見出し画像

数字で決まらない"いい社員"の基準とは? 変化する企業で経営者が示すべき方向性

ここ数回のnoteでは、顧客のマインドが、旧来の価格や機能、損得で商品やサービス、企業を選ぶ"機能的価値"から、商品やサービスによって得られる体験や社会への貢献を含めた"情緒的価値"に代わりつつあり、情緒的価値を高めることこそが、これからの企業が"違い"をつくり出し、一歩抜け出せる方法ではないかということをお話してきました。

「お得」「便利」「有名」でだけでは新規顧客が獲得できない時代に

価格や機能は大切でしょう? という人も、「たくさんつくってコストを下げ、必要以上に買い、消費する」という大量生産、大量消費の時代は終わりを告げ、必要な物を必要だけ、吟味して選ぶ人が増えている「社会全体の傾向」については、感じるものがあるのではないでしょうか?

主に欧米のZ世代を中心に世界的規模で顧客、消費者のマインドが急激に変化している現在、どんな企業も新規顧客の獲得については、そのやり方を見直すべき時が来ています。

単にテレビCMを打っておけば送客とブランディングができるという時代はとっくに終わっていますが、主戦場をネットに移しただけのリスティングやWEBマーケティングも、新しいマインドを備えた本当の意味での新規顧客を獲得する決定打とはいえません。

デジタルネイティブにこそアナログを

機能でも価格でもなく、知名度という名のブランドでもない。もちろんそれらを加味した上で、環境負荷、社会的なインパクトや製品や企業の物語性に「買う理由」を見出す新たな顧客は、即時性や比較性、情報性に優れたデジタルマーケティングに当たり前に触れてきた"デジタルネイティブ"世代でもあります。

だからこそ、デジタルではなく、アナログな部分が響くのではないか?

私がインテリアショップで受けた思わぬサービス

に心動かされたように、誰にも同じ接遇で、もしかしたらAIの方が優れているデジタルな接客体験よりも、アナログもアナログな「人間」を感じられる接遇にこそチャンスがある。

実は私も鑑定士としてお客さまと接していたときに、超アナログな対応がかえっていい結果を生んだということを何度も経験しました。

アイミツに負けない接客

店頭にブランド品の買取で訪れたお客さま。
私たちの店舗に来る前にすでに2社の見積もりを取っている、いわゆる"アイミツ(相見積もり)"の状態で、どうやら最高提示額は他社の見積もりのようでした。

担当になった私は、お客さまが持ち込んだ商品を鑑定しつつ、どういう思い入れがあって、どんな経緯で手に入れた物なのか? なぜその品物を今売りたいのか? などを会話の中からお聞きしていました。

買取ショップに持ち込むからには、少しでも高く売りたいというのは当然のニーズです。多少無理をして他社の値付けに対抗することもできましたが、私が考えたのは、「本当に今、売るべきなのか?」ということでした。

「今日売らない」という選択肢

手元にあるデータでは、そのお客さまが持ち込んだ商品は、今すぐ売るよりも少し時間をおいてから売れば高値がつきそうなものでした。

そのときの私はお客さまの事情をよく聞いた上で、「もう少しお手元に置いておいた方が、よりいい条件で買い取りできる可能性が高いです」と、「今日は売らない」という選択肢を提案しました。

お客さまは「今日売らない方が値段が上がる可能性があるの?」と驚いていました。

意を決して、当然今日売るつもりで持ち込んだ品物が、今日売らない方が得かもしれない。思ってもみない可能性に戸惑った様子でしたが、結果的にそのお客さまは、「あなたに売りたい」と、他社の見積もりを破棄して私に売ってくださいました。

正直な情報が結果的に功を奏した経験

なぜ売ってくださったのか?

そのお客さまが言うには、

買取価格でいえば他社の値付けの方がよかった。
でも、「今日売らない方がいいかもしれない」という、下手をしたら自分のチャンスをふいにするような提案をしてくれたことに興味を持った。
他の鑑定士は、買取価格をアップしてでもいますぐに売ってほしい! という態度を隠さなかった。もちろん売るつもりで来ているのでそれで構わないが、「売り時は今じゃない」という正直な情報を提示してくれたことがうれしかった。

「正直は最大の戦略」とも言われますが、「そんなこと教えてくれたのは嵜本さんだけ」と、価格の比較ではなく「あなたに売りたい」と言っていただけたのです。

移ろいやすい「機能的価値だけを見る顧客」とロイヤルカスタマーの違い

もちろん、そんなことはいいから高値をつけたところで売るという人もいるでしょう。しかし、私に売りたいといってくれたお客さまは、またブランド品を売るときに私を思い出してくれるかもしれませんし、接客時にはすでに、自分の家にある「売りたい物候補」を思い浮かべているかもしれません。

このときのお客さまは、「今売らない方がいい」という情報に対して、すぐ売るというアクションでしたが、実際にその日には売らずに、後日別の商品を持ち込んでくれ、その後も何度も"指名売り"をしてくださったお客さまもたくさんいました。

価格だけを基準にしている顧客は、やはり移ろいやすく、この先も「お店や人に売るのではなく買取価格が高いところで売る」という選択を続けるでしょうが、私の一風変わった提案や情報に耳を傾けてくれたお客さまは、リピーターからロイヤルカスタマーになってくれる可能性が高いのです。

競争に勝つには「競わない」こと

『なんぼや』でも『ALLU』でもそうですが、客前に立つバリューデザイナー(弊社では鑑定士のことをお客さまの価値をデザインする役割を重視してこう呼びます)には、こういう提案をどんどんしてもらっています。

機能的価値では、他社との単純比較になります。当然そこには「同じ土俵に立った競争」が生まれます。

結果もやはり機能的価値がより優れている方が勝つことになりますが、それはあくまで「便利」「お得」などの機能的価値が優れているからであって、どこまでいってもそれ以上でもそれ以下でもありません。

しかし、お客さま目線での提案、売らんがためではない接遇ができれば、お客さまはそこに情緒的価値を見出してくれ、物やサービス、企業や人への信頼が生まれるのです。

"いい社員"は情緒的価値を提示できる

私は、店長会議やALLUメンバーと一緒に行った未来会議でも頻繁に、この機能的価値から情緒的価値へのスライド、接客や接遇のマインドの改革を促しています

すべてのバリューデザイナーが、情緒的価値を正確に捉えて接客に当たれれば、私たちは他社との競合や競争を気にせず、新しい顧客、しかもリピーターになり、やがてロイヤルカスタマーになってくれる顧客を獲得できることになります。

これまでの企業では、社員を売り上げなど目に見える数字でしか評価していませんでした。しかし、今日お話したような情緒的価値を提供できる社員は、マーケティング、広告費を一銭も使わなくても、ロイヤルカスタマー見込みの新規顧客を獲得してくれるのです。

当然、バリュエンスグループでは目に見えづらい情緒的価値を含めた「接客・接遇の質」を評価するシステムを構築済みです。

方針を徹底するには正しい評価基準を

企業が新しい価値を求めて変化しているのですから、評価基準も大胆に変えなければ改革は進みません。

情緒的価値の重要性は、口で言ってもなかなか伝わりませんが、お客さまに提供した情緒的価値が、自分の評価につながればそれは実感として身についていくはずです。

企業で社員に新しい価値観を共有したいなら、"いい社員"の基準を示し、適性評価することが大切。

定量的に示しづらい価値が業績を左右する時代だからこそ、"いい社員"とはどんな社員なのか? を経営者が示す必要があると思います。

この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?