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インボイス制度の課題と改善方向性(4)消費税のゆくえ

 前回の記事では消費税の益税問題の効果が限定的であることについて述べ、益税問題の改善方向性として次のことを挙げました。
・段階的に事業者免税点制度をなくし全事業者が課税事業者に移行すること
・免税事業者が課税事業者に移行した際の収支悪化を事業者同士が相互に負担しあうこと
 今回はこれらの点について説明しつつ、消費税のゆくえについて考察したいと考えます。


益税問題の改善方向性

益税の存在は疑問

 前々回の記事で以下のとおり検討したように、小規模事業者に益税が生じているという見方は必ずしも完全ではなく、実際の市場では益税ありきの価格が成立している、言い換えれば益税は市場経済に吸収されているという見方が成り立つと考えます。

 「益税は小規模事業者に利益をもたらしている」というよりも「益税は小規模事業者の競争力保護の一環として機能しているが、制度ありきの条件で取引が行われていることもあり、その機能も万全とは言い難い」ということが言えます。

拙稿「インボイス制度の課題と改善方向性(2)益税問題」より引用

インボイス制度の本質は増税

 その市場に溶け込んだ免税をなくすということはつまるところ増税でありますから、インボイス制度というのはその趣旨はともかくとして、本質的には増税に他ならないと考えられます。そして、市場に溶け込んだ価格に対して増税をするにあたって、その負担が一部の事業者に寄ることは消費税の目的からしても相応しいものとは言えないでしょう。なぜなら消費税は消費者が負担するものであって、事業者が負担するものではないからです。

事業者免税点制度は少なくとも小売業限定にすべし

 免税事業者が事業者を得意先にする場合、得意先における仕入税額控除の問題から否が応でも課税事業者への変更を迫られることは前回の記事で説明しました。そうなると小売業以外では事業者免税点制度が実質的に機能しなくなるとも言え、機能しないのであれば廃止すべきであるとも言えます。

事業者同士は全て課税取引とし増税負担をシェアすべし

 ただし前回の記事のとおり、免税事業者が課税事業者になれば税負担が増えます。そして前述したように市場に溶け込んだ価格に対する増税負担をそうした事業者だけに寄せることが消費税の目的として相応しくないとすれば、まずは少なくとも取引の当事者である事業者間でその負担を分け合うべきではないでしょうか。これは当事者間だけで議論するのはパワーバランスの問題から難しい点がありますから、政府なり業界団体なりがガイドラインを出すべきでしょう。そうすることで、将来的には取引の当事者間だけでなく、それらの上流又は下流に位置する事業者にも負担が行きわたっていくと考えられます。

消費税のゆくえ

消費税の税率は上がっていく可能性

 消費税の税率は上がっていく見方が強いです。なぜなら、グローバルな節税スキームによる税源浸食・利益移転(Base Erosion and Profit Shifting)の進展によって、法人税や所得税などが徴収しにくくなっているからです。
 例えば、アイルランドは法人税率を12.5%と低く抑え、場所の制約を受けにくいIT企業や製薬企業を誘致しています。これに対しOECDは税率の引き上げを要請しアイルランド政府は15%で合意しましたが、国家主権の保護という観点もあり強制が不可能なのも事実です。所得税や相続税に関しても国外居住や国外財産によって納付を避ける動きを止めることは困難です。
 企業や個人が国家の枠組みを超えて動いており、その動きが拡大していく見込みが強い以上、確実に取れるのは国内で消費された物品やサービスに対する税、つまりは消費税となります。ここを上げないと税収が先細りしてしまう危惧があるので、政府は何が何でも上げたいわけですね。

軽減税率による物価対策

 しかし、消費税は消費者にとっては物価の一部でありますから、消費税の税率が上がれば消費量が減ります。企業にとっては、販売単価は変わらないのに販売量が減ることになります。したがって、消費者も企業も消費税の増税を支持しにくい面があります。
 そこでEU諸国のように、日常的に使われる生活用品や食品などに関しては軽減税率により現行の税率を維持(もしくは更に低減)しつつ、その他の物品・サービスについて税率アップが図られることが想定されます。軽減税率をよりドラスティックに設定することで、経済への影響を緩和しようということです。

更なる賃上げ要請

 とはいっても、軽減税率で対応できる範囲は限られていますし、消費者が生活水準の低下を許容できるのには限度があるでしょうから、消費税の税率アップと賃上げ要請はセットで行われることが予測されます。
 春闘の対象となるような大企業では継続的な賃上げ圧力がありますが、そうした圧力を受けていない中小企業への対策として、現行の「賃上げをすれば法人税を減らせる」所得拡大促進税制が、「賃上げをしなければ法人税を上乗せする」所得拡大強制税制へ変わっていくかもしれません。

雇用的自営業者の課題は残る

 少子化が進み人材の確保が難しくなる中、上述したような従業員の賃上げには一定の強制力が働いていくと予測できますが、一方で従業員のような働き方を強いられる自営業者、雇用的自営業者の課題は残るでしょう。この課題に対する解決策は議論がまだ進んでいないため、自営業者側は専属ではない仕事の受け方を模索していくという自助努力が必要になる可能性が想定されます。

 これで、消費税の仕組みから益税問題、そのゆくえについて4回にわたって私の考えを述べたシリーズはいったん終わりです。
 最後までお読みいただきありがとうございました。

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