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地域の体験をNFTにして関係人口を増やす、JAL・博報堂らが展開する「KOKYO NFT」(コラム)

NFTを通じて地域と人をつなぎ、“故郷”のような存在を育んでいく。そんな想いを込めた「KOKYO NFT」の実証実験を、日本航空(JAL)と博報堂の2社が中心になって進めています。

KOKYO NFTは各地域の体験をNFTにしたものであり、RWA(リアルワールドアセット)の一種です。2024年3月に実証実験の第2弾として、国内6地域にゆかりのある体験が商品化されています。KOKYO NFTで目指すことをJALの事業開発部戦略・企画グループの高橋翔アシスタントマネジャーと、KOKYO NFTで活用されている技術についてNFTロイヤルティプログラム「beyondClub」を展開するPONTの脇山雄気代表取締役CEOに話を聞きました。


「旅行して終わり」が「旅行前から旅行後もつながる」関係へ

――KOKYO NFTの実証実験はJALの事業開発部、博報堂のミライの事業室が中心になって進めていますが、どのような経緯でブロックチェーン技術の活用を検討することになったのでしょうか。

高橋:両社の該当部署はともに新規事業の企画・開発を担っています。この2社が参加していたプログラムを通じて、社会課題の解決につながるような事業を互いのナレッジを掛け合わせてできないかと考え、人口減少の解決手段として総務省が取り組んでいる関係人口創出に注目しました。人口が減っていく中でどうやって地域の関係人口を増やしていくか。エストニアの電子居住者(eレジデンス)も参考にしながら試案する中で、その地域の魅力をエネルギーとして、体験する権利をユーティリティにして提供することがブロックチェーン技術を使えばできるのではないか、というのが2023年2月に実証実験第1弾を始める前の議論でした。

――ブロックチェーン技術に限らず様々な技術がある中で、NFTに注目した一番の理由はどんなところでしょうか。

高橋:いくつか理由がありますが、一つは国内外の人たちに対してボーダレスに販売しやすい点です。2024年3月に開始した実証実験第2弾において、国外の人たちとのコネクションを持つPONTのbeyondClubにサポートいただいた点は非常に心強く感じています。また、ブロックチェーン技術は改ざんされにくいという特徴があります。そもそもKOKYO NFTはデジタル商品ではあるものの、ユーティリティそのものはリアルな体験であり、そのリアルとつながるコミュニケーションの場が大事だと考えています。KOKYO NFTのユーザーはDiscord(ディスコード)でリアルな体験の前から体験が終わった後も、地域の人たちや体験をともにした仲間とのコミュニケーションがとれる仕組みにしていきたいと考えています。こうしたことが実現できるという点から、我々はNFTでプロジェクトを前進させることに決めました。

実証実験第2弾では6つの地方にゆかりのある体験を取りそろえています

――KOKYO NFTのようなプロジェクトを、航空会社が進める意義をどのように考えていますか。

高橋:従来の航空会社では各地域を結ぶ航空券の販売営業に付随する業務が主でしたが、現在では地域の農産物や特産品を一緒に作るなど、地域のソリューションに資するものを提案することも一つの営業スタイルになっています。その意味で地域の関係人口を増やしていくKOKYO NFTのようなプロジェクトは、JALが進める意義があるところだと考えています。また今回は実証実験ですし、NFTのようなデジタル商品を取り扱うことでどのようなユーザーにアプローチできるかという、地域にとってもJALにとってもマーケティング的な側面が大きいです。私個人としては、地域の人たちにもユーザーにも喜んでもらえるようなプロジェクトにしていくことが重要だと思っていますし、必ずしもJALを使っていただくためのプロジェクトでなくてもいいのではという気持ちもあります。実際、空路を使わなくても都心からアクセスしやすい地域の商品もそろえています。

Astar zkEVMを活用し、誰にとっても使いやすいプロダクトに

――2023年2月に実施した実証実験第1弾では、三重県鳥羽市と鹿児島県奄美市に関係したKOKYO NFTを展開していました。今回の第2弾では北海道虻田郡洞爺湖町、茨城県水戸市、福井県越前市、福岡県柳川市、鹿児島県熊毛郡南種子町、鹿児島県奄美市の6つの地域に関係したKOKYO NFTをそろえています。第2弾では第1弾を経てどのような点を見直したのでしょうか。

高橋:第1弾の三重県鳥羽市は真珠、鹿児島県奄美市は奄美黒糖焼酎と、地域の特産品に関係した体験と商品をパッケージにしていましたが、特に三重県鳥羽市の商品は100万円と高価だったこともあり、マーケティングに苦戦しました。情報発信もJALのオウンドメディアやSNSなどに限られていたこともあり、デジタルネイティブの人たちや国外の人たちへのアプローチが十分ではなかったという反省もあります。前述の通り、PONTには国外の人たちも含めたコミュニティ運営のナレッジがあり、博報堂グループのインバウンド専門会社であるwondertrunk & co.とも商品化を中心に協業し、販売についてはSEEDERが担っています。関係各社と密にコミュニケーションを取りながら、地域の魅力を発揮できる体験を地域の人たちにも丁寧に説明しながら商品設計を進めてきました。第2弾は3万6,300円(以下、全て税込み)から44万円と、クオリティを担保した上で、できるだけユーザーにとって手が届きやすい価格で提供しています。

北海道虻田郡洞爺湖町のKOKYO NFTには、花火製造体験と洞爺湖で行われる「洞爺湖ロングラン花火」の開催期間中にプロデュースした花火を夜空に打ち上げる権利が付与されています(販売価格:3万6,300円)

――今回の第2弾ではKOKYO NFTの発行・販売にどのような技術を使っているのでしょうか。

脇山:イーサリアム(Ethereum)のレイヤー2ブロックチェーンである「Astar zkEVM Powered by Polygon(以下、Astar zkEVM:アスター ジーケーイーブイエム)」上にてNFTを発行・販売しています。Astar zkEVMは2024年3月にローンチされたばかりのブロックチェーンですが、Polygon CDK(ポリゴンブロックチェーンの開発ツール)を採用して開発され、イーサリアムのレイヤー2で、EVM等価性を持つため、beyondClubが持っているアセットをほぼそのまま活かすことができています。また、手数料となるガス代コストを安く抑えられるほか、SNSアカウントを使用したソーシャルログイン機能、クレジットカードでのNFT決済機能など、Web3にあまり親しみがない人でも手に取りやすい仕組みになっています。Astar NetworkとはAstar zkEVMのローンチ前からツールの開発について密にコミュニケーションを取ってきましたし、今後も日本から世界へと、グローバルマーケットをともに展開していけたらと考えています。

KOKYO NFTにおける各企業の担当領域

大手企業がNFTの実証実験をする意義

――今後、KOKYO NFTでどんなことができたらと考えていますか。

脇山:今回の実証実験第2弾では、ダイナミックNFTを活用したプロモーション施策である「ORIGAMI NFT」も実施していますが、状況が許せばKOKYO NFTもダイナミックNFTにできたらという想いはあります。ORIGAMI NFTは2024年2月5日~3月17日の期間限定で、ミッション(クエスト)を達成していくことで折り紙をデザインしたNFTの画像が変化し、7つのミッションを全て達成して折り鶴を完成させると、KOKYO NFTの優先購入権がプレゼントされるというものです。ミッションはアンケートに答える、公式X(旧:Twitter)をフォローするなどと簡単なものです。現状のKOKYO NFTはダイナミックNFTではありませんが、今後、Discordに参加する、地域の特産品を体験するなどオンライン・オフラインのミッションに応じてNFTが進化していき、その進化のランクに応じて割引や限定コミュニティに参加できるなどの特典が付与されるような取り組みもできれば、地域との関係人口の増加や深化につながっていくのではと考えています。

高橋:今回は実証実験ということもあり予算の兼ね合いから見送ったものもありますが、ユーザーの反応はぜひ次のプロジェクトに生かしていけたらと考えています。そのためにもまずは国内外の幅広い層をターゲットにしながらKOKYO NFTについての情報発信を進め、どのような人たちからリアクションがあるのか検証する必要があります。JALにとってもNFTを展開する6つの地域の人たちにとっても、ブロックチェーン技術を活用したデジタルネイティブな人たちへのアプローチはKOKYO NFTが初めての取り組みですし、色々な可能性を探っていきたいと考えています。

茨城県水戸市のKOKYO NFTには、水戸市にある明利酒類が展開する希少性の高い火入れ前の日本酒「雨下-uka-の生酒」を酒蔵で味わえる体験が付与されています(販売価格:8万円)

――最後に、大手企業がKOKYO NFTのようなブロックチェーン技術を活用したプロジェクトを実施する意義をどのように考えていますか。

高橋:体験や現実資産をNFT化したような新しい商品を展開するには、ナレッジだけではなく企業体質的な課題もあると考えています。今回、JALだけではなく複数の企業が協業してプロジェクト化しているのにはその理由もあります。今回のような実証実験を重ねていく中で私自身も知見を深めていき、社内外の人たちに「こうした活用の仕方もある」「こうした可能性がある」ということを伝えていくことが大事なのではと思っています。今後、NFTの汎用性がさらに高まった時にすでに社内にナレッジを蓄積できているというのは、企業の強みになると考えています。

脇山:多くの業界がブロックチェーン技術を活用したプロダクトの開発に取り組んでいますが、新しい技術であるゆえに現時点では明確にその効果を証明しづらいという意味でも、企業によってできること・できないことはあるでしょう。PONTでもbeyondClubを提供するだけではなく、ライセンス契約をしてNFTの発行・販売などの業務なども担うケースが多いです。NFTが広く一般の人たちにも触れられるようになったのがここ2~3年だと思いますが、活用方法としてNFTの配布に留まっているケースが多いようです。今後はKOKYO NFTのように、体験や現物資産などの価値(ユーティリティ)やコミュニティに紐づいたユースケースが増えていくのではと考えています。PONTとしては、NFTを活用したプロモーションや会員証プログラムのパッケージなどを用意し、企業に対して簡単かつ迅速に実証実験やキャンペーンをサポートするとともに、制度や法律についてはその都度、弁護士などの専門家に相談しつつ、ユーザー一人ひとりの手に届くプロダクトを世に出していけたらと考えています。


取材協力:日本航空株式会社

1951年創業。国内・国際航空運送事業(旅客、貨物)を主軸に、2023年3月現在、JALグループで国内線133路線、国際線66路線、計199路線を就航しています。事業開発部では、未来の街づくりを目指した日本企業と国内外のスタートアップの事業共創プロジェクト「SmartCityX」への参画をきっかけに、博報堂と体験型NFT「KOKYO NFT」について協議を続け、実証実験の第1弾を2023年2月、第2弾を2024年3月に展開しています。

取材協力:PONT株式会社

2021年創業。NFTを活用したロイヤルティプログラムを構築する「beyondClub」の提供をはじめ、NFTマーケットプレイスの開発やNFT関連のコンサルティング、ブロックチェーン技術に関する受託開発などを担っています。

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