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NFTはコレクター市場にどんなビジネスモデルをもたらすか(コラム)

現在、NFTの最も大きな活用方法は、デジタルデータのコレクターアイテム化であるといっても過言ではありません。初期はNFTアートがこの市場を開拓し、2021年にはネット上でBeeple(ビープル)として知られるアーティストMikeWinkelmannの「Everydays―The First 5000 Days」が約75億円で落札されるなど、大きな盛り上がりを見せました。そこで、NFTニーズを支えるコレクター市場についての概況を紹介します。


コレクション市場とは

昔から人はモノを集めてきました。例えば、戦国大名が茶道具を集めていたことはよく知られています。近現代に入ってからは、切手やレコードなど、趣味や文化的意味合いのあるコレクションが多かったように思われます。近年では、トレーディングカードや、マンガ、フィギア、スニーカー、化粧品や化粧道具、更には御朱印まで、コレクションの多様化が進んでいます。これらの中には、従来の価値観であれば子供っぽいとされるものを大量に買いあさる、いわゆる大人買いの対象になるようなものも多いです。

趣味としてコレクションを見ると、大きくは狩猟型と農耕型に分類できると考えられます。狩猟型は限定品を何とか手に入れようとする過程を楽しむタイプであり、農耕型は見て癒されるために手許に置くこと自体を目的とするようなタイプです。なお、一般に農耕型と思われる化粧品やバッグも、限定の新作を何とか手に入れようとする狩猟型のコレクションの仕方をされる場合があり、アイテムのタイプ分けは固定ではありません。

また、コレクションは単に個人で楽しむだけのものではありません。多様な価値観がある中で、自分以外にも「分かる」人がいて、語り合うことで楽しみを共有できると、コレクションを集める意味、楽しみは増します。即ち、コレクションにはソーシャル性があると言えます。

例えば、前述の戦国大名が集めた茶道具は、背景に「うんちく」があり、レアな品を持つことは社会的地位も示していました。コレクションのソーシャル性を示す一例と言えるでしょう。このソーシャル性がSNSの浸透により高まり続けていることで、市場としては拡大を続けています。

コレクション市場の規模

多様化するコレクション全体の市場規模は、正確に推定することが困難です。しかし、例えば日本玩具協会の資料を見ると、トレーディングカードの国内市場は2008年度の800億円弱から、増減を繰り返しながら2020年度には1,200億円超へと1.5倍以上となった後、コロナ禍の2021年度には前年比46%増の1,782億円へと大幅に拡大しました。遊戯王やポケモンなど有力IP(キャラクター)を中心に、海外コレクターによる購入や、希少性の高いカードのコレクション需要が高まり、中古市場が拡大したことが背景にあると見られます。

トレーディングカードの国内市場の推移(出典:日本玩具協会ウェブサイトより野村證券作成)

足元では、レコードの生産金額が再拡大している点も注目されています。音楽を聴くという観点では、1980年代後半にレコードは地位をCDに取って代わられ、衰退しました。そしてこの数年で音楽配信の定額課金(サブスクリプション)サービスが台頭し、CDも売れなくなっていました。そうした中で、レコードの生産金額が増加に転じています。アナログならではの音の響きの良さだけではなく、大きなジャケットからアーティストの世界観を楽しむなどの理由で、買い集める大人が増えていることが背景にあると考えられます。

レコードの国内市場の推移(出典:日本レコード協会ウェブサイトより野村證券作成)

「デジタル」のコレクション市場の台頭

コレクションは、有形の「モノ」に限りません。パソコンで画像や動画、音声など、何らかの「デジタルデータ」をため込む、つまりコレクションする人も多いです。ただ、デジタル上のコレクションは、デジタルの特性上コピーが容易なため、作り手に対価が還元されにくいという課題がありました。また、特定のゲームの中だけで使えるアイテムは、通常、経済性が乏しいです。

そうした中、デジタルデータの唯一無二性を証明できるトークンとして、NFTに注目が集まっています。「「NFT」の基礎知識」の単元で解説したように、NFTはオンチェーンとオフチェーンの双方に記録されたデータで構成されていることが多く、ブロックチェーンにより保証されているデータはNFTの中でも一部分ではありますが、一般にその認識は広がらないままに市場での取引が先行している点に注意が必要です。

現在までのNFTの盛り上がりは、値上がり後の転売を見込んだ投機的な取引が大きく影響していると考えることもできます。その一方で、クリエイターの世界観に共感して購入、コレクションされるNFTアイテムも存在感を強めています。メタバースなどの新しい展示・表現の場が増えることで、商品本来の価値が高まり、安定した市場発展が期待されています。

また、デジタルであることの強みを活かしたNFTの展開として、何らかのデジタル作品の二次創作を行う折に、オリジナル創作者(コレクター仲間の言い方では「公式」)へ価値を還元しやすくなることも想定できます。

例えば、あるキャラクターが活躍する野球マンガをベースに、そのキャラクターがサッカーをする二次創作マンガを作るとします。そのキャラクターの創作者(公式)へ申請し許諾を得られれば、公認の”お墨付き”を得ることができます。また、売上の一部をオリジナル創作者(公式)へ還元するプログラム(スマートコントラクト)を組むこともできます。こうした許諾取り付けなど、二次創作をスムーズに手掛けるサービスのビジネスチャンスも考えられます。

例えば、模様やデザインをスキャンしてNFT化し、デザインを元にデジタル着物を二次創作する、更にはデジタル着物を着た人物画をNFT化する、といった取り組みが想定されます。模様やデザインそのものに価値を感じるコレクターがNFTを購入するケースもあれば、着物を二次創作したクリエイターや着物を着た人物画のクリエイターの国内外のファンがNFTを購入、コレクションすることも考えられ、ビジネスの広がりを期待できます。

拡散性か希少性か、デジタルの強みを殺すNFTのジレンマを考える

最後に、NFT化されたデジタルアイテム市場が、一部のファン向けの市場を超える際の課題について解説します。

そもそもデジタルコンテンツは複製や在庫管理、流通に係るコストが物理商品と比較すると、かなり低予算で済むというメリットがあります。つまり、デジタルコンテンツは欲しい人に欲しい分だけ、いつでも販売することができます。加えて、コンテンツはその世界観を共有できる仲間がいればいるほど、体験価値を増していくという特性があります。まとめると、デジタルコンテンツは広がれば広がるほど、販売元もファンもメリットを享受できるビジネスとなっています。

一方、NFTビジネスは基本的に、保有できる人を減らすほど希少価値が高まる商品設計になっています。つまり、本質的な部分でデジタルコンテンツとNFTでは価値の源泉が相反します。例えば、「鬼滅の刃」の続編を限定10,000人にしか販売しないと想像してみれば、かなりビジネスチャンスを逃しているということが直感的に理解できるでしょう。

そうなると、NFTとして販売されるデジタルコンテンツは、一般には普及しないニッチなものにならざるを得ないという構造的なジレンマを抱えることになり、この構造上の問題がNFTによるデジタルアイテム市場の限界を規定していると考えられます。逆に言えば、このジレンマを超える新しいビジネスモデルや、希少性と拡散性をうまくコントロールできる仕組みがあれば、NFTは今以上に多くのファンに求められるデジタルアイテムになることが期待されます。



制作:Web3ポケットキャンパス教材制作チーム
制作協力:野村證券(池内一)


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