Voda Vóce

短編小説を書き編みます。2022年5月「g.o.a.t」終了につき、作品を「note」…

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短編小説を書き編みます。2022年5月「g.o.a.t」終了につき、作品を「note」へリポストしました。

最近の記事

Sleeping Fáce

" Mask " 目を閉じても綺麗な人は、瞳に頼らず綺麗を醸せる人。数多くはいない。 あらゆる美しさは相対評価、ゆえに綺麗の数は多くはない。多いと言うのなら、その多くの美しさは綺麗ではない ‥。 ┇ レイリがフェイシャル・エステティシャンになって10年が過ぎた。 延べ2,000人の女性の顔を見て触り、今現在も、たくさんの目を閉じた女性の顔を間近で見る毎日を過ごす。そんなポジショニングでも、目を閉じた状態での綺麗な顔は、ほとんど目にすることはない。 程良い額の広さ ➢ 眉

    • Rush eyeLáshes

      " White Moth " 26:00 ‥ ホワイト・マント調のコスチュームを羽織った若い女が、小さな電気看板に近づいていく。まるで電気明かりにたかる蛾のように ‥。 六本木ヒルズから東京タワーまでの距離は2km弱。そのほぼ中間点に位置する東京・麻布永坂町。 その奥まった所に、昼も夜もほとんど人の姿を見ない静かな区域があり、その一画に小さくても力強い光を放つ電気看板が見える。そこは5坪もない極小のビューティーサロン。店はガラス張りで、そのガラス越しに店内がよく見える。

      • Snáky Flute

        " Snake ➢ Crow " 26:00 ‥ 自宅アパートから徒歩圏内の河川敷に来た。ここは私の稽古場。 無名の篠笛奏者を10年やっている私は、自宅アパートでは音がうるさいため練習ができない。時間帯もアルバイトのため、夜中しか練習ができない。―― 今年の冬も寒いわね。 指に付いた使い捨てカイロの温もりが消えないうちに、今夜も早速吹き始めた。1曲吹き終わるごとに、あちこちから起こるまばらな拍手は、草陰にいるホームレスがくれる。乾き疲れた手のひらから出る拍手の音は、いつも

        • Petty Tráps

          女が路上に座っている。 ハットを頭にのせ、羽織っている外套は、見るに堪えない垢染みたヨレヨレのコート ‥。 『あれ、ホームレスだよなぁ』 男はずっと女を見ている。 男は若い女のホームレスを生まれて初めて見た。顔以外は汚いが、顔だけはやけに綺麗なことも男の興味を引いた。まるでフェイス・モデル並みの顔立ちと肌。 『まさかメイクしてるのか?』 男は訝しみ、少し近づいて凝視した。 『やっぱりノーメイクだ。そりゃ、そうだよな。よし、安い買い物ができそうだぜ』 今度は、目をギ

        Sleeping Fáce

          Ínnocent Time

          " Invoke " 『ハイ、本日はネイリストでいらっしゃいます、大貫ラコ先生にお越しいただきましたー!』 夜、TVの収録が終わり、局から1人で送迎の車に乗り込む。 大貫ラコのネームでネイリストをしている私は、ここ数ヶ月、メディアでの仕事が増えている。しかし私の経営するネイルサロンでは、私を指名する顧客も後を絶たない。でも今は、それらをやっている時間はない。毎日が分刻みの忙しさ。でも今夜だけは奇跡的にスケジュールが空白だった。 「運転手さん、ここで降ろしてください」

          Ínnocent Time

          Eye Shót

          " Witness " ナイトサービスを利用して、夜遅くにヘアーサロンへ行く。 私のような連日残業のOLの身には、とても助かるサービスなので、技術料金が2割増しでも頻繁に利用している。 通うヘアーサロンの建物は、両側面が壁で前面だけがガラス張り。サロン店舗の典型的な造りで、あちこちに見かける店構えである。 店の入り口は、ガラス張りの店舗前面の左端にある木製の入り口扉。 21:30。 その日もいつものように、私は店の右端からガラス張りを通り越して、木製の入り口扉のノブを握

          Lé Poison

          「Poison? 読みは英語ではポイズンよ。フランス語ではプワゾンよ。スペル同じなのにって、あたしに言われても困るのよ。もう、うるさいわねー、意味は同じよ、毒よ、毒!」 朝、姉に電話をかけた。語学に堪能な姉だが、朝から機嫌が悪かった。Poisonというワードのニュアンスを知りたくて、できれば本やネットにない裏的なことを聞きたかったが、それは叶いそうにない。妹の私にいろいろ言ったって、一銭にもならない。姉のシビアな性格は、今に始まったことではないけれど‥。 「定冠詞? あん

          Návy Nights

          " Alf Layla wa Layla " 「アルフ・ライラ・ワ・ライラは千夜一夜物語のことよ。アルフ・ライラは千夜、ライラは夜。でも、アラビアン・ナイト って言った方が分かるかしら?」 「アラビアン・ナイト? 僕だってアルフ・ランラで分かるよ」 「ふふ、無理しちゃって。発音、間違えてるわよ」 彼女の瞳は、黒曜石のような輝きと比喩すればいいのかもしれない。しかし迷いのないこの漆黒色は、僕にブラック・オニキスの方を連想させた。しっかり心肝を括っていないと、この黒より黒

          Návy Nights

          Loose Wóman

          " One Fine Day " メイクアップの最終プロセス。ホワイト・ペンシル・アイライナーの芯先をライターの火に当て、すぐに離す。下まつ毛内側のピンク粘膜へ、ペンシルの白い芯先が熱で柔らかいうちに、インサイドラインを引く。一瞬で女の粘膜がホワイトに変わった。 女の顔は、頭にのせているテンガロンハットのつばで、すっぽり隠れている。マスクをしている。この若い女はそんな体裁で、路上でワイヤー・アート( 針金細工 )のアクセサリーを売っている。 ここは東京西端の米軍基地の街

          Loose Wóman

          Grássy Lips

          《 草の匂いのする唇でも、いいですか? 》 ┇ 本当に食べていくのがやっとだった。 私の少女時代は母一人子一人。生活はいつも困窮を極め、平成の世で私のような子は周りにいなかった。病弱の母は、その脆弱に鞭を打ち、毎月わずかなパート収入を絞り出すのがやっとだった。 「子供が、あんた一人でよかったよ」 いつも母はそう言っていた。私も一人っ子が寂しいと思ったことは、一度もなかった。もし弟や妹でもいたら、もっと貧しかったわけだから。 「私、一人っ子でよかった」 最低限の食事

          Grássy Lips

          Ráre Act

          " Attachment " パンチの効いた風は、速やかに、私の全身を悦に入れてくれた ‥。 ┇ 東京・隅田川沿いにそびえ立つ、大型マンションの群れが見えてきた。あの私の1人暮らしの住処まで、あともう少し。 真夏の夜、いつものように、川沿いの綺麗に整備されたテラスを1人で歩いていた。 今日も残業。OL生活はもうすぐ10年になる。その間、いくつかの昇給は貰ったけれど、その度にまとわりついてくるストレスの拭い方がまだわからない。 でも、私にまとわりついている汗は拭わなく

          Tip Tóes

          " I’m a Pedicurist " 『つま先を痛めないヒールやパンプスはありません。足の小指の爪、お大事になさって下さいね』 ┇ 手の爪は扱わない。私は足の爪のみに特化したネイリスト=ペディキュアリストを4年続けている。 4件のネイルサロンと業務委託契約を結び、完全歩合制でやっている。ネイルサロンは完全予約制だから、その都度予約に応じて東京都内を動き回っている。 フットネイルと称される足の美容メニューは、手の方とは違って客数は少なく、ニーズが少ないマイナー・ジャ