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地方創生×Web3で価値創造を 「ファン向けデジタル会員権」の実証から見えたこと(コラム)

ファンベースカンパニーと岩手県紫波(しわ)町は2023年10月、Crypto Garageの技術支援のもと、紫波町ファンとの共創および新たな財源確保を目的とした「ファン向けデジタル会員権」の実証及び体験会を実施しました。地域コミュニティの活性化や地方創生に向けたプロジェクトにWeb3・ブロックチェーン技術をどう活かせるのか、今回の紫波町との取り組みについてファンベースカンパニーの池田寛人(ひろと)CFO兼コミュニティ事業部長とCrypto Garageの加藤岬造(こうぞう)Chief Business Officerに話を聞きました。


デジタル会員権で広がる可能性

――実証・体験会の実施にあたり、ファンベースカンパニーと紫波町との間ではどのような議論があったのでしょうか。

池田:「紫波町が好き」「一緒に何かしたい」と感じてくれるようなファンを大切にし、そんなファンとともにまちづくりに取り組んでいきたいという紫波町の思いを受け、2020年からファン分析やファンとの関係性を強化する施策に取り組んできました。今回の実証・体験会では更に一歩踏み込んで、ファンから集めた資金で紫波町の新たな価値を共創していく方法を議論し、デジタル会員権の発行、体験会の運営、体験会参加者へのトークン発行などを行いました。

――今回のプロジェクトの中で具体的にブロックチェーン技術が活用されたのはどの部分でしょうか。

池田:体験会参加者の貢献に応じて付与するトークンの管理・発行において、Crypto Garageが提供しているブロックチェーン技術を活用しました。“トークン”という言葉を使っていますが、実際はNFTのことです。ただ、参加者がブロックチェーン技術であることを意識せずにトークンを受け取ることができるオペレーション検証も兼ねていたため、ブロックチェーン特有の言葉を極力使用しないことも意識しました。また、今回はあくまでも実証実験だったこともあり、デジタル会員権はHTMLで書き出したペーパープロトタイプで、ファンからは資金を集めていませんが、将来的にはデジタル会員権をNFTにした上で資金調達が可能な仕組みにしたいと考えています。

――将来的にはデジタル会員権をNFTにして資金を集めることも目指しているとのことですが、財源を確保する手段としてはクラウドファンディングやふるさと納税などという方法がすでにあります。そうした中で、ブロックチェーン技術を活用して実施する意義はどんなことだと考えていますか。

池田:ブロックチェーン技術を活用すれば、一気に世界にアクセスでき、世界中のファンとダイレクトにつながる可能性があります。国を越えた資金調達は各国の金融関連規制が適用されてしまうため、世界の共通基盤であるブロックチェーン技術を活用するメリットが大きいと考えています。

加藤:ブロックチェーン技術はそもそも、他者とのコラボレーションの余地や外部との接続の可能性、一言で言うなら「コンポーザビリティ」が実現しやすくなる技術です。今回のプロジェクトでは“地方”というのが一つのキーワードになっていますが、地方の課題解決の一つの手段としてブロックチェーン技術を活用することで新たな道が開ける可能性があることに、私も非常に共感しています。

池田:将来的な話になりますが、コンポーザビリティの具体例として、デジタル会員権をNFTにすることで、タイプの近しいファン同士のつながりを生み出していくことができると考えています。ファンベースカンパニーでは300以上のプロジェクトへの伴走を通じて伴走ファンの分析データを蓄積しており、今回のデジタル会員権についても、ファン分析のデータに基づき、紫波町ファンのタイプに合った設計をしています。例えば、「A社とB社のファンタイプに共通点が多いのであれば、A社のファンがB社のファンにもなる可能性が高い」という仮説も立てられるでしょう。こうしたファン分析に基づくデータをNFTに紐づけ、A社のNFTを持つ人がB社のサービスを利用すると特別な体験が受けられるなどの取り組みができれば、ファンが新たな「好き」に出会う機会を増やしていくことができます。また、企業や地域にとってはファンが喜ぶ形で相互送客やプロモーションを実現することができるでしょう。

デジタル会員権はファンベースカンパニーが実施したファン分析をもとにして設計されています

――体験会参加者に対してトークンを付与することで、どのようなことを検証しようとしていたのでしょうか。

池田:「まちづくりに貢献したい」という強い気持ちがあるファンに対して、貢献した証をトークンとして可視化することの効果を検証できればと考えていました。満足度が高ければ、貢献の可視化によってまちづくりに貢献したいという気持ちが高まるでしょうし、他のファンにとっては自分も貢献したいという気持ちが芽生えるきっかけにもなるでしょう。

ブロックチェーンとシームレスなウォレットでNFTを保存

――今回のプロジェクトはどのような流れで進んだのでしょうか。

池田:紫波町の2023年度事業計画の中でデジタル会員権の構想が生まれ、同年8月のファンミーティングにおいてファンからデジタル会員権の体験アイデアを募集しました。同時並行でCrypto Garageのシステムである「mahola wallet(マホラウォレット)」と「mahola api」を用いて、デジタル会員権と体験会参加者に付与するトークンの企画・開発を進めました。プロジェクトを進める上での役割分担としては、ファンベースカンパニーがファン向けデジタル会員権や体験会の全体設計並びにUI・UXを含めたデザインを担当し、Crypto Garageがブロックチェーンへの組み込みやデジタル会員権の実装、トークンの管理・発行などを担当しています。9月下旬に紫波町ファンに体験会への参加を呼びかけ、10月29日に紫波町産の米を活かした産品づくり体験や東根山の森林ツアー体験などの体験会を実施。最後に、資金を集めてこれからどんなことを実現していきたいか議論するワークショップを開き、イベントごとに参加者に対してトークンを付与しました。

体験会では魅力発掘イベントとして、市民インストラクターによる森林ツアーが開催されました

――mahola walletとmahola apiにはどんな特長があるのでしょうか。

加藤:maholaサービスは、ブロックチェーン技術であることを利用者に気づかせることなく、慣れ親しんだウェブサービスと同じ感覚で利用できることをコンセプトにしたブロックチェーン・バックエンドサービスです。例えば、トークンを保存するにはウォレットが必要になりますが、なかにはウォレットを持っていない人もいるでしょう。そんな時に便利なのが秘密鍵の管理サービスであるmahola walletです。今回のプロジェクトで言うと、ウォレットがウェブサービスと統合されているため、ユーザーはウォレット機能を意識することなくブロックチェーン上のトークンを受け取ることができます。NFTプロジェクトやWeb3サービスの構築・運営をサポートするmahola apiも同様です。NFTマーケットプレイスの構築やトークンゲートの実装、スマートコントラクトの操作などを、ブロックチェーン開発ナレッジを必要とすることなく構築・運営ができるようになっています。

将来的にはふるさと納税とかけ算した仕組みも

――体験会参加者へのトークン付与を含めた今回のプロジェクトについて、参加者からはどんな声が届いていますか。

池田:参加者のほとんどが紫波町民だったのですが、ファン同士のコミュニケーションを通じて長く紫波町に住んでいても知らなかった発見があったようで、改めて紫波町の魅力を実感した人が多かったです。また、貢献の証を可視化するトークンに対する参加者の満足度は高く、体験会前後でファン度(ファンの熱量を計測するためにファンベースカンパニーが開発した独自指標)を計測したところ、参加者全員のファン度が高まっていました。

――今回のプロジェクトは地方創生と言われる取り組みの一つだと思いますが、今後、地方創生に関してブロックチェーン技術を活用しながらどんなことに取り組んでいきたいと考えていますか。

池田:自治体に限らず、地域に根差した企業も対象にしながら、地域の“ファン株主”のような概念を形にしていけたらと考えています。ファンベースカンパニーがファンコミュニティを設計・運営する上で、ファンとの関係性を強化するためのつながりの証としてデジタル会員権を活用することは、ファンにとっても特別な体験になり、実現可能性も高いと考えています。更に、ふるさと納税を活用してデジタル会員権を発行したり、ファンとの共創で生まれた商品・サービスの開発費をふるさと納税型クラウドファンディングで集めたりなど、資金を集めやすい仕組みとのかけ算も可能になると考えています。

加藤:Crypto Garageとして地方創生にどう関わっていけるのかを考えるいいきっかけになったと感じています。Crypto Garageでは技術が社会のためにならなければ意味がないと考えており、企業の課題解決はもちろん、本質的かつ直接的に社会のためになる活動とは何かを探究してきました。中途半端な関わりだけだと本質的な価値が伝わらず、あまりいい方向にはならないかもしれないという懸念もあり、これまで地方創生と距離を置いてきたところがあります。今回のプロジェクトをファンコミュニティに精通したファンベースカンパニーと一緒に取り組む中で、地方創生においてCrypto Garageがやりたかったことが実現できる可能性を感じました。今後、プロジェクトの幅を広げるためには、何をトークンとして表現し、何をブロックチェーン上に載せるか、更なる議論が必要だと思っています。


取材協力:株式会社ファンベースカンパニー

『世の中に「好き!」を増やしていく』をミッションに掲げ、「ファンベース」という概念を正しく誠実に広めるため、2019年5月に発足した野村ホールディングス株式会社、アライドアーキテクツ株式会社、佐藤尚之3者の合弁会社です。 ※ファンベース/fanbaseは、株式会社ファンベースカンパニーの登録商標または商標です。

取材協力:株式会社Crypto Garage

ブロックチェーンテクノロジーをベースに国内規制に準拠した、法人向けデジタル・アセット金融サービスのプロフェッショナル集団です。暗号資産業者間市場における取引の媒介・決済サービス「SETTLENET(セトルネット)」を始め、ブロックチェーン・バックエンドサービスやスマートコントラクト実装などのソリューションの提供や、Bitcoinやライトニングネットワークなどに関する研究開発など、様々なサービスを展開しています。

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