見出し画像

家族と将棋の思い出

先日おばあちゃんが亡くなった。僕は母と父が早くからいなかったので、僕にとって家族といえばおばあちゃんのことだった。だから僕が将棋の自慢をする相手はいつもおばあちゃんだった。

将棋を始めたのは、受験勉強シーズンだった。勉強は面倒だったし、机に向かって勉強してるフリを出来る将棋は丁度良かった。夏休みの受験補習をサボって、図書館で棋書を読んでたことも何回かある。
実は学校から連絡があって、サボってたことはばれてたらしい。そのことをおばあちゃんから聞いたのは何年も後になってからだった。僕が行きたくないなら、行かなくていいと思っていたらしい。

始めて大会に出たのは将棋を始めて三か月くらいの時だった。小学生にボコボコにされたが、おじちゃんに一発入って全身の毛が逆立ったのを覚えている。帰っておばあちゃんに自慢した。

一人暮らしを始めてからは、盆正月に帰った時にたまに地元の大会に出ていた。帰りが遅い程勝ち残ってるということだから、昼を過ぎても連絡がないと期待してたらしい。うちの地元の大会は景品が豪華だったので、貰った賞状と一緒におばあちゃんに「やるよ」ってかっこつけて渡していた。でも少し詳しいことを聞かれたらニヤニヤしてたと思う。クールは気取っているだけだった。もらったのはフルーツゼリー、カルピス、タオル、野菜のジュースだかなにか。

一度ローカル新聞社がやってる大会で優勝したことがあった。その大会はトロフィーがもらえる大会だった。持って帰ったら喜ばれると思って狙っていた。決勝の将棋は今でも覚えていて、40手くらいで勝った。ラクショーだった。実家の寝室にはトロフィーがケースに入れて飾られることになった。賞状もトロフィーも、全部飾られてた。あと新聞の切り抜き、すみっこに俺の顔が小さく載ってる大会記事。

おばあちゃんは将棋を知らない。羽生さんと藤井君、あとうちの孫が強いってことくらいしか知らなかった。ここ最近は大会から足が遠のいていた。自信がないからだ。また出てみたいなという気になった。小さいトロフィーでも持って、地元に帰って、おばあちゃんと二人で行った喫茶店でコーヒーを飲みたい。これから一緒にいてくれる奥さんと一緒に。

将棋は辛いことが多いけれど、思い返してみるとかわいい思い出の方が多い。僕は恵まれているからだと思う。おばあちゃんにニヤニヤしながら報告できるような将棋を指せればいいなと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?