サブスクは本当に不公平なのか?!利益配分を考察してみた

TBSラジオで毎週金曜日8時30分~午後1時まで放送の「金曜ボイスログ」
シンガーソングライターの臼井ミトンがパーソナリティを務める番組です。
 
このnote.では番組内の人気コーナー
「臼井ミトンのミュージックログ」の内容を書き起こし。
ちなみにyoutube版では動画も公開しているのでそちらも是非。

アーティストに入る金額は本当に少ないのか?

 先日とある歌手の方がサブスクでの収益が少なすぎる!という旨をちょっと過激な表現でツイートし話題になりました。少し前には大物歌手がサブスクは中間搾取が酷いから自分は死ぬまで作品を載せないと宣言したり。
最近事あるごとにサブスクにおける利益配分についての話題がバズります。
 
サブスクっていうのはサブスクリプションサービスの略で、ユーザー側が
月額定額でお金を払って、それによってそのサービスのカタログに掲載されている全作品がいつでも何度でも聴き放題というサービスですね。
 
音楽だけじゃなくてこういうサブスク型のサービスは色々なジャンルで増えてますけど、音楽の場合問題になってるのが1回再生されるたびにアーティスト側に入ってくる金額が少なすぎるんじゃないかっていう部分ですね。
 
実際にどのくらい入ってくるのか?というとこれは説明するのが結構難しいです。というのも、そういうサブスク配信サービスに楽曲を登録するにあたっては、デジタル・ディストリビューターっていう中間業者みたいなものを基本的には通す必要があるんですね。
業者さんが入るということは中間マージンを取られるということになりますから、その業者さんとどういう契約を結んでいるかによってアーティスト側に入ってくるお金が変わってくるわけです。

例えば、今デジタル・ディストリビューションサービスで一番有名なのがTuneCoreという業者なんですけど、ここはレコード会社とかに所属してなくても誰でも自分の音楽作品を配信してもらうことができる。
配信によって生まれた利益は100%還元される。という謳い文句なんですが、その代わりに年間手数料という形でシングル1枚で1500円、アルバム1枚あたり1年で5000円くらい取られます。なので、全然再生数が伸びない場合は
手数料ばっかりかかってしょうがないっていうことになります。

まずはその年間手数料を相殺するためにかなりの再生数を稼がなければいけない。その代わり手数料分を乗り越えてたくさん再生されればされるほど、中間マージンとしてもってかれる分の割合は相対的に低くなってお得になります。瑛人さんの「香水」はTuneCoreからの配信なので、香水が何億回再生されようとも、瑛人さんはTuneCoreに年間1551円払うだけで済むっていう、夢のようなお話です。
 
で、業者によっては逆に「うちは年間利用料や初期費用一切取りません。その代わり、何回再生されようと必ず20%はもらいます」というタイプもあるんですね。「香水」みたいなヒット曲がない僕みたいなアーティストの場合は圧倒的にこっちの方がお得です。

年間手数料を固定で取られる場合、その作品が売れても売れなくても毎年固定費としてお金が出て行ってしまいますけど、売れた分の20%だけもらえればいいですっていう契約の場合は、売れそうもない曲をサブスクに上げ続けたとしても、こっちが失うものはないんです。
 
こういうわけで、一口にサブスクはアーティスト側に入る利益が少ないっていう話をするにしても、まずは、どのディストリビューション業者を選ぶか、どんな条件で契約を結ぶかっていう部分によってもだいぶ変わってくるんです。

では、臼井ミトンはいくらもらっているのか?

この点をふまえた上で、次は、実際に僕がいくらもらっているか?
という具体的な金額を見ていきましょう。
僕は、固定で手数料や利用料がかかる業者じゃなくて、売れた分だけパーセンテージで手数料もらいますっていうタイプのディストリビューターを選んでいますので、1回でも再生されれば、一応お金が入って来ます。
 
いくら入るかというと・・・
ビシッと金額言いたいところなんですけど、これもまた、めちゃくちゃ細かい条件分岐があるんです。
 
まず、SpotifyとApple Music、あるいはAmazon Prime Musicなどなど、
その配信プラットフォームによっても当然金額が違いますし、同じプラットフォームでも、なんとですね、三ヶ月無料お試し期間中のユーザーが再生した場合と、プレミアム会員が再生した場合とでアーティスト側に支払われる金額が違う。
さらに!同じプレミアム会員でも、月払いのユーザーと年払いのユーザーとで、アーティストに入ってくる金額は異なります。
 
例えばApple Musicの場合。〝僕の結んでいる契約では〟ですけど、
 
1曲1回再生されるたびに・・・
・月払いプランの個人ユーザーだと約0.77円
・これが年払いプランのユーザーだと約0.6円
・お試し無料プランに加入しているお試し期間中ユーザーの再生だと約0.5円
・学割プランの月払いユーザーは約0.32円
 
Spotifyだとこれよりもさらにちょっと減ります。
例えばSpotifyのお試し無料期間中のユーザーに自分の曲を再生してもらっても、約0.15円しか入りません。
 
こういう具合で、同じプラットフォームで同じ曲が1回再生されるんでも、再生したユーザーがどんなプランへ加入しているかによって、アーティスト側に入って来る金額が異なる。
この事実はほとんどのアーティストが知らない事実だと思います。 

何故ミトンさんがサブスクの内情を知っているかというと…

何故知っているかというと、僕は自分で音楽制作の会社をやっていて明細を見ることが出来るからなんですね。明細を見る限りはユーザーごとの毎月の支払額の違いを誠実にアーティスト側の取り分に反映してくれているなと
思いますよ。
 
で、まぁ平均すると1曲1回再生あたり約0.5円くらいですかね?
これがアーティスト側にとっての売り上げになるわけです。
ただ、さっきからアーティスト側アーティスト側って言っていますが、
正確に言うと作品の【原盤権】の保有者に支払われるのがこの金額です。

僕の場合は自分で制作費を全額出してアルバム作ってるので、その作品の
原盤権というものを自分で持っています。
なので、サブスクの売り上げもそのまま100%自分のところに入ってきます。
 
じゃあレコード会社に所属しているメジャーアーティストの場合どうなるかというと、レコード会社がお金出してその作品作ってるわけですから、
原盤権を持ってるのは基本的にレコード会社なんです。

なので、1回再生あたり約0.5円っていうこの売り上げは、まずはレコード
会社に入ります。そこからアーティストにいくら支払われるのかというと、普通デジタル配信の場合アーティスト本人はせいぜい10%くらいしかもらえません。
 
まぁこれもホントにレコード会社とアーティストとの契約内容次第で、
実際かなりケースバイケースなんですけど、それにしたって約0.5円の10%ですから、アーティスト本人には約0.05円しか入らないという計算ですよね。雀の涙のさらに10分の1になっちゃうってことですね。 

サブスクは本当に不公平なのか? CDとの違いは?

ただし!じゃあこれをもってサブスクでは音楽家に利益が還元されない、
不公平なシステムと言えるかっていうと、そうでもなくて…
 
CDやレコードの場合を見てみますと、やっぱり流通経費とか小売店への配分とか、あるいは製造コストもありますから、アーティストへの歌唱印税っていうのは実は販売価格の1%〜3%なんです。自分で作詞作曲しても5%いかないのが普通。その曲の売り上げに対するアーティストの取り分・比率って言うのは実はCDやレコードの方が、サブスクよりもむしろ全然小さいんです。

 で、さらに言えば、例えばCDって僕が学生の頃なんか、本当は良くないことですけど、クラスの友達と貸し借りしたり、兄弟で別のシングル盤買ってそれをテープとかMDに録音して聞いたじゃないですか。
そういう風に再生された分に関しては、一切アーティスト側の収益には反映されないわけですよね。

1枚のCDやレコードを買って、擦り切れるほど聴いても、あるいはクラスの友達と回し聞きしてみんなで何万回聞いたって、別にその分アーティストの売り上げが増えるわけではない。
でも、サブスクの時代って、再生されたらその回数分必ずちゃんとお金が
入ってくるんで、純粋に作品が再生された事実に対する取り分っていう観点で言えば、こっちの方がフェアなんじゃないかという見方も出来ますよね。 

アーティストに入る金額が安い大きな理由は・・・?

じゃあ、なんで再生1回あたりの利益がこんなにも少ないかって言ったら、それはシンプルに、ユーザー側が払ってる金額が安いからですよ。
音楽系のサブスクサービスの月額利用料ってせいぜい980円とかですよね。今まで2曲入りのシングルを1000円で買ってたんですよ?
10曲入りのアルバム1枚買うのに3000円とか払っていたのが、1億曲近く聴き放題で980円で済んじゃうんですから。
 
アーティストに対する利益の分配比率が昔よりも減ってしまったとか。
配信プラットフォームがボってるとか、そういうことではないんですよ。
ただただシンプルに、リスナーが1曲あたりに支払う金額が減ったんです。音楽が安く聴けるようになったんです。だから、アーティストに入るお金もそれに伴って減ったというだけの話。
 
大御所アーティストだったり、CDが売れてた時代の人がサブスクに対して
文句があるって言うのは、つまり「この値段ではうちの商品は卸せません」っていうことですね。それはメーカーとして立派な考え方だと思うので、
そう言う風に素直に言えば良いのに、やれ中間搾取だなんだって、サブスクのプラットフォーム側がぼったくってるみたいな言い方を何故かみんなするわけですよ。

ボッてないですよSpotifyは。明朗会計の極みですよ。
約0.77円と約0.6円の違いを1曲1曲気が遠くなるようなエクセルのデータで
毎月送りつけてくるんですから。

ちゃんと素直に、「自分の音楽が約0.6円とかのタダ同然で聴かれるのは納得出来ないんで、すみませんけどちゃんとCD買って聞いてください」って言えば良いのに、そう言ってしまうと自分のイメージが悪くなると思うのか、Spotifyを悪者に仕立て上げるんですよね。
そういうやり方は僕はどうかな、と思います。
 
サブスクって本当にいろんな音楽に気軽に簡単に触れられる素晴らしい仕組みだと思うんですけど、作品数が多いだけに、せっかくみんなに払ってもらった月額利用料はどうしても水で薄められたような状態になってしまう。

それは誰が悪いとかじゃなくて、システムの性質上そうなっちゃうのよ。
作品数多いんだから仕方ない。じゃ月額利用料上げる?上げたら上げたで今度は高すぎるって言って音楽離れが進むか不正コピーが蔓延るわけでしょ?
 
そう言う意味でも今の金額のバランスってすごくフェアだと思うんですよ。だからこそ、音楽ファンの皆さんには是非そのサブスクの性質を頭の片隅に置いてもらった上で、サブスクはサブスクで楽しんでもらって、本当に好きなアーティストはチケット買ってライヴに行く、CDを買う、グッズを買う、そういう直接的な形で応援してもらえたら嬉しいなと僕は思います。
 
 
金曜ボイスログは毎週金曜日8時30分~午後1時にて放送。
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