見出し画像

ガツンと、みかんシェアオフィス



「で、なんでいんの」
「仕事したいんだよね」
「小学生に仕事はねぇなあ」

 使わなくなった教室を、パーテーションで区切ったシェアオフィスは、冷暖房完備水光熱費込みでかなり安い。
 学校になんていい思い出ないが、自宅での仕事も限界を感じて応募、精神鑑定やらなんやらしたが、合格。まあオレの精神は正常だったって事ね。本人が信じてないけど。
 で、ガキが何故か懐いてる。

 格安の代償にちょっとした学校貢献をせにゃならんので、職業体験をしたり、
暇な時に雑談したり、偽善の仮面をかぶってるって訳で。
 子供相手つうのも正直めんどい。

「なんで仕事したんよ」
「一人暮らししたい」

「そっかー」
 タバコ吸いてえ、学校は完全禁煙である。

「なんか食う?」
「生徒に食べ物や飲み物をあげるのは禁止でしょ」
「優等生、チクる?」

 優等生は、嫌そうに鼻にシワをつくって一瞬で真顔に戻した。
「誰にも言わない」
「言ってもいいのよ言いたかったら」
パーテーションで区切ってるだけよ、周りの人にも聞こえてるって。先生にチクってもいいけど、この年で先生に、怒られるってのも悪くない。

「おじさん変な大人だね」

立ち上がると、反発でギイと椅子を鳴る。夕方が優等生の顔をオレンジにした。うんガツンと、ミカンだな。

「ガツンと、みかん食べる人ー」

はいはい、食べると、みんなが手をあげる。大体ココの奴らアイス食うかって聞いていらないって事はない。

「で、優等生どうする?」

「…食べる」

「げ、一個たんねえわー、じゃあオレチョコミントにしよ」
「あ、ずるーい、私もチョコミントー」
「じゃ、俺ハーゲンダッツ」
「じゃ、オレ ラーメン」
「5個あるんだ!みんなオレ以外はガツンと、みかん!異論あんなら自分で買え!あとラーメンは自分で作れ!」
「学校の教室でカップ麺って背徳だよなぁ」
と、のしのしが水を汲みに出てった。のしのし、なんでアイツのしのしってあだ名になったんだっけ、本名なんだっけ。まあのしのししてるからいいか。

「じゃあ私コーヒー淹れるわー」
「え、ガツンとみかんにコーヒー?!」

 シェアしてる5人、キャスター椅子をずりながら輪になった。
 かと思ったら、椅子をぶつけ合って遊んでやが‥何すんだこんやろ!

「みんな変、大人じゃない」
「優等生は大人周りにあんまいないのか」
「いないね、親戚もいないし。父母も友達とかいないし」
「そっか
 大人って子供より自由で結構面白いもんよ」

「みんな、子供がいいって言うじゃん」
「ありゃ嘘だね、子供に早く大人になられちゃ大人が困んだよ」
「え?」
「そうだよねー 子供の頃、親とか、子供はいいよねー、とか言ってたけど、アレって自分の子供の頃がよかっただけで、私の子供時代なんてほんと闇、漆黒、マジ戻りたくない」

「子供に戻りたくないの?」

「うーん僕はフィギュア買えないしなぁ、まず子供になっても勉強しなきゃいけないし」

「え?一生勉強って言うじゃん」
「まー勉強つうか仕事だな、でも実学だったり、やりたい事、必要な事だったりわかりやすく役たつ事だから」
「あの意味蒙昧とした勉強とは違うわなー」
「二度と数学なんてしたくねー、エクセル様にお願いするわー」
「イザとなれば金で解決!」

「だから優等生が仕事したいってのわかるぜ」
「盗み聞っていうかー、筒抜けだったけどさー、仕事したって一人暮らしできるとはかぎらなくね?」

「社会に出たらこんなんじゃ通用しないって…1番とんなきゃって」
「あ、毒ー毒っぽーい」
「おいおい、一応親だぜー」
「ハッパかけてもねえ、かけ方も適正もあっからなあ」

「東大出たってホームレスやってる奴もいんだぜー、何して稼ぐか、何ができるか、何をできるようになるかだって」

「じゃあどうすればいいんだよ頑張ってるんだよ」

「諦めろ世の中、運だ」
「うわー無責任にも程がある!」
「まあ、努力は大事だよ、うん」
「努力の方向音痴もいるけどねー」

「おまえら、よくもまあ、酒も入ってねえのに好き勝手小学生相手に」
「「大人気ない」」
「大人じゃありませんもーん、体は大人心は子供、その実態はワーキングプアでーーす」

「優等生、この中に4大出てる高学歴がいます。さあ誰でしょう」

「え!?いるの?」

「ひどーい」「ひでーー」「俺たちいい大人」

「わかんないっしょ、まあそんなもんよ。あと学歴でマウントとってくる奴に、経験上今んとこマトモな奴いないし、学歴で使えるって思う奴も基本節穴」

「勉強できると、仕事ができるって別よー別」
「まあ頭いい奴はサラリとやってのけるやつ多いけどな」
「それな」

「じゃあいったいどうすればいいんだよぉ」

「しらん」「自分のやりたい事やれ」「親に立ち向かえ」「周りを気にすんな」
「自分で決めろ」


「優等生、何やりたいんだ?」


「わかんない」

「じゃあ勉強しとけ、ありゃ脳の体操だから。
 体操だけしかできないと困るけど体操もできない奴がマラソンできないって思う人間多いし。役に立つ時もある」

「がつんとミカンとコーヒー意外に合う」

「家に帰りたくないんだよ」

「俺もこどもの頃そーだったわー、今実家落ち着くけど」
「私は今逆かなー帰るとうるさくて」

「死ななきゃ大人になれっから、親にかまし方教えてやろうか?」
「面倒おこさないでよー」

「そういうの狙ってるんじゃないの?このプログラム」
「実際自殺率下がってるとか、不登校率下がってるとかバカが増えてるとか」

「今のこどもはキッチリしすぎ、あと毒なさすぎ!」
「それ関係ないじゃん」

「で、君は小学生だけど仕事したいんだっけ?」

「うん」

「一番若くてできる仕事で、学校で斡旋できるってったらねえ」
みんあ顔を見合わせる、あの人しかいないよなあ。

「15歳くらいから就職できるのは棟梁んとこくらいかなあ」

「あ、肉体労働は結構です」

今の子っぽーい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?