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資金調達_#2:「ICO」の基礎知識と法規制

ICO(Initial Coin Offering)について明確な定義はないものの、一般に、企業などがトークンと呼ばれるものをブロックチェーン上で発行して、公衆から法定通貨や暗号資産を調達する行為の総称とされています。

この広義のICOでは、トークンを介した資金調達という趣旨で、STO(Security Token Offering)やIEO(Initial Exchange Offering)も含んだ意味を持ちます。ただし本教材では、STOやIEOとの比較で理解が進むように、「資金決済法上の『暗号資産』に該当するトークンを自ら販売して資金調達する方法」という狭義のICOと整理して解説します。


ICOブームで起きた懸念とその後の法規制

ICOは、IPO(新規株式公開)等の資金調達手段と比較すると、ブロックチェーン技術を活用することで簡便で迅速な資金調達が可能となります。また、IPOでは企業運営や経営判断などにおいて株式会社の最高意思決定機関である株主総会の影響を大きく受ける一方で、ICOではトークン保有者が増えたとしても経営への直接の影響力を持たない形で発行することもできるため、調達後にも経営の自由を保持できるなどのメリットがあったことから、2016年頃よりICOブームとなりました。

The DAOというプロジェクトが資金調達を行った2016年頃からICOが注目を集め、ICOによるトークン発行件数(総調達額)は、2016年が51件(約1億米ドル)、2017年が453件(約66億米ドル)、2018年が1,072件(約215億米ドル)と増加していきました(出典:国立国会図書館「調査と情報―ISSUE BRIEF―」No.1038(2019.2.14)「仮想通貨技術を利用した資金調達―ICOの規制をめぐる動向―」国立国会図書館 調査及び立法考査局財政金融課飯田晃子2~3頁)。

資金調達側にとって手続きが簡便であるということは、他方で、利用者保護が不十分であるということでもあります。そのため、ブームになるにつれて、詐欺的なプロジェクトも現れるなど、問題点が顕在化していきました。

このような流れを受けて、2019年に資金決済法等が改正され(施行は2020年)、ICOに対する法規制が明確化されました。

暗号資産とは

ICOについて解説するにあたり、改めて暗号資産について簡単に触れておきます。暗号資産とは、金銭及び通貨建資産に該当しない決済手段等の機能を有する財産的価値のことです。不特定の者との間で決済手段として機能するトークンで、価値が法定通貨に固定されていないものとイメージするといいでしょう。なお、価値が法定通貨に固定されているものは「電子決済手段」となります。正確な定義を知りたい方は、以下の資金決済法2条14項をご参照ください。

14 この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法第二十九条の二第一項第八号に規定する権利を表示するものを除く。
一 物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨、通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

FT(Fungible Token、代替性トークン)であれば必ず暗号資産に該当するというわけではありませんが、パブリックブロックチェーン上でFTを発行する際には該当する可能性があるため、発行に当たっては、暗号資産に該当するかを確認する必要があります。なお、「仮想通貨」という名称の方が聞きなじみがあるかもしれませんが、2019年の資金決済法の改正(施行は2020年)により、仮想通貨から暗号資産へ名称が変更されています。

暗号資産交換業の登録

自分たちが発行するトークンが暗号資産に該当し、自らそのトークンを販売して資金調達する場合、原則として暗号資産交換業の登録が必要となります。業として、暗号資産を売買することに該当するためです。

暗号資産交換業の登録では、以下のような点について登録拒否要件に該当しないか、詳細に審査されます。

・組織形態
・財産的基盤
・法令等遵守体制の整備
・社会規則の整備及びその遵守体制の整備
・他の暗号資産交換業者と誤認される商号を用いていないこと
・過去5年間に登録を取り消されたことがないこと
・過去5年間に廃止の命令を受けていないこと
・過去5年間に罰金の刑に処せられていないこと
・他に行う事業が公益に反しないこと
・取締役等に不適格者がいないこと

登録審査で問われる詳しい内容は、金融庁が公表している「暗号資産交換業者の登録審査に係る質問票」をご参照ください。登録に求められる内容は高度で多岐にわたり、暗号資産交換業の登録はハードルが高いものになっています。

ガイドラインと自主規制

暗号資産交換業者として、ただ法律を守ればいいというものではありません。金融庁が定める暗号資産ガイドラインには、ICOを行う暗号資産交換業者を監督するに当たっての留意点・着眼点が示されています。それを受けて、日本暗号資産取引業協会(JVCEA)はそのガイドラインに沿って、より具体的な自主規制規則を定めています。これらは法律ではないものの、実務においては事実上、法令に準じた存在になっています。

暗号資産ガイドラインや自主規制規則では、ICOを実施する際、利用者保護の観点から以下のようなことが求められています。

・対象事業やトークンの審査・検証
・トークン購入者への情報開示
・調達資金の適切な管理
・システムの安全性の検証
・販売価格の妥当性の審査

法整備後、ICOが増えていない理由

株式などとは違い、ICOにはトークンの設計に自由度がある魅力があります。トークンを通じてプロジェクトへの参加や貢献を促し、強固なコミュニティの形成が期待できます。とは言え、ICOを実施するには、資金面、人的面、ハード面などで強固な基盤が必要となります。

また、ICOは法規制によって利用者保護が進んだ半面、資金調達の簡便さは失われたとも言えます。このように、ICOによる資金調達は、メリットとデメリットのバランスを欠いているところがあり、法規制後、狭義のICOは実施されていないというのが現状です。


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