
シャネルは1つの帽子から
ヴィトンは旅行カバンでー


始めの1歩は、1品のこだわりから始まっていた。


ディオールやグッチ、バレンシアガは洋服から。それも『オートクチュール』(1点もの)から始めている。

「前回は、有名ブランドは大きく3つのグループ会社と、独立経営に分かれていると。LVMHとケリング、リシュモンに属しているそれぞれのブランドの残りは調べてきました」


「アリサ、VuittonとChanelの大きな違いはどこにあるかわかるか」


一瞬、何を聞かれているのかわからなくて
頭が真っ白になった。
ノートの上を走らせようと意気込んでいた手は止まる。

毎回。滝沢さんからレッスンに配布される資料は、ない。
いつだって目の前には、滝沢さんの言葉を写していくノートと本物の服しかない。


ノートを見返したくても、そんな会話をした覚えはそもそもないしー

(これは、戦略のことをいっている?
テイストのこと?それとも、生い立ちのことを言っている?)

ちらっと、滝沢さんを見上げると腕組みをしながら笑っていた。


「どうした、わからないのか」

「えーとそれは、ブランドの方向性とかテイストの差ということですか?それとも、ブランドの…」

「ブランドとして、決定的な違いだ」

「……え、と…ハイブランドか、メゾン、か??」

「違う。グループ経営か、独自経営かだ。お前が調べてきたことだ」

…確かに。

「VuittonはLVMHグループで、シャネルは独自経営です」

「そうだ。そしてLVMHの株主は?」

「…クリスチャン・ディオール」

「クリスチャン・ディオールの持ち主は?」

「アルノー…建築会社です」

「そうだ。世界トップグループと言われているこのグループを創設したアルノーは、建築からなぜこの一大プロジェクトに臨んだのか。なぜLVMHという名前なのか。このLVMHグループ経営の強みとシャネルの単独経営の強みはどこか。この違いはファッションブランドと服を知る上で極めて重要なことだ」

なぜかー?

ハイブランドは常に、その理念と生み出す価値を紡ぎ続けるために生存戦略を必要としている。生みだされた使命の何を大切にしながら、革新を起こし、どう後世に残していくのかを考えながらー

そこには当然、莫大な資金力とそれぞれのブランドの生き様を引き継いでいくデザイナーや職人たちが必要となる。


だから、『イッセイ』も『ケンゾウ』も早くからLVMHに入った。長く、長く。自身の創ったブランドと『想い』を生かすために。

自分が死んでも、ブランドの想いと技術が生き続けるように

そしてハイブランドはどこも最高の技術と、技術者と生産地を傘下にいれているし、入れることにも重点をおいてる。特に職人のブランドと呼ばれるエルメス(単独経営)やシャネル(単独経営)がわかりやすい。

資本をどこからもいれずに作っているから方針がいつでもブレない。自身で稼げさえすれば、有能な技術者や生産者も傘下に抱えられる。現実に時代のうねりがあるときも、生産ラインと高い品質がずっと保たれている。もちろん、生産原料や技術を守り育て、未来へ繋ぐことも忘れてはいない。


「服を纏うとは、その歴史と技術のアイデンティを纏うということだ。
有名だからとか流行りだから、流行りの素材、オシャレだという理由だけで、モデルに服を『纏わせる』ことはない。個人をプロデュースすることもない。作るなら、なおさらだ」


2021年1月
ずっと単独経営を貫いていた『ティファニー』がついにLVMHに買収された。少しの進退はあったもののまた1社、長い歴史と伝統ごと吸収した巨大組織のLVMHは、さらにアクセサリー部門の知見を深め、互いをファッションの未来へ繋いでいく。


ティファニーにはきっと新たな知見と、LVMHグループに培われたブランドの強みがプラスされ、新しく進化をするのだろう。


VuittonとChanelの違いは何かー
血が混ざりあい新たな価値を生む中で進化していくか、純血のエナジーがそのまま受け継がれていく中で、独自の進化をしていくのか

どちらも凄すぎて、今のわたしにはまだ理解できない『想いのカタチ』だと思った。

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