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私的音楽一週間記

「いつも敢えて違う道を通って帰るんです。毎日新しいものに出会いたくて。」
屈託の無い笑顔でそう言う人に出会った。
その言葉に重なるように流れていたのは、サカナクションだった。

■7月22日(月)
真夏を待つ夜に聴くSCOOBIE DO。絶え間なく肌を覆うじっとりとした汗から生まれる昂揚感。蒸し暑さの中で「Have A Nice Day!」を繰り返し聴いていたら、いつもと違う道を選んでいつもと違う目印を見つけたくなる。
「君は想像力が豊かすぎるんだ、良くも悪くも。」
いつもと違うコンビニで、いつもは買わないビールを買う。勢いよく口の中に流れ込む泡が、遠い夏の日に言われた一言を蘇らせる。幸福感とやるせなさの妥協点は、どうしてこんなに心地良いのだろう。

■7月24日(水)
帰り道、メトロを降りてホームから改札に向かう階段をゆっくり昇っていると、誰かの手から滑り落ちたであろう薄桃色の名刺に目がいく。見つけてしまったことで、気づいてしまったことで、”消費”されていく夜に募る儚さ。改札を抜けた先、あの名刺を落とした誰かを待っているのはなんだろう。刹那以外のなにかを見出したくて、再生ボタンを押したのは斉藤和義の「小さな夜」。改札を抜けた先、私を待っているのはなんだろう。
小さな夜を積み重ねていけば、幸福な朝食を迎えられる日が来るのだろうか。


■7月26日(金)
頭の中で繰り返されるたびに色を増していく言葉に出会う。両手いっぱいの充実感より、片手分の期待感に酔いしれたい。そんな感情に寄り添ってほしくて聴くYogee New Wavesの『BLUEHARLEM』。記憶を長生きさせたくて、エンドレスリピートする「Bluemin' Days」。ひんやりとしたタオルケットの端を掴んだら、願い事1つ叶う気がする涼しい夜。明日が雨でも、それでもいい。

■7月29日(月)
通勤途中の駅で見かける公衆電話で話す若者。スマホ忘れか充電切れ、それともスマホ断ちなのか。なんだかとても気になって、あれこれ想像を巡らせてしまう。誰もがスマホを持っているのが当たり前の今があるように、公衆電話で10円分の会話に懸ける姿が当たり前だった時代があったんだ。できることならそんな時代にこの“20代”を過ごしたかった。心揺さぶる音楽と、固いシートの映画館。待ち合わせはいつだって不確かで、ラジオを聴いて過ごす夜。そんな時代を生きてみたかった。若者を見つけて無意識に外していたイヤホン。そっと戻して聴こえてきたのスガシカオ。地上に上がると、やけに太陽を眩しく感じて立ち止まり、深呼吸をひとつ。

朧月のような記憶に優しい雨のような音楽が重なったら、思い出になった。
夏のはじめの私的音楽一週間記。

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