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常識はつくるもので、壊すもの。古物商オークションを変えたらそれが常識になった話~戦力外Jリーガー社長の道のり28

バリュエンスの強みの一つであるtoBオークションであるSTAR BUYERS AUCTIONにつながる主催オークションを始めた私たち

ですが、前回お話ししたように当初は『なんぼや』で買い取った商品を第三者が開催するオークションに出品して売っていました。


非効率な古物商オークション

そこは質屋以来脈々と続く古い体質のリユース業界のことです。参加してすぐに、“オークションの非効率”が目に付くようになりました。

「今の時代にこれはない」
そう思うことがたくさんあり、商習慣や伝統、つながりの大切さなどもあることを十分に承知した上で、それでも「自分たちでやった方がいい」という結論に至ったのです。

オークションといえば、クリスティーズやサザビーズなどのようなオークションハウスに集まり、札を挙げて入札額を競うイメージが強いかもしれません。

90年代後半にはとんねるずさんの『ハンマープライス』という番組があり、この番組が「物の価値、金額を自分で決めて入札する」オークションが広く知られるきっかけにもなりました。

あれはあれで、趣があり、また目的も違うので伝統として残っていくものだと思います。

ちなみに、番組内で象徴的に使われていた木槌=ハンマーは、中世ヨーロッパの裁判などに用いられたものと同じ役割で「注意喚起や秩序を求めるときに用いられる」ものだそうです。

業者間のオークション、当時は?

その後、Yahoo!オークションの登場で一気にカジュアル化したオークションですが、旧来の古物商業者間のオークションはこうしたみなさんがイメージするオークションに市場などの仲買人が行う競りの要素を強くしたものが主流でした。

市場の競りであれば、マグロの初競りのような初物でもない限り短時間で効率よく捌いていけるのだと思いますが、当時の古物オークションは、商品の価値やニーズに関わらず1商品にかかる時間は同じという非効率さでした。

どんなにすばやく落札したとしても、一つの商品に30秒はかかります。
どんなに多くても一日に3~4千点の商品を捌くのがやっとです。

私たちが参加したオークションでは大きい会議室を借りて当日に商品が届くように発送、もしくは当日に商品を直接持ち込んで、その場で売るという方式でした。

参加者はお目当ての商品が出てくるまで会場で待っていなければならず、数点の落札のために一日つぶすことになりかねません。

何かを変えたいなら自分たちでやるしかない

ネットが発達していなかったこともありますが、“現物信仰“のようなものもあるのか、とにかくすべてが物理的な取引に集約されていました。

希望金額も手書きで紙に書くというアナログ式で、「昔からこれでやっていた」「今のままで特に困っていない」という後ろ向きな理由で、何かを変えようという雰囲気は微塵もありません。

「これ、チャンスちゃうか?」

普通に考えれば、「ブランド買取専門店」を始めたばかりの新興勢力が、何のコネもなく古くからのネットワークで動いている古物商の世界でオークションを始めるのは無謀です。

経営の先輩でもある兄が「まずは既存業者と組んでやってみたら」とアドバイスしてくれたのも当然の話でした。

しかし、何かを大きく変えるなら、成功体験は過去に置いてきた方がいい。しがらみや悪弊を持ち込まずに、イチから別のものをつくった方が早いと感じたのです。

未来のために必要な変化

アメリカ合衆国第35代大統領、ジョン・F・ケネディは、「変化は人生の法則」と述べたうえで、「過去と現在しか見ない人は、確実に未来を見失う」と言っています。

「昔からそう」「今これでうまくいっている」は、未来を生きるための人生の法則から外れた言葉なのです。

当時は技術的に近代化できなかったのかといえば、実はそんなことはありませんでした。私たちも参考にした中古車の売買には、かなりデジタル化が進んだ全国規模の業者間オークションがすでにありましたし、不動産のデータベースなどもかなりIT化が進んでいました。

商習慣の違いはあれど、違う業界でできていることですから、変えるにしてもそう難しいことではないはずです。

それに私たちがやらなくてもいずれ時代の波に呑まれてリユース業界のオークションもデジタル化、IT化され、変化することは明らかでした。

結果的に私たちがその時計の針を少しだけ早く進めたかも知れませんが、現在のオークションはすべてオンライン化されていて、私たちが当初からそう設計したように、一つの商品が3秒から5秒で落札されるのが常識になっています。

このあたりの仕組みについては、事前に商品の写真を撮影してデータベースに放り込む、オンライン化で省力化するなど、現代を生きるみなさんなら「なんだそんな当たり前のこと?」と思われることしかしていません。

しかし、当時はそれをやろうという業者も人もいなかったというだけの話なのです。

オークションを主催することで「データドリブン」が可能に

ビジネス的に自前で始めるリスクよりメリットが大きいと考えたのは、「落札データを保有できること」でした。
第三者のオークションに参加しているときは、落札価格といういますぐに役立つ「生きたデータ」をみすみす他社に提供していました。

トレンドによる商品相場の変動、商品の需要、私たちにとっては「仕入れ」になる買取に直結する喉から手が出るほど欲しいデータが、他社に集積されている。しかも主催者であるその業者はそのデータや数字の重要性に気付いておらず、活用もしていない。

「それなら、データを取りに行くことも含めて自分たちでイチから設計して自前でオークションをやってみよう」

買い取ったブランド品をBtoBで売るという仕組み以上に、自分たちのコントロール下にあるオークションを持つこと(もちろん価格はコントロールできませんが)が重要だったのです。

つづく

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