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市役所から国交省へ転職。ふたつの役人を経験したからわかる、違いと共通点

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国交省で建設業のDXや働き方改革を進める平山さんは、京都市役所出身。とある人との出会いが視野を広げ、官僚を目指すきっかけとなったという。”取り立て”から始まったキャリアは、時に理想とのギャップや苦しみもあった。家族を第一に大切にしながらも、「人のためになる仕事」を追い、より角度の高い成長カーブを目指してチャレンジを続ける平山さんにお話を伺った。


<プロフィール>
平山 耕吏さん
2006年大阪大学経済学部卒業。同年京都市役所入庁。京都市役所では、議会との調整、地方創生に向けた市民協働の推進、副市長の秘書官、予算編成業務等に従事する。2021年国土交通省へ転職。同年不動産・建設経済局建設業課企画専門官を経て、2023年4月より、観光庁観光地域振興課課長補佐。
※記事内容は取材当時のものです。


純粋に人のためになる仕事を思い描いて、公務員の道へ

ーご経歴を教えてください。
平成18年に新卒で、京都市役所に入りました。実家が京都でしたし、自分も中高を京都市で過ごし、思い入れがありました。家族を第一に考えていたことも、転勤のない職場選びにつながりました。入庁後最初は京都市住宅供給公社へ出向し、市営住宅の家賃徴収を担当した後市役所へ戻り、都市計画局で予算編成に6年間従事しました。キャリアの中で一番長く担当した業務です。その後議会との窓口を担う部署や市民協働の部署、副市長の秘書官、京都市全体の財政を所管する部署で予算編成などを担当しました。
令和3年に国交省に転職し、不動産建設経済局 建設業課に所属しています。法律等の制度的なアプローチから建設業の維持発展を促す部署です。今は法改正に向けた準備や働き方改革を推進するための政策を担当しています。また、建設業許可等の行政手続きを電子化するため、全ての都道府県と何十万業者の建設業者等が関わる幅広いシステムの構築などにも携わってきました。
例えば「規制緩和によって建設業の技術者配置を改善する」というようなトピックがあります。建設業は他産業と比べるとまだまだ働き方の課題がある業界です。昔は「3K」と言われてしまうようなイメージもありました。そのような状況はだいぶ解消してきたとはいえ、労働時間は他産業に比べ長いですし、技術者の休み方に関していうと、月の休みが4日以下の方が、4割も占めます。一方賃金はどうかというと、技能者、つまり建設現場で働く方々の賃金は全産業に比較して低めの位置にあります。そうするとどうしても若手の方の入職が少なくなってしまいます。20代以下の技能者の方はなんと、全体の10%強くらいしかいません。60代以上の方が全体の25%を占めていて、高齢化が進んでいる状況です。技術に応じた賃金がしっかりもらえるようにすることが、業界の活性化に繋がると考えています。

学生時代は経済学部に通っていました。世の中はいろんな要素で動いているものの、お金・経済の流れが無くしては動きません。重要な要素ですよね。実家が自営業なこともあり、経済の大切さが身に染みていたのかもしれません。
当時の論文は経済・経営・統計の3つの観点から書きたいと思っていました。3回生には「環境保全に取り組む企業は本当に市場で評価されているのか」というテーマで統計的に株価影響などを分析。4回生では「介護市場において、供給者が需要を誘発しているのではないか」というテーマで、統計を用いて情報の非対称性を利用している事業者の在り方を明らかにすることを試みました。
経済・経営に興味を持っていた一方、仕事をしていく上で根幹に据えたかったのは「自分の目の前の仕事を、人のために役立てたい」という気持ちでした。どんな企業でも社是を含めて世の中を良くすることにつながるとは思っていますが、若かりし頃の私はいろんな民間企業の話を聞く中で、「どうしても世の中より利益優先にならざるを得ない時がある」というようなニュアンスを感じてしまいました。「公務員であれば、人のためになるかどうかという判断軸で仕事ができるのではないか」と考えました。

ー実際に、「人のためになる仕事を」という理想は叶えられていたのですか。
叶えられていました。役所では理想論から話していくことができます。
予算編成をしている場面が最たるもので、税金の使い道として最大効果を生むことを提案します。「使う」ためではなく「何かを実現する」ための予算です。「その“何か“は果たして世の中のためになっているのか」「本当に地域の方の生活が良くなるのか」というように、まずは理想から考えられるということがやりがいでした。
市民協働の場面ではニーズの多様化を実感していました。現代の状況は高度経済成長期のようにわかりやすくはなく、「行政が全てを実現しよう」という時代ではありません。市民、あるいは企業や大学を含め、「みんなが自分たちでできることをちょっとずつやれたらいい方向に行くのでは」という思いで取り組んでいました。

元官僚の国際感覚、視野の広さに憧れ、霞が関へ

ー特に記憶に残っている仕事などはあるでしょうか。
市民協働の取り組みですね。多様な主体が自分たちにできることをやっていく、それを具体化させるような取り組みを自分で立ち上げ、軌道に乗せて回すところまでやれたのが楽しかったです。バリアフリー化のような福祉に関わることなど様々な案件がありましたが、特に印象的だったのは文化庁案件です。
文化庁の京都移転が決定した時期でした。元々京都には多様な方がいらっしゃいます。単に「ある組織が京都に来る」というだけで終わらせず、京都の多様性を活かした市民的なムーブメントに変えられないかと考え、華道家、お坊さん、キー局のアナウンサー、紙芝居の方などをひとつのチームとしてまとめて、発信をしていきました。「華道」「茶道」みたいな呼び方をすると敷居が高く感じますが、みんなが同じ目線で動いていけるような場面を作りたいと思っていました。文化庁が京都に来ることをきっかけに、「京都に残る何気ない日々の営みが“文化”なんだ」と気づくことで、京都の良さを再発見できるよう取り組んでいました。

秘書課にいた際には海外とのつながりを複数持つことができました。3人の副市長のうち1人が国家公務員からの出向の方であり、パリへの留学経験やフランス大使館に勤めたことのある方の秘書官となったためです。例えばパリとの姉妹都市交流60周年には、パリ市役所の中でコシノジュンコさんの着物とパリのアートを組み合わせたファッションショーを開催しました。
また国連世界観光機関(UNWTO)の会議を京都市に誘致しようという案件では、各国の大臣クラスが集まる中で外務省は課長級の方のみの参加であったため、京都市が主体的に動き、ディナーの場でアピールに動きました。結果的にその場で2年後の誘致が決まりましたが、さまざまな国際的な駆け引きをしていく中で、京都市だけではない視点を持つ重要性を学んでいきました。

ーそのような充実した中で、転職を考えられたきっかけは?
今お話しした、副市長の秘書官についたことですね。見ている視点が違ったんです。
それまでも「国を良くするために京都市が先陣を切る」というつもりではいましたが、国家公務員出身の副市長はもう少し国際的な視点を持っていました。「他の国や地域ではこういう施策があるので京都ではこうした方がいいのでは」など、視野の広さに憧れました。
ちょうどその頃自分自身の成長カーブが気になってきていたというのもあります。一つの組織の中にいて、経験すべきことをさせてもらっていましたが、成長カーブの傾きを高めていきたい、新しいステージに挑戦したいと思うようになっていました。

実は、一度転職に失敗しています。令和2年の人事院の募集で、通常の新卒と同様に公務員試験を受け、人事面接まで通りました。しかしその後の官庁訪問のために東京に来ることが困難で、受けられる場所が限られてしまい、なんとか受けられたところは通りませんでした。
翌年、部下の転職報告を受けた帰り道に、何気なく国交省のwebを開いたのです。そうしたら採用募集ページがあることに気づき、国交省が直接転職を受け付けていることを初めて知りました。その時締切の1週間前だったのですが、応募してみたところ書類審査が通りました。さらに、コロナ禍だったからか、最終面接前まで全てwebで受けることができました。web受験だと進行テンポも良いですし、時間が作りやすいので助かりました。気がついたら1ヶ月ほどで、入省が決まりました。
転職をイメージした時に無意識に国交省のページを開いたのは、心ときめくというか、国交省に素敵な人が多いと感じていたからだと思います。つまり、感覚が合う人が多いのでしょうね。「何を大事に仕事をしていくか」ということが一緒であれば、ストレスなく同じ方向を向いて働いていけるのではないかと思いました。

自分のどこが評価されたのかは正直わかりません。ただ、現場感を持っているというのが評価された一つではないでしょうか。都市計画局というまちづくりを担う部署で、運輸・交通・建築関連の予算業務を担っていましたから。また、私が合うと思ったように、向こうも人として合うと思ってくれたのも一つのポイントだったのかもしれませんね。

“役人”として求められるベーシックスキルは共通。影響力が広がるのが国家公務員の魅力

ー同じ「役人」ではありますが、市役所の仕事と国交省の仕事、1番違うと感じるのはどこですか。
やはり法令業務があることではないでしょうか。市役所でも予算編成のように直接市民と関わるわけではない部署もありますが、ルールを作る側の仕事は国ほど多くはありません。法律となると、法律案の書き方など、勉強することが山積みです。
また、国会答弁の時などのように、直接、国会議員の方への説明などは経験していませんでした。今の部署は国会議員対応が多いです。日々の「これちょっと教えて」みたいなものもありますし、国会中の答弁について「こんなことを聞こうと思う」というようなことを聞きに行ったりですとか。多い日だと、議員会館を3往復したりします。

苦労している点で言うと、人前で話す機会がすごく多くなりました。それまで内部調整業務がメインだったこともあり、すぐに緊張してしまう私は最初、とても苦労しました。今は建設業界をはじめとする企業や自治体の方々とお話しする機会が多いです。例えば、建設業の現場の方々が組織している団体が、国会議員を通じて声を上げてくださる場で説明する時など、ストレートな物言いで要望を受けることがあります。そういう際、上滑りの話をしても相手の心には響きません。こういう場面では京都市役所時代に培った感覚が役に立っていますね。結局、筋を通すことが大事。「自分の言葉で話すとちゃんと伝わる」という肌感があるんです。話すべきところはちゃんと話す、安請け合いはできないけれど、しっかり自分の耳を傾ける、という方針で取り組んでいます。今のところ、火傷はないですね。うまく喋れないことはたくさんありますけど…(笑)。
これは同僚に関してもそうです。ある意味転職による一番の苦労は職場内の人間関係がリセットされたことだったのですが、仕事で関わる方とも、一人一人ちゃんと向き合って話せば、人として繋がることができます。"ご新規さん"じゃなくなれば、味方になってくれる方が増えていき、仕事しやすい環境になっていきますよね。

思っていたより仕事内容そのものは似ていました。いわゆる議員対応、さまざまな計画を作るときの感覚みたいなものは共通しています。
見えづらいスキルですが、人との関係のつくり方や、論理立てて考え、わかりやすく伝えるというようなスキルは、役人の仕事を通してすごく培われてきたし、今も活かされていると感じます。
また、市役所出身のアドバンテージの一つは、他省庁のことを知っていることでしょうか。自治体は国交省、厚労省というような管轄で分かれた枠組みというより、人が暮らす上での全ての生活全般に関わる仕事なので、多くの省庁の分野を跨いでいます。このような多省庁の理解が生きる場面もありますね。例えば、保育園の公定価格とか、補助金制度でも介護施設の場合、交付税の場合…などを知っていると、発注工事の契約制度を考える際に参考になります。

国の仕事は影響力が大きいのが魅力です。正直、建設業界はそこまで馴染みのある業界ではありませんでした。でも運用改正などを担当した帰り道、工事現場の道案内をしている方とすれ違うと、「この方々が働きやすくなるように仕事しているんだ」と思うんです。至るところで建設工事をしていますから、「まあいいや」みたいな意思決定は絶対できないなと、気を引き締めています。

ちなみに、入省時には社会人年次と同じ年次換算でポストを決めてもらいました。真新しい仕事で緊張はしましたが、自分の近くにいる人たちはいろいろ教えてくれながら一緒に仕事してくれています。

ーこれまでとこれからのキャリアを、どう考えますか。
ここまでのキャリアを振り返ると、その時々でしんどいことはやっぱりたくさんあって。例えば社会人最初に配属された部署、市営住宅担当では、かつての差別問題に関わる住環境を整備するために建てた住宅でした。当時は家賃の滞納が何百ヶ月も続いてしまっているケースもありました。そういった家賃徴収の仕事というのは、思い描いていた公務員像とは違いました。
でもそういう仕事の中でも学べたことはたくさんありました。「自分の筋を通して喋る」ということ。その信念は、予算編成業務でも、秘書官業務でも変わらず、今に繋がってきているんだなと、ここにきてまた感じています。その時々では色々思うことがあったとしても、「何かに繋がってるんだな」と思うことが大事なのかもしれません
15年前、こんなところで働くことになるなんて思ってもいませんでした。私の基礎になる部分は家族ですから、子供が大きくなったり、妻のキャリアに変化が訪れるようなタイミングで、その時々で家族にとっていい形になる働き方を選べたらと思います。そしてその時に、やってきたことの積み上げ、やりがい、そして成長カーブを含めて、1番やりたいことにチャレンジしていきたいと思っています。


【編・写:大屋佳世子】


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