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育児とキャリアの両立に悩んだ総務省キャリア官僚が選んだのはヘルステックベンチャーへの転職だった

ヘルステックベンチャーのUbieで政策渉外をリードする三浦さんは、新卒で総務省に入省。転職を考えたきっかけは育休明けに「仕事をそこそこに子ども中心の生活をとるか、激務に身を投じるか」の二択を迫られた気持ちになったからだったという。現在は「家庭も仕事もプライベートも、全て大事にすることができている」という三浦さんの、キャリア選択の視点を追った。

<プロフィール>
三浦 萌さん
2010(H22)年総務省入省。主に情報通信分野の政策立案、法改正、予算事業等に携わり、産休育休を経て2021年9月に退職。同10月にUbie株式会社に入社し、以降パブリックアフェアーズ担当として官公庁や自治体をはじめとする公的ステークホルダーとの連携を担う。趣味は息子と遊ぶこと、お酒、スポーツ観戦、サウナなど。




「脳みそをグリグリいじられているよう」。新しい面白さを感じた民間企業の面接

ー総務省から民間企業への転職を考えた経緯を教えてください。
「人の生活に直結していることを実感しながら働きたい」という気持ちや、「プロダクトや事業に関わってみたい」という気持ちは、実は以前からありました。
本格的に転職を検討したのは育休中です。中央官庁で働いていると、当日にならないとその日の忙しさがわからないことがあります。予めわかっていれば一定対応できることでも、18:15退勤の日の18:00に「待機です」「今すぐ議員会館です」と言われてしまうようなことがありました。今はそういったこともかなり改善されてきていると聞きますが、当時の自分としては、この先公務員として生きていくには避けがたいという認識でした。
子育てには、当日のお迎えに予定どおり行けないというのはクリティカルですよね。子どもに手のかかる10年間と、仕事的に最も忙しくおもしろみもあるだろう30代の時期を、自分で納得感をもってやりきれる自信が持てませんでした。それが転職を本気で検討した一番のターニングポイントです。
とはいえ省庁側も配慮してくれていました。育休明けには、国会対応のない研究的な業務を扱う部署に配属してもらえました。ただ、私自身に関しては、そういった部署の業務に向いていないなという気持ちもありました。。物事の渦中で「ワーッ」と動きたい、大変でもいいので人の生活に直結するような仕事にモチベーションを感じるところもあって。どうしても、省庁にいると自分のやりたいことと暮らしたい生活スタイルが合わないと思いました。極端にいえば、マミートラックか、激務かの二択だと感じてしまいました。自分で新しい働き方を切り開ければよかったのですが、そこまでの気力・胆力は正直ありませんでした。

ーどのように転職活動を進めたのでしょうか。
まずは大手のスカウトサイトに登録しました。Ubieもそこで募集を知り、カジュアル面談から選考に乗りました。他には知り合いからのリファラルで受けていた会社などもあります。
スカウトサイトでは、フルフレックスとリモート勤務が可能なところでフィルタリングして調べ、働き方の自由度の高そうな外資系かベンチャーに絞っていました。選択軸としては、公共系の仕事が嫌になったわけではないので「政策に関わりながらできれば事業にも少し関われるようなところがいいな」というような感じで業務内容を見ていました。Ubieはそんな検索にたまたま引っかかったのですが、最初は「こんなに美味しいJob Description出してるけど知らない会社だなあ、大丈夫かなあ」くらいの印象でした(笑)。
Ubieの選考は、思考回路を掘ってくるような面接だったんです。脳みそをゴリゴリいじられているような感覚というか。面接官も非常に頭が良くて、すごい体験でした。終わった後、ヘロヘロになって、正直「落ちたかな…」と思いました。それが刺激的で、面白かったんです。

ープロダクトに関わりたいという気持ちが昔からあったとのことですが、新卒でも事業会社への就職を並行して考えたのでしょうか。
新卒当時は国全体を刺激できる仕事が自分の志向や性分にあっていると思っていました。企業活動の解像度が低かったというのもあるかもしれません。学生時代、もともと国際政治のゼミに入っていて、外交官を目指すために国家公務員試験を受けました。試験に受かると第3希望まで官庁訪問ができます。その際、外務省、総務省、環境省を希望しました。最後、当初からの希望だった外務省と迷ったのですが、「これから伸びるデジタルというツールを持っていると、グローバルもローカルも、いろんな視点で物事を見られるのでは」と思い、総務省が第一志望になっていきました。「伸びている分野に関わるのは楽しい」「マイナスを埋めることも大切だけども、今後のプラスを伸ばすことに貢献したい」という気持ちもありました。私が大学生の当時にみんなiphoneを持つようになり、ICTがまさに普及していく時期だったので、国の経済成長にインパクトを持たせられる仕事にワクワクしていました。
総務省入省後はテレコム分野を担当していました。一年目の最後に大震災が起こり、その年の秋からは内閣府の防災担当に異動していた時期もありましたね。総務省では、通信関連の戦略の取りまとめや、携帯電話料金値下げ、自治体向けICT予算策定、個人情報保護・通信の秘密など本当に幅広く携わらせてもらいました。

入省当初、同期たちと

「役所にいては関われない現場がある」という考えが具体的になったのは、東日本大震災です。当時私はICT部門の取りまとめ担当の部署にいましたが、直接的に震災後の対応に当たれる状況でないことに無力感を覚えました。その後、災害対応の人手不足もあって内閣府の防災担当に出向の機会があったのですが、今度は官僚だからこそ貢献できる仕事に触れることができました。この法律を変えることによって、どれくらいの人が災害時に助かる確率が上がるのか。防災計画を作って避難訓練をしておくことで、みんなのいざという時の行動パターンが決まります。当時、過去には津波の想定があまり十分ではなかったので、国が信頼性あるデータに基づいて想定を出すことで住むべき場所、避難の仕方の指標を出すことが求められるなど、「人の生活を守るというのが役所の仕事の根幹だ」と実感する機会が多くありました。その経験を通して公務員としての自覚、人の生活の基盤を守るという意識が強まっていったと思います。その後のキャリアも「どれくらい人の役に立つんだろう」「一番人の役に立てる方法は何か」を考えるようになっていきましたね。

こうしたことを色々と考えながら仕事や経験を積んできたときに、役所は「国」という基盤を支える立場でとても大切な一方、実際に世の中の人々にサービスや便益を直接届けるのは企業活動だ、ということも感じるようになりました。端的に言えば手触り感が欲しくなってきたのかなという気もします。

「このサービスのおかげで助かった」声が届いてくる 現場との距離感の近さが魅力

ーUbieへの転職を決めた理由は
医療という、誰もが関わる広い分野に関われること。そしてアプローチの仕方も、「取れる面が広い」と思いました。Ubieは、人が不調を感じた時に医療へ繋げるサービスです。人を救いやすいタイミングである病気が悪化する前の段階にデジタルでアプローチするのはいいサービスだなと思いました。
入社を決める前に社長とも話す機会があり、課題認識や必要性をわかりやすく語ってくれたこともあって、ビジョンに非常に共感しました。
前提として日本の医療レベルはとても高く、早期に医療機関を受診すれば助かる可能性が高いんです。発症後すぐに行くのか、一年後に行くのかでできることは全く変わることも多いと聞きます。病気の入口の段階で人を救えるサービスを広げていくという仕事は、自分の「人の役に立ちたい」「面で貢献したい」「デジタルを使って社会をよくしたい」という考えと非常に合致していました。
あとは単純に、選考中にあった社員の人たち(いまや同僚たち)が本当に頭がよくて面白くて、、会っていてすごくワクワクしたんです。
中央官庁からの転職は私が一人目でしたが、実はその後四人入ってきています。政策渉外だけでなく、事業開発のオペレーションをやっている人もいますね。役人のスキルは意外と汎用的と評価されています。他の企業では何かしらの企業内での経験年数を必要とされたり、元役人は公共系部署以外では雇う枠がなかなかないところもあるみたいですが、Ubieでは役人の「なんとかする」力やロジを組む力が事業開発のオペレーションにも活かされています

ー事業会社から政策に関わる立場ならではのやりがい、みたいなものはありますか
今やっている仕事のメインはパブリック・アフェアーズです。自治体案件の開拓、規制改革系の要望や、業界団体のワーキングのリーダーなど、いわゆる政策渉外の領域をメインで担当しています。
制度改正は役所にいないとできない意義ある仕事ですが、最後はどうしても「あとは事業者さんが頑張ってね」となりがちです。事業会社にいる今は、直接制度改正に関わることはできませんが、肌感覚を持って具体的に「どんないいことがあるのか。誰の役に立てるのか」ということをデータを以って話せます。信念を持って制度改革に望むことができ、自分には向いていると感じています。
現場の距離が近いというのは口コミでも感じます。「当社のプロダクト経由で人が助かった」というような話が、TwitterやApp Storeのコメントで日々いただけるんです。「病院に行くか迷ったけど、アプリで得た情報をもとに病院に行ったらすぐ検査入院になった。使ってよかった」ですとか。身近な取引先の方でも、「親族に不安な症状があった際、家族は一晩寝たら治るでしょうという温度感だったが、念の為ユビーで調べて病院に行ったら大事だった」なんてお話を聞いたりするんです。うちのプロダクトがあってよかった!というような話が、結構な頻度で入ってくるんですね。まだまだ医療分野のデジタル化は進んでいないですが、デジタルを使って人の命が助かるという分野はたくさんあると思います。「環境整備において、どこが障害点になってるんだっけ?」「こういうサービスが伸びるためには何をしたらいいんだっけ?」そう考えられるのが一番面白いところですね。

会社のイベントにて、コーポレートメンバーと

ー民間企業、それもベンチャーへの転職。ご自身に変化はありましたか?
転職したことで世界が広くなりました。役所で出会う人の多くは、自分と同じような役所の人か、大企業の政策渉外のそれなりの地位の方、ということが多かったです。本当にごく一部の層と関わっている、少し偏った世界だったなと今となっては思います。役所に10年もいると、ともすると自分はちょっと仕事できるかも、色々知っているかも、という感覚になってしまいますが、外に出てみて全然違ったなと思います
転職直後は葛藤や、一時的に自己肯定感が下がった時期もありました。主に自分の能力面において、ギャップを感じたというか、「こういう組織でちゃんとバリューを発揮できるのかな」「どうやって頑張ろうかな」という悩みがあったんです。周囲がすごく優秀だからこその悩みでした。ただ、カルチャーとして率直さを大切にしているところや、わからないところは聞いてOKという雰囲気があり、「助けて〜」と言っているうちになんとなく馴染んでいった気がします。
それと、役所にいた時よりも自分で勉強するようになりました。役所は自分自身のキャリアが長くノウハウが蓄積していたことと、1~2年で異動することもあり、とりあえず前任者からの引き継ぎの業務などをこなして時間が過ぎていってしまう感覚がありました。今、Ubieでは自分自身がスキルをあげていかないと貢献できない、と思うようになりました。できないことが多すぎて、勉強しなきゃ!と思うんです。

仕事も育児もプライベートも。もうちょっと欲張りに生きてもいい

ー例えばどんな勉強をされているのですか?子育てとお仕事だけでも両立が大変そうです。
まずは医療分野のことを全然知らなかったので、医療経営士の資格を取りました。個人情報のリーガルサポートに入った際には個人情報保護士、それからITパスポートなどでシステム周りを勉強しましたね。
勉強時間の確保に関しては、夫に感謝しています。コロナ禍ではずっと二人とも家にいる状態で、仕事も家でしていました。完全に家事や育児が分担でき、どちらかがいれば回る状態ができたのはラッキーでしたね。お互いに、勉強したい時は「ちょっと2時間カフェに行ってきていい?」とか、仕事したい時には寝かしつけを交代するとか、子どもがYouTubeを見ている間にちょっと作業したりとか……時間の捻出に工夫は必要ですが、自分が必要だと思って自主的にやっていることなので、苦ではありません。

ーこれからのキャリアについて考えている人たちに、メッセージはありますか?
私が転職した大きな理由は、「仕事も育児もプライベートも納得いくように生きたい」ということです。仕事か、育児か、という2択ではなく、「世の中には、そういう選択肢も存在するんじゃない?」と思ったんです。もうちょっと欲張りに生きてもいいんじゃないかと
私はたまたまやりたかったことや生活ペースを理由に転職しましたが、役所に最初に入ったことは全く後悔していなくて、だからこそ今できることがたくさんあります。いい経験をたくさん積めて、いい人たちの中で働けたことに感謝しています。役所って、頑張って入って、仕事も意義があって、枝葉の諸々でしんどいこと、大変なことはたくさんあるけども、仕事自体が嫌いという人はあまりいないんじゃないかと思うんです。役所でしかできないことも、企業でしかできないこともあるので、気軽に話を聞いてみるなどして、自分自身の納得感を探りながら選択肢を広げてみたらいいんじゃないかと思います。
私自身はいますごく幸せに働けていて、今後のことはわからないけど、今はこのポジションで頑張ろうという気持ちです。


【編・写:大屋佳世子】


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YouTubeでもキャリアインタビューを公開しています。
総務省出身、株式会社ディー・エヌ・エー取締役の大井潤さんにお聞きしました。


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