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おんがくこうろん3✳︎アリー・ウィリス

星野源のおんがくこうろん 第3回目は、アリー・ウィリス
サブタイトルに、楽器を弾けないソング・ライターとなっていた。
彼女のことは、ほとんど知らない。
どういう人なのか、どんな音楽活動をしたのかetc

彼女の出身地は南部。父親は人種分離主義の人だったらしい。彼女にアフリカ系アメリカ人と触れ合わないように言ったそうだ。
そんな土壌に生まれ育った彼女は、10代の頃からモータウンというレーベル会社の近くの庭でいろんな楽器の演奏を聴いていたという。

モータウンでは、すべての楽器で演奏するのではなく、それぞれの楽器を別々に演奏していたそうで、その音をずっと聴いていたアリーは、そこでそれぞれの楽器の特性と、それぞれの楽器が持つ音色、音の個性などあらゆるものを吸収していった。とても素晴らしい音楽教育を得たといってもいいのではないだろうか。

プライベートでは、母親を無くして一年あまりで、父親はアリーの親友の母親と再婚。経緯よくわからないが、実母の写真や思い出の品などを捨てられたそうだ。決して居心地の良い家庭ではなかったことが窺える。そうした恵まれない環境の中にあって、音楽が逃避の場であり、癒しの場だったかもしれない。

ニューヨークのレコード会社に就職したアリーは、あるとき趣味で書いていた詞が社長の目に留まり、デビューすることになる。
そして、Earth,Wind and fireと出会い、Septemberを大ヒットさせることに。
この話を聞いたときに、名前が出てきたのが、スティービー・ワンダーやシュープリームといったミュージシャンたち。
個人的に大好きなのが、スティービー・ワンダーで、もう数十年前になるが、札幌で友人と喫茶店で話をしていたとき、BGMとして流れてきたのが、彼の「心の愛」だった。最初に聴いた瞬間、鳥肌が立ったことを覚えている。どんなタイトルかもわからず、フレーズを頼りに探し、「心の愛」というタイトルの曲だとわかった時は、迷わず彼のアルバムを買った。その彼とアリーが繋がっていたのだ。

Septemberの大ヒットで、一躍売れっ子、ソングライターの地位を確立する。
いろんな楽曲を合わせて、6000万枚を売り上げたと知って驚いた。世界的と言われるのも頷ける。

前回も驚いたが、今回も驚くゲストがインタビューに応じてくれた。
Earth,Wind and fireの元ギタリストのアルマッケイが当時の様子を、特別に語ってくれている。特別に、という言葉が添えられていて、この番組へのNHKさんの並々ない意気込みが伝わってくる。

面白い逸話が聞けた。
Septemberの詞もアリーが書いていて、曲の中で歌われる、バーディアというフレーズが、意味のない言葉だったことに、彼女は納得がいかず、何度も書き直しを要求したそうだ。でも結局はバーディになった。
そんなことを知らない、聴き手、ファンとしてはとてもいいフレーズ、格好良くて、響きがあって、なんでアリーはと思うけれど、彼女は言葉に意味を持たせたい人で、意味のない言葉を歌詞に取り入れることなど、あり得ないと結構、執念深く思っていたらしい。

サブタイトルの「楽器が弾けないソングライター」アリー・ウィリスのことを、MCの星野源さんは、最後に楽器が弾けないのではなく、弾かないソングライターだったと断言したけれど、そうかもしれない。

楽器が弾けることが、音楽を作る絶対条件ではないはず。実際、作曲はするけれど、楽譜が読めないミュージシャン…は、たくさんいる。
結構、有名な日本のミュージシャンの中にもそういう人は少ないないという。

大切なのは、音、音楽を身体で感じ、表現することなのかな…と思う。
そういう意味で、一番身近な楽器は自分自身の肉体ではないだろうか。
その肉体を使って声を出す、歌を歌う。
歌うためには、腹筋、背筋、横隔膜、肺、気管、声帯、口内、舌…を使わないといい声は出ない。

アリーは晩年、カラーピープルというミュージカルを手がけた。
出演者全てが、アフリカ系アメリカ人という、ある意味アメリカを象徴する作品。
彼女は、そのことを父親が亡くなる前に伝えることができたそうだ。
人種隔離主義の父親に…その時のアリーの心情を推し量ることは難しいけれど、誇らしい気持ち、音楽は人種の壁を超えられる、自分の音楽が人種を超えたのだと伝えたかったのではないだろうか。

とてもスケールの大きな人だったんだなと感じた。
自分の感覚を信じ、才能を信じ、仲間を信じて最高の音楽を作り出す存在。
まさに世界的な、楽器を弾かないソング・ライターが、アリー・ウィリスだったのだ。

次回は、日本の中村八大さん。
最終回ということが、残念でならない。


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