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誰も観たことのなかった「AR」写真展 - 藤幡正樹氏による「BeHere / 1942」

今年観た中で最も感動したAR(アーギュメンテッド・リアリティ、現実拡張)技術を利用したコンテンツの話をさせていただきたい。いや、初めて「感動」するARコンテンツを観ることができた、という表現がふさわしい。
藤幡正樹氏が、ロスアンゼルスにあるJapanese American National Museum (以下JANM) で開催している写真展「BeHere / 1942」にて体験することができる(2023年1月8日まで)。80年以上前に強制収容所に送られたリトル東京の人たちの記憶をまるで彼らが(その場にいる"Be Here")がごとく再現する、というのが自分の解釈である。

ハロー・キティが迎えてくれたJANMで開催されている写真展。

写真展が開催されているJANMは、その名の通り日系アメリカ人の歴史を発信するのがその使命とされているミュージアムでリトル東京に位置している。当時記録された写真に映る人々の微笑みの裏にある歴史を辿るのにARの技術を利用している。そのミュージアム前の広場にカメラを向けると、バスに乗って収容所に向かう人たちが3Dのアニメーションとなって現れる。

上記の筆者が撮影・編集した動画で全体像を把握していただければ幸いである。(なお音楽は筆者が任意に選んだものをつけたことをお断りしておく。)

ARの作成は当時の写真を元にしている。

AR体験は、記録された写真の風景を元にして3DCGの技術により場面を再現するという方法が用いられている。実際に当時の収容所送りの体験した人たちも交えてモデルになってもらい、忠実に雰囲気を再現することに成功している。

当時の撮影に用いられたカメラも展示されている。

上記の画像左端の写真は、当時の下から見上げるようなカメラで撮影されている。ミュージアム内にも(屋外で観られるのとまた別の)AR展示もある。このカメラを覗きこむと背景の電車の静止画の前に、写真で観られるような当時の人たちの姿が合成される。自分が撮影クルーになったかのような感覚が味わえるのである。

現地時間12月6日に、ハリウッドに位置するJAPAN HOUSEにて。左は進行役の Michael Emmerich 氏である。

今月始め、ロスアンゼルスにある Japan House Los Angeles にて藤幡氏とDJ Spooky の対談「Technology, Storytelling, History, Proximity」を観る機会に恵まれた。

藤幡氏の口から制作過程について語られた貴重な対談。

印象に残ったのは、この展示の最中に脅迫めいた電話を受けたという話である。電話を掛けた相手は、この展示のことを「バーチャル・リアリティ」と呼んでいたという。藤幡氏は「新しい技術を持った展示を行うことが(ネガティブな興味からであっても)何かしらの反響を呼ぶという事実は興味深いと思った」という意味の発言があったと記憶している。
もちろん、脅迫行為は許されるものでない。アーティスト経験の長い藤幡氏はこのような事態も予想していたかもしれないが、新しい技術を用いたアートに注目が集まるという事実に、何がしかの希望と言えるようなものを感じていたようにすら思えた。DJ Spooky氏も怒りを表していたが、幸い実際には展示そのものに被害をおよぼすようなことはなかったという。

DJ Spooky氏が日本のカルチャーやアートからの影響についても語った。

DJ Spooky氏の長年の日本に対する興味についても知ることが出来た。子供の頃観た「ウルトラマン」等の番組に対する愛情、日本のデザインや漫画、オノ・ヨーコ氏に代表される日本のアーティストとの交流についてである。

2022年もまた様々な技術や技術を用いたアートが世に紹介された。繰り返しになるが、AR技術を用いたアートでこれほど観ておいて良かったと思えるものはなかった。この展示にどれほどの注目が集まっているかは分からないが、もっと多くの人達に観てほしいと願わずにいられない。80年前の日系アメリカ人の方たちと同じような記憶を共有している人たちが、世界中にいるはず。それは悲しいことに2022年の今でも起きている現実である。


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