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元 総務省官僚がパブリックアフェアーズ コンサルに転職。 技術革新の社会実装を推進するその仕事とは?

パブリックアフェアーズを生業とするコンサルタントの横山さんは、一貫して”日本の再興”を志してきた。新卒で入省した総務省では国と自治体のDXに携わり、2022年マカイラへ転職。「新しい技術革新が社会実装されるためには、ルールの変更が必要。霞が関の外からのルールメイキングの動きが必要なんです」横山さんのお話を聞いていると、元国家公務員の新しい霞が関との関わり方が見えてきた。

<プロフィール>
横山啓さん
大学卒業後、総務省に入省し、政府の情報システム改革、マイナンバー制度、税制改正などに携わる。岡山県庁と三重県庁に出向した経験もあり、三重県庁ではDX推進の責任者を務めた。今後益々技術革新のスピードが上がるなかで、イノベーションが確実に社会に根付いていくための支援をしたいと考え、2022年からパブリックアフェアーズのコンサルティングを行うマカイラ株式会社に参画。スタートアップをはじめとした企業に対する幅広い相談に対応するとともに、自動配送ロボットの業界団体である一般社団法人ロボットデリバリー協会の事務局長も務める。



イノベーションの推進には、法改正のためのルール形成が必要

ー”パブリックアフェアーズ”というのは聞きなれない仕事です。マカイラはどのような会社なのですか。
マカイラはPA(パブリックアフェアーズ)のコンサルティングファームです。幅広く社内外と関係性を作る「PR(パブリックリレーションズ)」や、政府機関との関係構築を行う「GR(ガバメントリレーションズ)」については聞いたことがある方も多いかと思いますが、PAはその中間です。政府や行政機関だけでなく、政策立案に関わるステークホルダーをトータルでうまくコーディネートし、合意形成して進めていくことを指します。このPAは、日本を新しいイノベーションが生まれていく社会に変えていくために、必要不可欠な仕事だと思っています。

なぜか。これまでにない技術を活用した製品やビジネスを実用化するためには、まずルールを整える必要があるからです。電動キックボードが公道を走れるようになったことが記憶に新しいかと思いますが、電動キックボードが公道で走行するためには、最終的には法律改正が必要でした。市場戦略と並行して、外部環境へのアプローチを考える非市場戦略を立案し、省庁や政治家などと一緒に、新しいルールを作るところから取り組む必要がある事例が増えてきています。
法律が改正されるためには、まず改正に向けた機運の高まりが必要で、その後具体的な条文の検討や、国会審議という流れを踏みます。PAは、法改正に向けた機運の高まりにアプローチできる仕事です。法律を作り、決めることは霞が関や国会の仕事ですが、業界団体から声を上げるなど、機運作りをしっかりとやることで、国や政治が動いていきます。これからスタートアップ業界が盛り上がるほど、PAの需要は増えていくでしょう。
ちなみに、ここでは法律の例でお話しましたが、通達などのレベルでも同じような働きかけが必要になります。

画像:マカイラ株式会社ご提供

ーそのようなお仕事に辿り着くまでの変遷を教えてください。
新卒で総務省に入り、政府の情報システム改革、マイナンバー制度の立ち上げ、税制改正などを担当しました。岡山県や三重県への出向も経験し、三重県ではDX推進の責任者を勤めるなどして、マカイラに入ったのは2022年の4月です。

国家公務員になることは、大学入学時から念頭にありました。就活していた2010年当時考えていたのは、「日本を再び世界から注目されるような国にしたい」ということです。既に日本は経済的にも下り坂の様相を呈していましたが、あまりに勿体ない、もっと日本を盛り上げたいという想いがあり、さまざまな社会課題にダイレクトにアプローチできる場所として総務省を目指しました。総務省では、さまざまな行政分野を横串で見られることと、最初から自治体への出向がキャリアに組み込まれていることを魅力的に感じました。自治体出向時には、地域の課題を見ることができます。他省庁では自治体への出向は人事上の運ですが、総務省の場合は、ある程度はじめから人事異動に組み込まれています。

かつて世界から注目されていたのに停滞してしまった日本。 "イノベーションが定着していく社会"を実現する必要性を感じた

ー「日本を盛り上げたい」と思うようになったのはなぜなのですか。
原体験になるかわからないですが、高校生の時にサマースクールで海外に行った時に、途上国からの参加者が「日本はすごい国だよな!」と話しかけてくれたんです。「日本って、そんなに世界からすごい国だと見られているのか」と驚きましたが、その後大学生活を過ごす中で日本は落ち込んでいるという情報が入るようになり、「一度世界から注目されたのに、過去の国になっていってしまうのは勿体ないな」と思うようになっていきました。

大学では、地域でフィールドワークをするゼミに所属していました。例えば、夜間学校では、外国籍の子どもが日本語ができない中一所懸命勉強している様子を目にしました。それまで社会のいいところばかりを見て生きていたので、世の中いろんな課題があるなと、ゼミの活動を通して気づきました。一方で、批判ばかりしている人間にはなりたくなかったので、自分自身がちょっとでもいいので直接社会課題に取り組むことがしたいと思いました。そのフィールドは、昨今は省庁だけでなく企業にもありますが、当時は公共部門を目指していました。

ー総務省ではどのようなお仕事をされていたのですか。
各省庁のシステムをまとめる「政府共通プラットフォーム」を作るプロジェクトやマイナンバー制度の立ち上げ、税制改正などに携わりました。
情報システムに関しては、最初はITの基礎知識もない状態だったので戸惑いはありましたね。でもやってみると結構面白くて。振り返ると、その後マイナンバーを担当し、さらに三重県では情報システムの担当課長をさせてもらったので、繋がってますよね。自分で意図したわけではないですが、全部結局役に立っていて、線が一本通った感覚です
税制改正の仕事は、税を変えるという大きなイベントがどういう風に進んでいくのか、その一端を担えたのが面白かったです。その後、2年間フランスに留学して地方自治や都市、EUの問題を勉強しました。   

ー特に印象に残っている仕事はありますか?
2018年から22年にかけて、三重県に出向していた時には、大きな裁量を持たせていただきました。DX推進組織の初代課長として、取り組むべきことも特に定まっていない状況でしたが、30人くらいの部下と一緒に、自分たちで考えて政策立案していきました。30代前半でこういった経験をさせていただけたのはありがたかったですね。
DXの仕事をやっていて感じたのは、「今後は新しいイノベーションがたくさん出てくるが、イノベーションが世の中に定着していく社会とそうじゃない社会に分かれるだろうな」ということです。日本はどうしても新しいものが苦手で、安全かどうかといった議論が先に出てしまいます。それも大事なのですが、慎重すぎる姿勢を乗り越えないと、うまくイノベーションが実装され、発展していく社会にならないんじゃないかと思いました。「イノベーションの社会実装」を考えるようになったことが、今に繋がっています。

ー転職を意識するようになった時期やきっかけを教えてください。
一つは、コロナ禍を通して自分の価値観が大きく変わったことです。誰にも正解がよくわからない状況に直面して、「自分で考えて、自分が正しいと思うことをやらないとダメだ」という気持ちが強くなりました。テレワークをしながら家族と何気なく過ごしている時間の大切さも感じましたし、「自分のキャリア選択に自分で責任を持つ時代になった」とも思いました。大きな組織にいると、自分の想いとは違うところで配属が決まることも多く、それが繰り返されると思考停止してしまう。「それは何か違うな」と思うようになりました。
三重県でDXという新しい分野を担当している時期でもあったので、このタイミングで新しいフィールドに行ってみるのもありかなと考え、本当に転職するかどうかは別として、とりあえずどういう行き先がありえるのか、探すところまではやってみることにしました。自身が大事にしたいと思っていたのは”継続性”です。官僚として10年やったので、その経験が次に活きるところにしたいと思いました。私の場合は、これまでやってきたことを評価してもらって、「ぜひ一緒にやろうよ!」と言ってもらえるところを探していました。
マカイラは、以前から存在自体は知っていましたので、自分からコンタクトして、色々話を聞いているうちに関心が高まりました。
先にお話ししたように、さまざまなところに幅広くアプローチして、初めてイノベーションが社会に定着します。PAは、自分が感じていた問題意識にまさにアプローチできる手段だと思いました。そしてPAを専門としている会社は、日本ではあまり数がなく、「PAを生業とするならマカイラ一択だよな」という感じでした。

ー転職する際に、どのような部分が評価されたと感じましたか。
PAコンサルタントの仕事には、大きく二つの要素があるのではないかと思います。一つはコンサルタントとしての基礎力。クライアント理解、期待値コントロール、説明力、資料作成力などです。もう一方で特徴的なのは、政治・行政の分野を扱うことです。政治・行政の分野で具体的にどう意思決定がされていくかなど、中で働いていないと絶対にわからない部分があります。コンサルタントとしての素養、政治・行政の現場の素養、少なくともどちらかは絶対に必要な仕事ではないかと感じています。自分の場合は、10年間中央省庁や自治体でやっていたことがうまくマッチしたのかなと思います。
転職先にもよるかもしれませんが、民間企業と省庁で仕事の基礎として必要なスキルはそれほど変わらないのではないかと思います。「何かを説明する際はポイントを絞って端的に」とか、要点を捉えた資料を作るなど、共通して必要とされるスキルが多いはずです。例えば、企業で役員が話すための原稿を作ることがありますが、省庁でも同じことはあります。「公務員のスキルは潰しが効かない」と言う方もいますが、実は全然無駄にならないと感じています

利害調整や複数分野の知識習得が求められるPAは、国家公務員の経験が活かしやすい仕事

ーマカイラでのお仕事を教えてください。
肩書きは、シニアコンサルタントです。プロジェクトの責任者を担うものが多いですが、7つほどの案件を並行して担当しています。業界団体の事務局業務、スタートアップから外資企業まで多種多様なクライアントの政策渉外部門のお手伝いや、地方自治体との連携など、案件はさまざまです。
このほか、PAという概念自体や会社の情報発信も担っています。具体的には、講演やセミナーなどで、発信機会を主体的に増やす活動をしています。特にスタートアップのコミュニティでは、潜在的なPAの需要がすごくあるのに、まだ知られていません。ある時急に法律や規制のことを考え始めると遅いので、もっと広く知ってもらうことを目指しています。

ー業界団体の事務局というのはどのような業務なのですか。
「一般社団法人ロボットデリバリー協会」という、自動配送ロボットの業界団体の事務局長を務めています。2023年の4月に道路交通法が改正され、自動配送ロボットの一部の類型が公道を走れるようになりました。これまでは、実証実験として特例的に公道を走っていた自動配送ロボットですが、いよいよ公道での社会実装のフェーズに入っています。
事務局業務としては、一般的な業界団体とそこまで違わないと思いますが、課題の共有や、官公庁との連携などを行っています。利害関係者が多いためうまくまとめる必要がありますが、このような調整業務は官僚時代にやっていたことに近いですね。

ー多数の未知の業界について、同時並行で知識を増やさないといけないのではないでしょうか。どうやって対処しているのですか?
その通りで、過去に全く関与してこなかった分野に急速にキャッチアップしなければいけないことは多々あります。都度都度、その業界のことを勉強していくしかありませんので、これまで接点のなかった法律の本を読むこともあります。官僚時代には、「異動したら1-3ヶ月くらいで新しい分野の知識をものにしないと」みたいな感覚がありました。とにかく早く大枠を掴んで、業務を進めながら吸収を続けるといった、未知の分野に対応できる学習能力みたいなものも、官僚として培われたスキルなのかもしれないですね。

ー転職してみて、やりがいや働き方の変化はどうでしょうか。
PAを通じて日本の発展に微力ながら貢献できているのかなと思います。仕事の細かい中身は違えど、官僚としてやってきた利害調整などの経験を別の形で活かせ、それが新しい業界の発展に繋がっていることにやりがいを感じます
働き方もポジティブな方向に変わりました。三重県ではテレワーク担当課長も務めたため、もっと裁量労働的な働き方や、オフィス滞在時間が固定されない、自分の時間とのバランスが取れる勤務体系はないだろうかと常に考えていました。今、自分自身がそのような働き方ができ、家庭との両立がしやすくなったのは、転職してよかったことの一つですね。

ー今後のご自身のキャリアをどう見据えますか。
自分のキャリアは自分で決める時代です。終身雇用が維持される勤務先はかなり限定されてきています。「自分は何が得意か、何が欠けているのか」といったことを考え、模索し続けた結果として、今の自分があると思っています。
「総務省のキャリアを捨ててしまって本当によかったのか」と言われることがありますが、個人的には「捨てた」という感覚はありません。当時の同僚たちとは今でも情報交換などをして繋がっていますし、育ててもらった感謝もあるので恩返ししていきたいです。
何より、今のPAの仕事も、引き続きフィールドは霞が関や永田町です。PAを、自分のキャリアの柱としてこれからもっと磨いていくつもりです。

さまざまなイノベーションが生まれてくる今、PAが社会課題解決の突破口になることは多いでしょう。日本は閉塞感が漂っていますが、まだまだ打破していくことも可能だと信じています。世の中の課題解決をしながら、それに合うルールメイキングをしていきたいですね。

PAは公務員の方の転職先としてすごくおすすめできる分野です。ご興味を持っていただける方がいらっしゃれば、ぜひ情報収集に一歩踏み出してみていただけたらと思います。

【編・写:大屋佳世子】


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