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インテリアショップであと数日でセールになる商品を買おうとして店員に止められた話

顧客のリテラシーが高まり、市場が成熟してくると機能的価値での競争が激化します。行き着く先は、利益を削った消耗戦。しかし、リテラシーが高まったということは、顧客に新しい提案ができるということでもあります。

これまでにない機能的価値をリユース業界に持ち込むことで先行者利益を得て成長を続けてきたバリュエンスですが、私は経営者として特にここ数年、お客さまに新しい価値を提供し、機能的価値だけで判断される現状を変えるために何をすべきかずっと考えていました。

その答えの一つが、情緒的価値の提供です。

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人は一日に3万5000回もの選択をしている

何かを選び取るとき、AとB二つの選択肢がある場合、何を基準にどちらかを選ぶのか?

みなさんも自身の決断を思い浮かべてほしいのですが、情報が溢れる現代社会では、何を選ぶにしても機能性、価格妥当性などの事前情報を検討することになります。

朝起きて出かける際に電車で行くのかバスで行くのか、それともタクシーを呼ぶのか。スマホを操作すれば、どの方法が早く目的地に到着できて、どの方法がコスパに優れているのか? があっという間にわかります。

出かけた先でも、ちょっと時間が空けば駅前にあるスタバに入るのか、ドトールにするか、カフェに入るという行動だけでも選択肢がたくさんあります

コーヒー一杯の値段、フードの種類、コンセントの有無、空間の快適さなど、自分の状況とニーズを鑑みてさまざまな機能的価値で「いま入るべきカフェ」を選ぶことになります。

細かなものも入れれば、私たちは一日のうちになんと3万5000回! もの決断をしているという研究結果もあります。

多くの人は実は損得や理屈では選ばない?

別の研究によれば、その決断のほとんどは、直感と感情によって下されていることもわかってきています。私たちは普段、3万5000回選択をしていることさえ意識していないので、無意識下の決断が直感によって行われているのは納得がいきます。

「直感に訴えるマーケティング」なども話題になっていますが、どんなに情報が溢れ、機能的価値を比較して理性的に選択しているようでも、人間の意志決定はどうしようもなく本能的だということかもしれません。

目につきやすい機能的価値と目に見えない情緒的価値

そこで情緒的価値の存在が重要になってくるのですが、はっきり目に見える機能的価値に比べて、情緒的な価値はそれがなんなのか端的に説明するのが難しいのも事実です。

「これからは情緒的価値を高めていこう」と全社的に号令をかけても、メンバーに情緒的価値を理解してもらうのはなかなか難しいというもどかしさがありました。

「これ、今日は買わない方がいいですよ」

つい先日のことです。
子どもの学習机を買いに、ある大手のインテリアショップに出向きました。
事前に下調べこそしませんでしたが、たくさんの候補が展示されている店内で、それこそ直感で「これええな」と思う学習机が見つかりました。

家族とも相談して、「これにしよう」ということになり、店員さんに声をかけました。

「少々お待ちください」
なんならカードを出そうかという勢いの私に待ったをかけるように、その店員さんはバックヤードに行ってしまいました。

「どうしたんやろ?」
そのまま手続きしてくれればいいのにと思いつつ店員さんを待っていると、しばらくしてその店員さんが戻ってきました。

「こちらの商品は今日は買わない方がいいかもしれません」
・・・ん?・・・どういうこと?

今日ではなく別の日に買った方がいいという不思議な提案の理由を聞くと、どうやらその商品は数日後から始まるセールの値下げ対象品で、あと何日かでもっと安い価格で買えるということなのです。

私は最初その店員さんが何を言ってるのかよく理解できませんでした。今日ほしいんだから売ってくれ! と怒り出す人もいるのかもしれません。でも私は素直にこの接客に感心しました。

目先の利益ではなく顧客目線で発想するサービス

セール前の値引き前に売れば、売り上げはその分大きくなります。
このショップの契約形態は知りませんが、自分の売り上げを多くするには今日売った方が絶対にいい。

そこであえてセールの情報を提示し、私に「セール対象になってから買う」という思ってもいなかった提案をしてくれたのです。

これまでにもこうした“サービス”を受けたことがあったかどうかは思い出せませんが、私はすっかりその店員さんのことが好きになりました。

後日お目当ての学習机を買うために名刺をもらい、その日も別のほしかったものをその人から購入しました。そしてまた家具を買うことがあれば、この店員さんから買おうと思いました。

「損して得取れ」という言葉がありますが、この店員さんは目先の利益を優先しなかったために、それ以外の売り上げを上げ、指名買いしてくれる顧客を得たのです。

私は別に数%の値引きのためにセールを待つことにしたわけではありません。この店員さんの接遇に心を動かされ、その店員さんの提案に従っただけなのです。

機能的価値の競争から解き放たれる瞬間

理論的に説明してもなかなか伝わらない情緒的価値とはこういうことではないか。

そのインテリアショップでは、センスのいい家具が揃っていますし、ディスプレイの仕方も凝っていて、自分の頭の中では想定していなかった商品を購入するような仕掛けもたくさんあります。

もちろん価格についても値頃感を意識していると思います。

機能的価値だけを見ても、私がここで買い物をする理由はたくさんあり、実際に過去にも何度も購入している“リピーター”でした。

この時点では私はこのショップにとっての“優良顧客”ではあったはずです。
しかし、それは機能的価値での比較の結果。私の基準でより機能的価値が高いショップがあればあっさりそちらで購入するようになるはずです。

しかし、この店員さんから受けた接遇は、私に「この人から買いたい」というモチベーションを生みました。

優良顧客とロイヤルカスタマーは違う

「優良顧客ではなくロイヤルカスタマーを」というのが、小売業のマーケティングの課題になっていますが、まさにあの瞬間、私はこのショップの優良顧客から、ロイヤルカスタマーになったのです。

こうした対応を社員教育で徹底するのはかなり難しいことは痛いほどわかっているので、おそらくこの店員さんが「大切なこと」を理解している優秀な社員だったのだと思うのですが、すべての店員がこのマインドで接客、接遇できれば、情緒的価値に基づいてあえてこの店で物を買ってくれるロイヤルカスタマーをたくさんつくることにつながります。

実のところ、リピーター程度なら他の人にこのショップを勧めたり、自分の体験を語ったりはしません。しかし、今回のような体験があれば、今まさに私がしているように「誰かにこの体験をシェアしたい」というモチベーションが湧き、頼まれてもいないのにその店員、お店が信用できる理由を拡散したくなるのです。

次回は、優良顧客とロイヤルカスタマーについてもう少し掘り下げたいと思います。

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